あのね。special version 1 ~月の光に~
藤澤 琉生。
彼は、私の大好きな人だ。
そして、大人気のアイドルデュオ SUNNYのメンバーで、私の推しでもある。
彼と私は、約束をした。
それぞれに、一生懸命生きて、いつかきっとお互いに会いに行くこと。
どちらかがどちらかを待つとか、待たせるとかではなく。
今だ! っていう日が来たら、きっと会いに行く。
でも――現在、彼は東京、私は大阪。
遥か遠くに離れて、会うこともできない毎日だ。お互いの連絡先も知らない。(彼の所属事務所の方針で、個人的な連絡先を交換することはできないのだ)
それでも、私と彼には、秘密の連絡手段がある。
それは、小説投稿サイトで、お互いの作品や近況報告の欄にコメントを残し合う、というやり方だ。
もちろん、つっこんだ個人的なことは書けない。でも、その日感じた自分の気持ちをささやかでも伝えることはできる。
『SUNNY アカペラCD企画 進行中!』
今日、私は、ネットでそんなニュースを見た。
100%無伴奏の、CD。
合唱曲などや、アカペラグループのものは聞いたこともあるけど、彼の事務所の先輩たちには、そんなCDを出したグループはいない。歌唱力の高さも声の魅力もどちらも必須条件だから、なかなか難しいのだと思う。
彼らは、今、いろんなことにチャレンジしている。
この前のライブでは、事務所の先輩グループの楽曲を数曲カバーしていた。それも、メジャーな曲ではなく、例えばシングルCDの初回限定版にだけ入っていて、ライブでも歌われたことのない、ほとんどファンしか知らない、でも、みんなに知ってほしいとファンが願っているような名曲たちだ。
「大好きで、いつかライブで聴きたいってずっと思ってたんです。ほんとに大好きな曲だから、今回、自分たちのライブで歌わせてもらえることになって、すごく嬉しいです」
琉生は、インタビューで嬉しそうに話していた。その中には、当然HSTの曲も入っている。
すごく話題になったのは、一度、SUNNYのライブに見学に来ていた、妹尾 圭が、HSTの曲の演奏のときに、飛び入りで一緒に歌って、ファンを大興奮させたことだ。
そのとき、歌い終わった、妹尾 圭が、
「この曲は、僕も大好きな曲なんだよ。今まで、ステージで歌うチャンスがなかったこの曲を、こうしてみんなの前で歌ってくれてありがとうね」そう言ってほほ笑み、
「いえ、こちらこそ一緒に歌えてすごく嬉しかったです」琉生が応え、そのあと想太が、
「とうちゃん、ありがとう。大好きなこの曲を3人で歌えて、オレ、ほんとに、めっちゃ嬉しい」と言って少し涙ぐんだ姿は、ライブ翌日の芸能ニュースで流れていた。
他にも、彼らがライブで歌ったことでその曲が注目を浴び、もともとそれを歌っていた先輩グループのライブでも初めてセットリスト入りする、などということも起きたようだ。
ファンにとっては懐かしく大好きな曲たちに新たに光を当ててくれた、琉生と想太に感謝して、さらに彼ら2人のファン層は広がっているらしい。
琉生の優しく柔らかな、少し低めの声、想太の伸びやかで、活き活きとした少し高めの声、その2人の声が合わさると、絶妙なハーモニーになる。
気持ちのいい声。心地いい声。癒される声。美しい声。温かな声。優しい声。元気の出る声。
彼らの声への評価は、本当に様々で、そのどれもが当てはまる気がする。
夜寝るときに私は彼らのCDをかけ、その心地いい声に癒されながら眠りにつく。
でも、時々、伴奏の楽器の音が耳を刺激するように感じるときがある。昼間は大丈夫だけど眠りにつこうとするときには、声だけの方が気持ちいい気がする。
そのことを、私は、以前小説投稿サイトの近況報告に書いた。
『大好きな声だけを聴きながら、眠れたら最高なんやけど』
そう書いた翌日、
シマちゃん(琉生だ)は、
『自分も試してみましたが、夜眠りに入るときには、たしかに、人の声だけの方が耳に優しい気がしますね』
そうコメントしてくれた。
そうか。試してみてくれたのか。
離れていても、彼はちゃんと私の言葉を気にかけていてくれる。
そう思うとすごく嬉しかった。
そして、今日のニュースだ。
100%無伴奏のアカペラのCDミニアルバム制作中という発表だ。発表と同時に、今晩、中の1曲をネット配信するという。
記事には2人のコメント動画も載っていた。
「人の声の心地よさを存分に味わってもらえるCDになると思います」と琉生。
「寝る時にぜひ聴いてください。たぶんすぐ眠れます。あ、でも、それやと、いつまでたっても最後まで聴いてもらわれへんやん。困るやん」
想太が笑いながら言って、
「ほんまやね。じゃ、あの、寝る時だけじゃなくて、昼間もぜひ聴いてください。2曲目以降もええ曲入ってるんで」
琉生が、やわらかな関西弁で言った。
ということは、1曲目で寝てしまう可能性あるってこと?
ふふ。すごい自信?やね。
楽しみやな。1曲目で眠りにつけるCD。いいかも。
それにしても。
ほんとに、すごい。
次から次へと、彼らはチャレンジし続けている。
一生懸命生きてるんやね。
先輩たちの通った道をそのまま辿るのではなく、自分たちの歩きたい道を2人で、しっかりと選びながら進んでる。
それも、すごく楽しそうに。
カッコいい。
彼らのカッコよさは見た目だけじゃない。
うん。
私も、ちゃんとしっかり歩こう。
自分でちゃんと考えて、選んで、前に進もう。
太陽のように眩しい、彼らの姿に圧倒されてばかりじゃいられない。
藤澤 琉生。
彼は、私の大好きな人だ。
そして、大人気のアイドルデュオ SUNNYのメンバーで、私の推しでもある。
彼と私は、約束をした。
それぞれに、一生懸命生きて、いつかきっとお互いに会いに行くこと。
どちらかがどちらかを待つとか、待たせるとかではなく。
今だ! っていう日が来たら、きっと会いに行く。
彼らの活躍の記事を読み終え、私は窓辺に座って部屋の窓を開けた。
濃紺の空に月が見える。
どんなに離れていても、この空は、ちゃんと彼につながっているのだ。
今見ているこの空を、彼も見ているといいな。そんなことを思う。
月は少し高い位置で、冴え冴えとした透き通るような金色の光をまといながら、やわらかなクリーム色に輝いている。
なんだか優しい琉生のほほ笑みを思い出すような、そんな美しい月だ。
そう言えば、と思い出す。
夏目漱石が、I love you.を日本語で『月が綺麗ですね』と訳した、なんていう逸話を聞いたことがある。(ほんとに言ったかどうかは不明だ)
でも、そんな話を、以前琉生としたことがあったのだ。そのとき彼は、
「粋だね。ほんとに言ったかどうかはともかく、月に託して想いを伝えるなんて。なんかいいね」
そう言った。
そんなことを思い出していると、私の頭にふとあることがひらめいた。
そうや! これや!
まさに、『雪月花時 最憶君』や!
私は、急いで、スマホで月の写真を撮った。けっこう綺麗に撮れた。
よしよし。
急いでいつもの小説投稿サイトを、そのままスマホで開く。
撮ったばかりの写真を近況報告のところに載せる。
そして、その写真にたった一言、添えてみた。
『月がとても綺麗ですね』
しばらく、窓の外の月とスマホの画面を眺めていた。
なかなか、返信は来ない。
そうだよな。仕事中かもしれないし。
そう思って、しばらくぼ~っと月を眺めていると、少し経って画面に小さな表示が現れた。
シマエナガのシマちゃん(琉生)からの返信だ。
急いで開くと、
『月がすごくすごく綺麗ですね』




