7話
葵家。
玄関の鍵を開けた瞬間、海が小さく声を漏らした。
「……ここ?」
「ああ。入れ」
靴を脱いで中へ入る。
海はまだ半信半疑の顔だが、とりあえず大人しくついてきた。
「ほら、座ってろ」
「う、うん……」
リビングのソファに海を座らせた、その時だった。
――ピンポーン。
「……」
空気が、わずかに張り詰める。
このタイミング。
嫌な予感しかしない。
「誰か来た」
海が普通に言う。
「……動くな」
僕は静かに玄関へ向かった。
ドアスコープを覗く。
そして――
(……誰だ、こいつ)
見知らぬ男。
スーツ姿。
警察でも配達でもない。
だが。
目つきが、明らかに“普通じゃない”。
コンコン。
「――葵要人くん、いるよね?」
背筋に、冷たいものが走った。
(……バレてる?)
いや、まだ断定は早い。
僕はドアを数センチだけ開けた。
「……どちら様で」
男はにこりと笑った。
「ちょっと話がしたくてね」
「間に合ってます」
即答。
そのままドアを閉めようとする。
だが男は、声のトーンを少しだけ落とした。
「昨夜の件について、なんだけど」
――確定。
僕の目が、すっと細くなる。
「……知らないですね」
「そう?」
数秒の沈黙。
そして男は、あっさり一歩引いた。
「ま、今日は顔見せだけ」
にやり、と意味深に笑う。
「また来るよ」
背を向けて歩き出す。
……最悪だ。
僕は静かにドアを閉め、深く息を吐いた。
「……誰?」
リビングに戻ると、海が不安そうに見上げてきた。
「勧誘」
「え?」
「しつこいタイプの」
「ふーん……」
完全には納得してない顔だが、深追いはしてこなかった。
助かる。
――そして。
数十分後。
ガチャ。
「ただいまー」
「「あ」」
玄関から入ってきた明里と、リビングの僕と海。
三人の視線が、綺麗に交差した。
沈黙。
「……なんで」
明里が、ゆっくり僕を見る。
「アンタの家に、海がいるの?」
空気が、非常にまずい方向へ傾く。
その瞬間。
「俺が迷子だったから!」
海が勢いよく立ち上がった。
「この人が助けてくれたの!」
明里が、ぴたりと止まる。
「……」
「……」
数秒の静止。
そして明里は、ふっと息を吐いた。
「……あー、なるほどね」
助かった。
完全に助かった。
海、ナイスすぎる。
明里は僕をじろっと見たあと、
「ま、いいわ。とりあえず」
にやり。
「帰るわよ、二人とも」
気づけば、外はすっかり夕方だった。
「遅くなっちゃったわね」
「だな」
海がお腹をさする。
「……おなかすいた」
明里と僕の視線が合う。
そして。
「買い物、行くか」
「決まりね」
スーパー。
「うわ、安っ」
明里がミンチ肉のパックを持ち上げた。
「今日これにしましょ」
「ハンバーグ?」
「ハンバーグ!」
海のテンションが一気に上がる。
「俺、こねる!」
「手洗ってからね」
「はーい!」
海がカゴを持って先に進む。
「……嬉しそうだな」
「でしょ」
明里が少しだけ柔らかい顔で笑った。
海が振り返る。
「ねぇ!」
「ん?」
「ハンバーグの中にチーズ入れてもいい!?」
一瞬の間。
そして明里が吹き出した。
「あはっ、いいわよ」
「やった!」
海がさらに張り切って買い物を始める。
……なんというか。
平和すぎて逆に怖い。
買い物袋を下げて、帰り道。
――その時。
「ちょっと、君たち」
「……」
僕の足が、ぴたりと止まる。
振り向く。
そこにいたのは――
警察官。
「少しいいかな?」
嫌な予感が、的中した。
警察官の視線が、僕に向く。
「最近さ」
低い声。
「この辺りで、“妙に強い能力者”の噂、聞いてない?」
――来た。
空気が、静かに張り詰めた。
ありがとうございました。
感想をいただけるとありがたいです。




