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致死量カレシ

作者: 高谷咲希
掲載日:2026/04/23

「まなか」

「なんでしょう、かずまくん」

金曜日、仕事を終わらせてからの、いつもの時間。君と私の夜が始まる。いつもの居酒屋、いつもの席。カウンターに並ぶ君は、頬杖をついて私を見つめた。

「今日もかわいいね」

「……まあ、化粧してるし」

「いつもかわいいんだけどさ」

「うん、知ってる」

中条和馬、26歳。口癖、まなかかわいい。端正な顔立ちから放たれるその言葉に、何度心を乱されたことか。センターパート引きちぎってやりたくなる。

「知ってんの?」

「散々言われたからね」

ニヤニヤしているかずまくんのお皿に、黙って食えと言わんばかりに、さっと料理を取り分ける。ありがと、なんて無邪気に喜ぶ君の方が、私からしたら、かわいくてたまらないのに。

「まなか明日は? 休み?」

「うん、じゃなきゃ来てない」

「んじゃ次ここいこ、雰囲気良さげなの」

「ん〜? ……あり」

「はい、決定!」

そして、こんなに可愛げのない私は松浦愛香、28歳。かずまくんより少しだけお姉さんなのに、いつもから回ってしまう。それもこれも、常にかずまくんから送られてくる、致死量の愛情のせい。

「まなかってさぁ〜」

「なに?」

「一緒にいる時冷たいよねぇ」

「え"」

無くなりそうなチューハイのグラスをカラカラといわせて、かずまくんは私を見た。

「メッセとか電話の時は、めっちゃ素直なのに」

「そ、れは……」

目を合わせることが、昔から苦手で。思っていることすらも、言葉にするのが難しい。そんな私が、気負えずに本音を言えるのが、顔を見なくていい場所。

「わかってるよ〜、直接は恥ずかしいんでしょ」

全てお見通しのようで、私は俯いてビールを飲む。飲んだのか舐めたのか、そのくらい少量しか入ってこなかった。

「そんなまなかも、かわいいけどね」

「なっ……!」

顔が熱い。きっと真っ赤になっている。そんな私をみて、また君は笑った。


「いやぁ、美味しかったねぇ」

あの後、恥ずかしくなった私は、料理とお酒を一気に流し込み、案の定酔っ払っている。明らかにいつもとテンションの違う私に、かずまくんはまたニヤニヤして、次行こうか、と居酒屋をでた所だ。

「美味しかった。……かずまくん、いつもありがとう」

「いえいえ、酔っ払いに財布出させたくないだけです」

夜風を浴びて、並んで歩く。それだけでこんなに幸せだってこと、今まで知らなかった。

「ていうか、まだ飲めるの? 結構酔ってない?」

「酔ってない、飲める」

「信用ならんなぁ……」

フワフワした気持ちで、まだ賑わいの消えない飲み屋街を抜けていくと、小さな公園が顔を出した。

「まなか、ここでちょっと休憩しよ。お水買ってあるからさ」

「ん、座りたい」

「ベンチあるよ、ほら」

手を引かれて、公園のベンチに座る。あの喧騒が嘘のように、2人だけの静かな時間になった。

「まなか大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「ほんとかよ」

呆れながらも、かずまくんはカバンから水のペットボトルをだした。いつの間に買っていたんだろうか。蓋を軽く開けて差し出してくれた、その手を私は両手で包み込む。

「かずまくん」

「へぁ、なに、どしたの」

意図しないところで手を握られて、少し照れてるかずまくん。ねえ、やっぱり私より君の方がかわいいよ。

「かわいいね」

「え」

「かずまくん、かわいい」

ぐいっと顔を近づけて、そのままキスをした。酔った勢いじゃないと、自分からなんてできない。

してやった、なんて思いながら唇を離したけど、同時に手が解かれて、頭と顎を固定されてしまった。

水の入ったペットボトルが地面に落ちたとき、今度はかずまくんからの猛追が始まる。角度を変えて、深く、長く、食べられてしまいそうなそのキスは、ほんのりとお酒の匂いがして、さらに酔ってしまいそうだった。

「まなかさんさぁ」

やっと唇が離れても、手は解かれることなく、至近距離で見つめられる。

「もう今日、帰れると思うなよ」

そう言った君は、全然かわいくなかった。


「まなか」

名前を呼んで、啄むようなキスが降る。

「ん、ふっ……、息できな……」

何とかして逃げてみても、君は追撃し続ける。

「まなかが可愛すぎるのが悪い……」

「んっ……、ちょ、まって……」

「待たない」


止まらないキスの雨。愛しむような眼差し。

息継ぎもままならない、君は。


私の、致死量カレシ。

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