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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
春はゆく

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59/63

2度目の春

冬の名残が、まだ街道に残っていた。

雪解け水が泥をつくり、

踏みしめるたび、靴裏に重さが増す。

検問所は石造りで、

背後に森を抱えている。

春前のこの時期、往来は少ない。

兵も、どこか緩んでいた。

「身分証」

黒猫は無言で差し出す。

隣でシエルも続く。

簡易鑑定の魔具が、淡く光る。

一人の兵が眉をひそめた。

「……数値、妙だな」

黒猫の視線が、わずかに動く。

その時だった。

森が、鳴った。

地の底を転がるような低音。

枝が折れ、雪が落ち、

黒い影が溢れ出す。

魔物。

一体や二体ではない。

群れ。

兵の顔色が変わる。

「門を閉じろ!」

鉄格子が落ちる。

退路が消える。

黒猫は前に出る。

短剣が一閃。

音は小さい。

倒れるのも静かだ。

無駄がない。

正確だ。

シエルは後ろで詠唱を組む。

光が走り、魔物の足を止める。

そのとき。

胸の奥が、ざわついた。

痛みではない。

恐怖でもない。

“呼ばれている”。

視線が、検問塔の裏へ引かれる。

檻。

細い影。

目が合う。

痩せた有翼人。

刻印が首筋に走り、

意識は曇っている。

その口が、勝手に開いた。

「……ぁ……」

声ではない。

魔力が震える。

空気が歪む。

シエルの背中が、熱を持つ。

黒猫が振り返る。

「……下がれ」

遅い。

地面が光る。

拘束の鎖が足首に絡む。

森の奥。

塔の上。

術式の核。

これは偶然じゃない。

魔物は囮。

本命は――

「やはりいたか」

誰かが笑った。

魔力が、無理やり引き出される。

翼は出していない。

それでも、背中に輪郭が浮かぶ。

兵が息を呑む。

「……翼?」

その瞬間。

一体の魔物が、不自然な軌道で跳ぶ。

黒猫は斬る。

だが、わずかに、足りない。

刃が、するりとすり抜けた。

「ぁ……」

音がなかった。

だから、致命だった。

シエルの体が揺れる。

血が、遅れて滲む。

彼女は目だけで振り返る。

「くろ……ねこ……ぁ」

指が、空を掻く。

遠い。

あまりにも遠い。

黒猫は、理解しない。

倒れた?

違う。

立たない?

違う。

血が広がる。

「ああ」

小さく、認識する。

次の瞬間。

術者の首が落ちていた。

誰も見ていない。

気づけば二人目が崩れ、

三人目が裂け、

塔の上の影が消える。

怒りはない。

叫びもない。

ただ、処理している。

鎖を張った兵が、

一歩後退した瞬間に喉を失う。

魔物が逃げる。

背を向ける。

貫かれる。

検問所が、静まる。

風だけが通る。

黒猫は膝をつく。

シエルは軽い。

軽すぎる。

翼の付け根が裂け、

魔力が、血の代わりに漏れている。

「……くろ……ねこ……」

まだ、生きている。

細い。

途切れそう。

黒猫の手が、初めて震えた。

泣かない。

叫ばない。

「生きろ」

命令のように言う。

祈りではない。

懇願でもない。

命令。

抱き上げる。

血が落ちる。

背後で、檻の有翼人が泣いている。

黒猫は見ない。

見ると、壊れる。

森の奥で、誰かが呟く。

「成功例だ」

風が冷たい。

春は、まだ来ない。


1歩、また一歩と、自分自身でも治癒しながら空気が抜けるような浅い息を繰り返してるシエルのそばに近寄る背後には、

検問所の残骸。

魔物の死骸。

裂けた石壁。

春前の風。



黒猫は膝をついている。

腕の中のシエルは、

かろうじて呼吸をしている。

浅い。

途切れそう。

翼の付け根から、

魔力が漏れている。

触れた瞬間、わかる。

――普通の治癒じゃ間に合わない。

義手を見る。

魔力伝導を補助するために組み込んだ術式。

戦闘用の増幅回路。

無理やり流せば、助かる。

だが。

流し込んだ魔力は、

ただの魔力じゃない。

感情も、記憶も、後悔も、

全部混ざっている。

それを、他者の命に直結させる。

黒猫は、

一度だけ空を見上げる。

青い。

あまりにも、青い。

その瞬間だ。

胸の奥で、何かが裂ける。

「……っ」

歯を食いしばる。

視界が歪む。

そして――

「一体何度世界は俺から光を奪えば気が済む……!!!」

初めて、声が割れる。

怒鳴りじゃない。

叫びでもない。

絞り出すような、

血を吐くみたいな声。

誰もいない空へ。

誰にも届かない場所へ。

「……足りないのか。

 まだ足りないのか。

 俺が何を差し出せば、終わる」

返事はない。

あるのは風だけ。

黒猫は、笑う。

壊れたように。

「……なら、持っていけ」

義手を、シエルの胸に押し当てる。

術式、解放。

増幅回路、全開。

魔力が逆流する。

熱。

焼ける。

脳の奥が白くなる。

心臓が、強制的に引き裂かれる感覚。

シエルの体が、跳ねる。

翼の裂傷が、

無理やり縫合されていく。

血が止まる。

呼吸が戻る。

代わりに。

黒猫の視界から、

色が一段抜ける。

音が、遠くなる。

熱が、意味を失う。

シエルの喉が震える。

声にならない。

喋れない。

だが、生きている。

黒猫はそれを確認する。

安堵は、ない。

喜びも、ない。

ただ、事実として認識する。

――生存。

それだけ。

義手から煙が上がる。

術式の焼き切れた匂い。

黒猫は立ち上がる。

ふらつきはない。

涙もない。

怒りも、もうない。

さっき叫んだはずなのに、

その感情の“余熱”がどこにも残っていない。

空っぽだ。

シエルが震える手で、

服の裾を掴む。

声は出ない。

黒猫は、視線を落とす。

ほんの一瞬。

そこに映るのは、

守りたかったもの。

だが、胸の奥は静かすぎる。

「……問題ない」

声が、平坦になる。

抑えているのではない。

湧かない。

彼は気づかない。

自分の代償に。

感情が削れ落ちたことに。

ただ、合理的に判断する。

生きている。

移動可能。

危険圏から離脱。

それだけ。

抱き上げる。

歩き出す。

背後には、

血に染まった検問所。

前には、

まだ続く道。

シエルは、喋れない。

黒猫は、感じられない。

それでも、二人とも生きている。

――これが地獄の始まり。

叫びは、

あの一度きり。

「一体何度世界は俺から光を奪えば気が済む……!!!」

あれが、

黒猫が人間だった最後の瞬間だ。

ここから先は、

感情のない守護者として生きる。

救ったはずなのに、

もう元の形には戻れない。

戦闘描写が苦手すぎてぱーりなぁ〜い!踊れ踊れ〜!


はい、暖かくなってきたのでね!続き投稿していくよぉー!でも時系列バラバラ!

書きたいところから乗せてくね!

後で順番整理するよ!

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