1話
この世界には、“能力”というものがある。
いわゆる、異能の力。
それが使える人間もいれば、何も使えない人間もいる。
……というより、使えない人間の方が圧倒的に多い。
ゆえに、能力者は貴重だ。
――ただし。
その貴重な力を持った人間が、まともとは限らない。
むしろ、厄介なことに。
能力者が本気で暴れた場合、止められるのは基本――同じ能力者だけだ。
そんな、二種類の人間が入り混じるこの世界で。
僕――葵要人は、今日も平穏に生きていた。
少なくとも、数分前までは。
「なんでお金を増やす能力が私にはないのかしらねぇ」
隣を歩く東雲明里が、空を仰ぎながら盛大なため息をついた。
「そんなんあったら色々終わるぞ」
即答してやる。
「どう考えてもこんな能力があっても金にならないんだからさぁ」
「だったらそういう能力欲しかった、って顔して言うな」
「欲しいに決まってるでしょ。私、今月ピンチなのよ?」
「またかよ」
「またよ」
清々しいまでの開き直りだった。
こいつ、絶対反省してないな。
「でしょ?だから思うのよ」
明里は指先をくるくる回しながら、不満げに言う。
「なんで私の能力、“物をちょっと動かす程度”なわけ?」
「十分便利だろ」
「どこがよ。持ち上げられるの精々この辺の自販機くらいよ?」
「それ普通に十分すごいからな?」
一般人基準なら、完全にアウト寄りの能力なんだが。
しかし本人は納得いっていないらしい。
「それに比べてアンタはさぁ」
じとーっとした視線が刺さる。
「……なんだよ」
「強いんでしょ?アンタの能力」
「まぁ、強いは強いけど」
事実だから否定はしない。
――使えば、の話だが。
「じゃあさ」
明里が、にやっと悪い顔で笑った。
「欲しい?」
「は?」
「アンタの能力。数日でいいから貸してくれない?」
「貸せるかそんなもん」
即答だった。
「えー、ケチ」
「能力はレンタルDVDじゃねぇんだよ」
「いいじゃない、数日だけよ? 私がちょっとリッチな生活体験するだけなんだから」
「その発想がもう危険なんだよ」
こいつに力を持たせたら、絶対ろくな使い方しない。
断言できる。
「むぅ……」
明里は露骨に頬を膨らませた。
「どうせアンタ、また“こんな能力いらなかった”とか言うんでしょ」
「……」
図星だった。
思わず言葉に詰まる。
「ほら見なさい」
「いや、まぁ……」
僕は軽く頭をかいた。
「強いのは認めるけどさ。だからって、欲しいかって言われると――」
正直。
「……微妙だな」
ぽつりと本音が漏れた、その時。
――ドォンッ!!
腹の底に響くような轟音が、街に炸裂した。
ガラスがびりびりと震え、遠くで悲鳴が上がる。
「……うわ」
「……来たわね」
僕と明里は、同時に音のした方角へ目を向けた。
黒煙が、ゆっくりと立ち上っている。
あの感じ。
十中八九――
「能力者の暴走、か」
「っぽいわね」
明里は少しだけ顔をしかめた後、ちらりと僕を見る。
「で?」
「で、って?」
「行かないの?」
「……いや、別に僕、そういう係じゃないし」
むしろ関わりたくない側だ。
全力で。
すると明里は、わざとらしく大きなため息をついた。
「はぁ〜……」
「なんだよその反応」
「いやぁ、私だったらさ」
明里は肩をすくめる。
「自分が強かったら、助けに行くんだけどなぁ」
「……」
「でもなぁ、私弱いもんなぁ〜」
ちらっ。
明らかにこっちを見ている。
「止められないもんなぁ〜」
ちらちらっ。
「……お前な」
完全にわざとだろ。
明里はにこっと笑った。
「ほら、最強さん?」
「誰が最強だ」
「使えば、でしょ?」
ぐっ、と言葉に詰まる。
……ほんと、こいつは。
「別に無理しろとは言わないわよ?」
明里はくるりと背を向け、軽く手を振った。
「ただ――」
横顔だけで、にやりと笑う。
「見て見ぬふりするの、アンタの性格的に無理でしょ?」
「……チッ」
完全に読まれている。
僕は深く、深くため息をついた。
「……今回だけだからな」
「はいはい」
明里の声が、やけに楽しそうだった。
――こうして僕は。
今日もまた、面倒ごとのど真ん中へ向かう羽目になった。
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