2話
現場に着いた時には、すでに周囲は半壊していた。
ひしゃげた街灯。
抉れたアスファルト。
逃げ惑う野次馬。
「うわぁ……」
明里が思わず引いた声を漏らす。
「思ったより派手ね」
「だから来たくなかったんだよ……」
僕は小さく舌打ちした。
煙の向こうに、“それ”はいた。
人影。
だが、妙だ。
「……能力、何系だ?」
「さぁ?でも、なんか――」
次の瞬間。
――ビキィッ!!
何もない空間が、ガラスみたいにひび割れた。
「は?」
僕の口から間の抜けた声が漏れる。
割れた。
空気が。
そして。
――ドォォン!!
見えない衝撃が周囲を薙ぎ払った。
「っ、明里!下がれ!」
「言われなくても!」
明里が反射的に数メートル後方へ物体を弾き飛ばすようにして跳ぶ。
……面倒なタイプだ。
原理不明。
挙動不明。
つまり、一番関わりたくない類。
「はぁ……」
僕は深く息を吐いた。
「要人?」
「すぐ終わらせる」
乗り気じゃない。
本当に。
だが――
放っておく方が、もっと面倒になる。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
世界が、わずかに“軋んだ”。
――。
次の瞬間。
暴れていた能力者が、ぐらりと膝をついた。
「……え?」
明里が素っ頓狂な声を上げる。
能力者は何が起きたのか分からない顔のまま、ゆっくりと前のめりに倒れた。
ドサッ。
それで、終わりだった。
静寂。
煙の向こうで、何かが崩れる音だけが響く。
「……は?」
明里が、ものすごくゆっくりこっちを振り向いた。
「……今、何したの?」
「何も」
「嘘つけ!!」
小声の全力ツッコミが飛んできた。
その時。
――ウゥゥゥゥン……
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
「……警察か」
僕の顔が、露骨に歪んだ。
「要人?」
「悪い、僕帰るわ」
「は!?ちょ――」
言い終わる前に、僕は踵を返していた。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
五分後。
路地裏のコンビニ裏口。
自動ドアの影に滑り込んだ瞬間――
「っ……」
どっと、全身から力が抜けた。
視界が揺れる。
まずい。
「要人?アンタ顔色――」
「……来る、ぞ……」
「は?」
次の瞬間。
ぐにゃり、と。
世界のスケールが歪んだ。
服がぶかぶかになる感覚。
地面が、やけに遠い。
そして――
ぽすん。
僕の視界の高さが、一気に落ちた。
沈黙。
数秒。
「…………」
「…………」
明里が、ゆっくり、ゆっくり下を向く。
そして。
「……は?」
僕はそこにいた。
――小学生サイズで。
「…………」
「…………」
「……要人?」
「……言うな」
「え、ちょ、待って」
明里の肩が震え始める。
「っ、ふ……」
「笑うな」
「ふっ……あはっ……」
「笑うなって言ってんだろ」
ついに明里は腹を抱えた。
「あははははは!!ちょっ、なにそれ!!」
「うるさい」
「縮んでる!!アンタ縮んでるんだけど!!」
「見れば分かるだろ……!」
くそ、最悪だ。
能力使用後の反動。
分かってはいたが――タイミングが最悪すぎる。
明里はしゃがみ込んで、じーーーっと僕の顔を覗き込んだ。
「……ぷっ」
「殴るぞ」
「その身長で?」
「やめろ」
完全に遊ばれている。
「ねぇねぇ要人くん?」
「その呼び方やめろ」
「ランドセル似合いそう」
「帰るぞ」
僕はぶすっとした顔で歩き出した。
当然、歩幅が合わない。
明里がにやにやしながら隣を歩く。
「いやー、でも新発見ね」
「……何がだ」
「アンタ、弱体化すると可愛い系になるのね」
「絶交するぞ」
「ごめん無理、面白すぎる」
こいつ、本当に後で覚えてろ。
夕焼けの帰り道。
僕の疲労感はピークで。
明里の上機嫌は、過去最高を更新していた。
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