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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
春はゆく

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63/63

私の齧り枝ですよ!?

夜が多いいのは


シュバルツが宿にいる時間がその時間だけなので(普段何してんだろうなこいつ)

夕暮れ。

宿の窓は半分だけ開いている。風は弱い。

甘い匂いが、部屋の隅に溜まっている。

焦げる寸前の砂糖みたいな匂い。

そこに、発酵した蜜の温度。

シュバルツは無言で煙を吐く。

細い紫煙が、夕陽に溶ける。

向かいに座るシエルが、じっと見ている。

喉のヒビが、かすかに鳴る。

びき、と。

匂い袋を握る前に、彼女は板を引き寄せる。

さらさらと書く。

――

「黒猫さん、最近甘い匂いばかりですね?

しかも、たまに天蜜樹使ってません?」

――

板を持ち上げる。

シュバルツの視線が一瞬だけ止まる。

「知らん」

即答。

だが煙は、明らかに甘い。

天蜜樹特有の、あの“熟しきった命の匂い”。

シエルは目を細める。

机の端。

布袋。

その横。

彼女の私物――小さな包み。

中には、齧りかけの天蜜樹の枝。

有翼人は、あれを軽く齧る。

糖と魔力を直接取るため。

昨日より、少し短い。

ほんの、指先分。

シエルは何も言わない。

ただ、また書く。

――

「私の、減ってます」

――

シュバルツは煙を吐く。

「気のせいだ」

だが。

彼は確かに、削っている。

ほんの少しだけ。

削り取った欠片を、刻んで、ブレンドに混ぜる。

量は極微量。

彼にとっては、誤差。

だが有翼人にとっては――

十分に分かる。

シエルは立ち上がる。

彼の傍まで歩く。

近い。

甘い。

天蜜樹の奥に、焦げた紙と苦味。

彼女は顔を寄せる。

喉のヒビが、少しだけ静まる。

目を閉じる。

甘い。

懐かしい。

里の夜に似ている。

板を、そっと差し出す。

――

「勝手に使うのは、だめです」

――

間。

もう一行、書き足す。

――

「でも、似合ってます」

――

シュバルツの指先が止まる。

火が、わずかに揺れる。

彼は天蜜樹が“自分のため”に効いているわけじゃないと、理解していない。

ただ。

彼女の喉が軋む夜、

甘い匂いにすると、少し呼吸が深くなる。

それを、知っている。

理屈じゃない。

だから削る。

だから混ぜる。

だから知らんと言う。

シエルは自分の枝を取り出す。

齧る。

欠けた断面を見る。

それから彼の煙を見る。

同じ匂い。

ほんの少し、だけ。

板に最後の一行。

――

「今度は一緒に削りましょう」

――

それは叱責でも、拒絶でもない。

共有。

シュバルツは答えない。

ただ、次に刻むとき、量を倍にする。

彼女の分も、確保する。

無言で。

甘い匂いが、部屋に残る。

喉のヒビは、今日は深く鳴らない。

それだけで、十分だ。

のど飴みたいな感じに思ってください。

のど飴代わりの枝を齧って治りを早くしようとしてるだけです。シュバルツが勝手に使ってるけど(ぉい)

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