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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

婚約破棄されたので、「偽聖女」と「嘘つき貴族」の帳簿をキッチリ修正します。――公爵令嬢エドウィナの「校閲」を舐めると、一族丸ごと破産しますよ?

作者: ちいもふ
掲載日:2026/06/21

 王城の大広間は、『甘い香水』と『腐った本音』の臭いが充満していた。


 中央に立つ公爵家嫡男アルヴィンが、慈悲深い笑みを浮かべて、私――公爵令嬢エドウィナに告げる。


「エドウィナ、君との婚約は破棄させてもらう。聖女の資質を持つイゾルデこそが、俺の運命の相手だ」


 その横で、イゾルデが守られるべき存在のように、身を震わせる。


 周囲の貴族たちは、私を憐れむ、あるいは失脚を喜ぶ視線を向けていた。


 静かに、持参した分厚い書類フォルダをテーブルに置いた。


 ヴィクターが隣で、冷徹な表情のまま、懐中時計を開く。


「……お嬢様、予定通り『清算』を開始します。……この場には、イゾルデ嬢を囲うために、横領に加担させられた元取り巻きの方々も揃っておりますので」


 私は微笑んだ。


「ええ。皆様、お忙しいところ恐縮ですが、お付き合いくださいませ」


 イゾルデに向き直り、書類を一枚ずつ読み上げた。


「イゾルデ様。貴女は『ありえない不幸が重なっただけ』と、同情を集めていましたわね。――ですが、私が『校閲』したところ、事実は少々異なるようですわ」


 ヴィクターが間髪入れず、周囲の男たちへ視線を向けた。


 その中には、イゾルデに拒絶され、プライドをズタズタにされた元側近・ケインの姿があった。


「……イゾルデ様が旦那様を失踪させ、その保険金を聖女の『宣伝費』に流用していた証拠です。

……そして、貴女が今、『慈愛の聖女』と称して運営している孤児院。

――あれは単なる慈善施設ではありませんね?

収容された子供たちに不正な労働をさせ、貴女の贅沢を支える資金源。

……救いの聖女という看板を掲げながら、裏では子供たちの未来を搾取さくしゅしていたのですね?」


 会場が凍りついた。


 イゾルデの顔から血の気が失せ、ケインが冷笑を浮かべて、一歩前に出る。


「……へえ、聖女様。

俺には『清廉潔白』を盾に拒絶したくせに、裏ではそんな汚ねえ金で、愛人どもと贅沢をしてたんだな?

あんな『絶滅指定種』みたいな男と一緒にさ」


「ち、違う!

私はただ……運命に翻弄ほんろうされて……っ!」


 イゾルデが言い訳を叫ぶが、ひび割れた仮面のように、滑稽こっけいだった。


 私は冷ややかに言い放つ。


「嘘は結構ですわ。

これらすべての不正を『算出』いたしました。慰謝料、および公金横領の返還金。

合計で金貨五万枚。

……払えなければ、貴女の一族ごと、辺境の開拓地へ『再就職』していただきますわ」


「ひっ……!」


 イゾルデが崩れ落ちる。



 かつての取り巻きたちは、自分たちの罪が公になることを恐れ、一斉にイゾルデから距離を取った。


 『仲良しグループ』は、利益の消滅と共に、音を立てて崩れ去ったのだ。



 ヴィクターが淡々と、震えるイゾルデの指先に、契約書の印を叩きつける。


「……安心してください。

貴女の人生は、今日から私が計算します。

……薬に頼りたくなるような退屈な日々を、一生かけて後悔してください」



 華やかな社交界の夜会は、一人の女の破滅と、一人の令嬢による完璧な「校閲」によって、静かに幕を閉じた。


 私は優雅に一礼する。


「さて。次の領地経営のプランを練らなくては。

――皆様、私の仕事はまだ終わっておりませんので、失礼いたしますわ」




 背後で、紛れ込ませていた覆面監査官が大きな声を荒らげた。


 かつての婚約者が、財産を差し押さえられ、路頭に迷う悲鳴を上げている。


 私は一度も振り返らず、完璧な足取りで夜会を後にした。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 本作は、「真実は、隠せば隠すほど歪な形となって表出する」というテーマで執筆いたしました。


 主人公のエドウィナが突きつけるのは、単なる復讐ではなく、隠蔽された事実に対する「正しい算出」です。


 どれほど美辞麗句を並べて自分を正当化しようとも、人生という帳簿は誤魔化せません。


 計算が合わなくなったとき、最後に残るのは等身大の自分自身の姿だけです。


 それでは、また次回の「校閲」でお会いしましょう。

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