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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
春はゆく

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生まれたて雛鳥

三羽分書くか悩んだ

生まれたて

目がひらく前から、あったかかった。

暗いのに、こわくなくて。

ぎゅう、って包まれてて、音がしてた。

どくん。

どくん。

おおきな音と、やさしい音が、いっしょに鳴ってる。

——これが、そと?

ぱき、って音がして、からだがゆれた。

かたい。せまい。

でも、なんだか出なきゃいけない気がして、ちいさく、ぎゅって押した。

……つかれた。

でも、やめるのはちがう気がした。

また、どくん。

ひびが、ひろがった。

つめたい空気が、ちょっとだけ入ってきて、びっくりして、きゅっと丸くなる。

でもすぐ、あったかいのが戻ってくる。

光じゃなくて、ぬくもり。

「だいじょうぶ」

声じゃないのに、そう言われた気がした。

もう一回、ぎゅって押すと、

からだが、ころん、って転がった。

——まぶしい。

目はまだちゃんと開かない。

でも、白くて、あったかくて、においがいっぱいだ。

ぺた、ぺた。

なにかに触られる。

やわらかくて、あったかくて、ちょっとざらっとしてる。

「……ちいさいな」

低い声。

でも、こわくない。ほっぺたがあったかい……

つぎに、べつのにおい。

やさしくて、甘くて、胸の奥がほっとする。

からだがぬるぬるしてるのが、なんとなく分かって、

ぬるま湯みたいなのに、そっと沈められた。

——ふわ。

あ、これ、すき。

羽がある。

ちいさいけど、ちゃんとある。

でも、うごかすと、変な感じで、ころん、ってまた転がった。

くす、って音がした。

「ほら、転がってる」

「雛だねぇ」

いっぱいの音。

いっぱいの気配。

だれかの指が、背中をなぞる。

だれかの羽が、影をつくる。

ひとりじゃない。

それだけは、はっきり分かった。

眠くなってきて、目を閉じると、

また、どくん、って音がした。

さっきまで聞いてた音。

ちょっと遠くなったけど、まだ、ある。

——あぁ。

ここは、かえれる場所だ。

まだ飛べない。

歩くのもへた。

ころころ転がるだけ。

でも、空のにおいがしてる。

風の話を、体がもう覚えてる。

いつか、飛ぶ。

今はただ、

あったかい羽の中で、ころん、って転がりながら、

生きてるってことだけを、覚えていく。


(青緑視点)

あったかい。

でも、ちょっとだけ、遠い。

みんなと同じところにいるはずなのに、

同じ温度の中にいるはずなのに、

なぜか、胸の奥に薄い隙間がある。

——寒い、ってほどじゃない。

でも、足りない。

ころん、って転がると、

となりの気配がぶつかってくる。

つよい。

あったかい。

まるくて、ちゃんとしてる。

……いいな。

羽を動かそうとすると、

からだが言うことをきかない。

力を入れたつもりなのに、

動いたのは、ちょっとだけ。

すぐ、息が苦しくなる。

「……っ」

声を出したつもりはない。

でも、喉が勝手に鳴った。

すると、すぐ影が落ちる。

あったかい。

羽だ。

やさしく包まれて、

さっきまで足りなかったものが、すっと満ちる。

——あ。

これだ。

ぼくは、これがないと、だめなんだ。

胸の奥が、ちくっとする。

なんで、って思う前に、眠くなる。

つよい子たちは、ころころ転がってる。

羽をばたつかせて、ぶつかって、

それでも、すぐ立ち上がる。

わたしは、転がるだけで精一杯だ。

立とうとすると、

からだがぐらっとして、

視界が白くなる。

こわい。

「……っ」

また、鳴った。

今度は、もっと大きな気配が来る。

——羽が、いっぱい。

白くて、ひかってて、

まぶしいのに、目が痛くない。

そっと、背中に触れられる。

じわ、って、なにかが流れ込んでくる。

あったかい、だけじゃない。

強い。

静かで、深い。

……これ、知ってる。

卵の中にいた時の、

いちばん安心だった感じ。

「だいじょうぶ」

声は聞こえない。

でも、意味だけが、まっすぐ入ってくる。

胸の奥の隙間が、

少しだけ、埋まる。

——あぁ。

わたし、弱いんだ。

それを、初めてちゃんと分かった。

でも、

弱い、ってことを、

怒られない場所にいる。

それが、なんだか、不思議で、

ちょっとだけ、泣きたくなる。

力をもらうと、

少しだけ、息が楽になる。

でも、ずっとは続かない。

すぐ、また、足りなくなる。

それでも、

羽は、何度でも来る。

指も、来る。

影も、来る。

「この子は、ゆっくりでいい」

「ちゃんと、周りが回ってる」

そんな音が、遠くで揺れる。

……回ってる?

気づくと、

となりのふたつの気配が、

わたしを囲むみたいに、近くにいる。

あったかさが、分かれて、

でも、逃げない。

——守ってる。

それが、分かった瞬間、

胸の奥が、きゅっと縮んだ。

なんで。

わたし、なにもできないのに。

でも、

逃げない。

つよい子たちは、

わたしを押しのけない。

それどころか、

近くにいて、あったかさを分けてくる。

……やめて、って思った。

こんなの、

もらっていいわけない。

でも、

からだは正直で、

勝手に、近づいていく。

ぴと、って。

恥ずかしい。

でも、楽。

あったかい。

——生きたい。

それだけが、

はっきり、胸に残った。

飛べなくてもいい。

ころんころんでもいい。

弱くてもいい。

この羽が来る場所に、

この温度があるなら。

わたしは、

ここで、生きる。

いつか、

羽がちゃんと動く日が来なくても。

それでも。

だって、

呼んだら、来てくれた。

それだけで、

世界は、思ってたより、

ずっと、やさしい。

ヒバリとアルヴィンの子

長男 リョウイン(涼陰) 黒

次男 ワカタケ(若竹) 緑

長女 ハクロ(白露 )青緑 体な弱い、自力で飛ぶことは不可能。

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