表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1話

 この世界には、“能力”というものがある。


 いわゆる、異能の力。


 それが使える人間もいれば、何も使えない人間もいる。

 ……というより、使えない人間の方が圧倒的に多い。


 ゆえに、能力者は貴重だ。


 ――ただし。


 その貴重な力を持った人間が、まともとは限らない。


 むしろ、厄介なことに。


 能力者が本気で暴れた場合、止められるのは基本――同じ能力者だけだ。


 そんな、二種類の人間が入り混じるこの世界で。


 僕――葵要人あおいかなめは、今日も平穏に生きていた。


 少なくとも、数分前までは。


「なんでお金を増やす能力が私にはないのかしらねぇ」


 隣を歩く東雲明里しののめあかりが、空を仰ぎながら盛大なため息をついた。


「そんなんあったら色々終わるぞ」


 即答してやる。


「どう考えてもこんな能力があっても金にならないんだからさぁ」


「だったらそういう能力欲しかった、って顔して言うな」


「欲しいに決まってるでしょ。私、今月ピンチなのよ?」


「またかよ」


「またよ」


 清々しいまでの開き直りだった。


 こいつ、絶対反省してないな。


「でしょ?だから思うのよ」


 明里は指先をくるくる回しながら、不満げに言う。


「なんで私の能力、“物をちょっと動かす程度”なわけ?」


「十分便利だろ」


「どこがよ。持ち上げられるの精々この辺の自販機くらいよ?」


「それ普通に十分すごいからな?」


 一般人基準なら、完全にアウト寄りの能力なんだが。


 しかし本人は納得いっていないらしい。


「それに比べてアンタはさぁ」


 じとーっとした視線が刺さる。


「……なんだよ」


「強いんでしょ?アンタの能力」


「まぁ、強いは強いけど」


 事実だから否定はしない。


 ――使えば、の話だが。


「じゃあさ」


 明里が、にやっと悪い顔で笑った。


「欲しい?」


「は?」


「アンタの能力。数日でいいから貸してくれない?」


「貸せるかそんなもん」


 即答だった。


「えー、ケチ」


「能力はレンタルDVDじゃねぇんだよ」


「いいじゃない、数日だけよ? 私がちょっとリッチな生活体験するだけなんだから」


「その発想がもう危険なんだよ」


 こいつに力を持たせたら、絶対ろくな使い方しない。


 断言できる。


「むぅ……」


 明里は露骨に頬を膨らませた。


「どうせアンタ、また“こんな能力いらなかった”とか言うんでしょ」


「……」


 図星だった。


 思わず言葉に詰まる。


「ほら見なさい」


「いや、まぁ……」


 僕は軽く頭をかいた。


「強いのは認めるけどさ。だからって、欲しいかって言われると――」


 正直。


「……微妙だな」


 ぽつりと本音が漏れた、その時。


 ――ドォンッ!!


 腹の底に響くような轟音が、街に炸裂した。


 ガラスがびりびりと震え、遠くで悲鳴が上がる。


「……うわ」


「……来たわね」


 僕と明里は、同時に音のした方角へ目を向けた。


 黒煙が、ゆっくりと立ち上っている。


 あの感じ。


 十中八九――


「能力者の暴走、か」


「っぽいわね」


 明里は少しだけ顔をしかめた後、ちらりと僕を見る。


「で?」


「で、って?」


「行かないの?」


「……いや、別に僕、そういう係じゃないし」


 むしろ関わりたくない側だ。


 全力で。


 すると明里は、わざとらしく大きなため息をついた。


「はぁ〜……」


「なんだよその反応」


「いやぁ、私だったらさ」


 明里は肩をすくめる。


「自分が強かったら、助けに行くんだけどなぁ」


「……」


「でもなぁ、私弱いもんなぁ〜」


 ちらっ。


 明らかにこっちを見ている。


「止められないもんなぁ〜」


 ちらちらっ。


「……お前な」


 完全にわざとだろ。


 明里はにこっと笑った。


「ほら、最強さん?」


「誰が最強だ」


「使えば、でしょ?」


 ぐっ、と言葉に詰まる。


 ……ほんと、こいつは。


「別に無理しろとは言わないわよ?」


 明里はくるりと背を向け、軽く手を振った。


「ただ――」


 横顔だけで、にやりと笑う。


「見て見ぬふりするの、アンタの性格的に無理でしょ?」


「……チッ」


 完全に読まれている。


 僕は深く、深くため息をついた。


「……今回だけだからな」


「はいはい」


 明里の声が、やけに楽しそうだった。


 ――こうして僕は。


 今日もまた、面倒ごとのど真ん中へ向かう羽目になった。

ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ