表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

3話

 ……問題が一つある。


 今の僕。


 ――一人で帰れない。


 物理的にも、社会的にも。


「……明里」


「なに?要人くん」


「その呼び方やめろ」


「で、なに?」


 僕は盛大に顔をしかめたあと、観念して言った。


「……送ってくれ」


 一拍。


 そして明里の口角が、ぐいっと吊り上がった。


「えー?どうしよっかなー?」


「殴るぞ」


「届かないでしょ」


「くっ……」


 完全に立場が逆転している。


 明里はわざとらしく腕を組んで考えるフリをしたあと、


「まぁいいわ」


 にやりと笑う。


「迷子の小学生を放置するほど鬼じゃないし」


「誰が迷子だ」


「はいはい。ほら、行くわよ」


 こうして僕は、不本意ながら明里に送られることになった。


 ……そして。


 不運というのは、重なる時は本当に重なる。


「――そこの二人、ちょっといいかな?」


「「げ」」


 思わずハモった。


 振り向けば、そこに立っていたのは――


 警察官。


 僕の背筋に、嫌な汗が伝う。


(最悪だ……)


 明里は一瞬だけ僕をちらっと見て、すぐに営業スマイルを浮かべた。


「どうしました?」


「いやね、通報があって。さっきこの近くで能力者の騒ぎがあっただろう?」


「ありましたねー」


 しれっと返すなこいつ。


 警察官の視線が、すっと僕に落ちる。


「……その子は?」


「え?」


「こんな時間に、小学生が一人で歩くのは危ないからね」


 完全に職質モードだ。


 僕はフードをぐっと深く被った。


 関わりたくない。


 本当に。


「この子、弟でして」


 明里がさらっと爆弾を投下した。


「……は?」


 思わず素で声が出た。


 明里の肘が脇腹にめり込む。


「いっ……!」


「ちょっと人見知りなんですよー」


 にこにこ。


 完璧な営業スマイル。


 警察官は少し眉をひそめた。


「身分、確認できるものあるかな?」


「……」


 終わった。


 僕の家に帰るルート、完全に塞がれた。


 数分後。


 ――解放はされた。


 されたが。


「……はぁ」


 僕は深く、深くため息をついた。


「これ、今日中に家帰るの無理だな……」


「でしょ」


 明里はあっけらかんと言う。


「というわけで」


 にやり。


「うち来る?」


「……」


 僕は数秒、真剣に悩んだ。


 そして。


「……頼む」


 人生で一番屈辱的な一言だった。


 東雲家。


 明里の部屋。


「はい到着〜」


 ドアが開く。


 見慣れない部屋の匂いに、どっと疲れが押し寄せた。


「ほら要人くん」


「だからその呼び方やめろ」


「お風呂先入る?」


 にやにや。


「……入る」


 汗と埃まみれなのは事実だ。


 数分後。


 東雲家の風呂場。


(……はぁ)


 湯船に沈んだ瞬間、全身の力が抜けた。


 能力使用後の反動。


 縮小状態。


 警察との遭遇。


 もう、限界だ。


「……最悪な一日だ……」


 ぽつりと漏れる。


 ――コンコン。


「ねー要人くーん」


 ドア越しに明里の声。


「覗くなよ」


「覗かないわよ!!」


 一拍。


「……今のサイズだと溺れない?」


「黙れ」


 外からくすくす笑いが聞こえてきた。


 ……絶対あとで覚えてろ。


 風呂を出た頃には、もう意識が半分飛びかけていた。


「はい、タオル」


「……ありがと」


「うわ、素直」


「黙れ……」


 ふらふらとソファに倒れ込む。


 柔らかい。


 まずい。


 これは――


「ちょ、要人?そこで寝たら――」


「……もう、無理……」


 視界が暗く落ちていく。


 最後に見えたのは、呆れ半分、少しだけ優しい顔をした明里で。


「……ほんと、世話焼かせるわね」


 その声を最後に。


 僕の意識は、完全に闇へ沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ