4話
――翌朝。
最悪の目覚めだった。
「……だる……」
体が鉛みたいに重い。
ソファの上で目を開けると、見慣れない天井――いや、昨日見たなこれ。
(……明里の家、だったか)
記憶がゆっくり戻ってくる。
能力使用。
縮小。
警察。
強制お泊まり。
「……はぁ」
現実だった。
僕は重い体を起こし、ソファから降りる。
やっぱり低い。
床が近い。
ムカつく。
とりあえずリビングの方へ向かう。
「おはよ」
少年の声。
次の瞬間、リビングの入口で目が合った。
「……あ」
「……」
短い沈黙。
少年――東雲海は、ぱちぱちと目を瞬かせたあと、にこっと笑った。
「明里姉の友達?」
「……は?」
間抜けな声が出た。
「同じ学校の子でしょ?」
「いや、僕は――」
言いかけた瞬間。
後ろから、聞き慣れた含み笑い。
「ぷっ」
振り向く。
明里が、腹を押さえて震えていた。
「……明里」
「ごめっ……ふふっ……」
全然ごめんと思ってない顔だ。
海はきょとんとしている。
「え?違うの?」
「違――」
「同じ学校の子よ」
明里が即答した。
「おい」
肘で軽くつつかれる。
圧が強い。
海は納得したようにうなずいた。
「へー。でもこの子、小さくない?」
ぐさっ。
やめろ。
「海より低いよ?」
ぐさぐさっ。
明里が完全に吹き出した。
「あはははっ!!確かに!!」
「笑うな!!」
「だって事実じゃない!」
海は不思議そうに首をかしげる。
「俺より年下?」
「……」
僕は静かに顔を背けた。
屈辱だ。
明里は肩を震わせながら言う。
「まぁまぁ、その辺にしときなさい」
全然止める気ない声色だった。
その後。
海は普通に朝食を食べ、普通に学校の準備をし、普通に出て行った。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
バタン。
ドアが閉まる。
静寂。
そして。
「――っははははは!!」
「笑いすぎだろ!!」
明里がソファに倒れ込んで爆笑していた。
「だって!海より低いって!!」
「言うな!!」
「年下認定!!」
「やめろ!!」
くそ、こいつ……!
ひとしきり笑ったあと、明里は涙を拭った。
「で、いつ戻るのよそれ」
「……能力使ってから24時間」
「長っ」
「だから言っただろ、面倒なんだよ」
僕はむすっとしてテレビのリモコンを取った。
電源を入れる。
ちょうどニュースが始まる。
『――昨日、市内で発生した能力者による暴走事件について――』
「……」
「……」
二人同時に画面を見る。
現場の映像。
ひしゃげた道路。
倒れて運ばれる能力者。
『迅速な鎮圧により被害は最小限に――』
明里がちらっと僕を見る。
「迅速、ねぇ」
「……知らん」
僕は視線を逸らした。
その時、テーブルの上のスマホが震えた。
明里が画面を見る。
「あ、やば」
「どうした」
「大学の時間」
「あー……」
明里は僕を見下ろす。
じーっと。
「……なんだよ」
「いやぁ」
にやり。
「その姿で一緒に来られても困るなーって」
「行くわけないだろ」
「だよね」
あっさり。
そして明里はカバンを掴んだ。
「というわけで」
くるっと振り向く。
「留守番よろしく、小学生くん」
「その呼び方固定するな」
「おやつは戸棚ね」
「ガキ扱いするな」
明里は玄関に向かいながら、楽しそうに手を振った。
「じゃ、いい子にしてなさいよー」
バタン。
ドアが閉まる。
静かな部屋に、テレビのニュース音だけが残った。
僕はソファに沈み込みながら、深く息を吐く。
「……ほんと、最悪な一日だ」
まだ、終わりそうにない。
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