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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠


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5 旅立ちの準備

さくさく行きましょう

七日間――焚き火の火が起きては消え、朝霧が降りては晴れるたびに、二人の間に少しずつ言葉が落ちていく。

それは最初はかすかな欠片だったが、日を重ねるごとに輪郭を帯び、やがてひとつの道になる。



---


◆一日目


黒猫は黙々と弓の弦を張り替えていた。

小鳥は隣で地図を広げ、まだ見ぬ大陸の話をする。


「黒猫さんが腕を取り戻したら、まずは南方ですね!

 薬草が多い森があって、毒も多いですが、それはそれで魅力です!」


黒猫は鼻で低く笑った。

かすかに、まるで喉に残る灰のような苦さを含んで。


「お前は死を知らない」


「じゃあ教えてくださいよ、知ってる人が」


その返しに、黒猫の指が一瞬止まった。



---


◆二日目


夜番を二人で歩く。月が氷のように冷たい。


黒猫はふと言った。


「俺は生き残った。

 生きるより死ぬ方が似合うと、何度も言われたのにな」


小鳥は足元の霜を蹴って、ふわりと笑う。


「じゃあ死ななかった理由は、その言葉を間違いにするためですね!」


黒猫は答えない。

けれど沈黙は、昨日より柔らかかった。



---


◆三日目


小鳥が未来の地図を地面に描く。

墨の線は細いが、伸びるその先は果てしない。


「ここは黒猫さんが『帰る場所』になる予定地です!

 黒猫さんが帰りたいときだけ帰ればいいんです!」


「……帰る、か」


その二文字を、黒猫は少しのあいだ口の中で転がすように呟いた。



---


◆四日目


焚火の前で黒猫は初めて、過去の欠片をひとつ置いた。


「俺が殺したんだ。味方も、友も、愛した人も。

 戦場という名の神様に、全部焼かされた」


小鳥は怯えなかった。

ただ両手を膝に置き、まっすぐ聞いた。


「それでも、その人は黒猫さんの手を取ったんですよね?」


焔がぱちりと爆ぜた。

黒猫は視線を落とした――否定しなかった。



---


◆五日目


二人は新しい言葉を探す夜を迎える。

「いつかきっと」はまだ名を持たぬ未来。


小鳥が提案する。


「“羽音の明日”なんてどうです?

 飛べるか分からないけど、羽ばたこうとする音のことです!」


黒猫は目を閉じて聞いていた。


「あの陽だまりが言った、報われる未来……

 言い換えるなら、“影ごと抱く明日”かもしれないな」


光だけじゃなく、影も道連れにして歩く未来。

二人の言葉はまだ遠く、でも確かに近づいていた。



---


◆六日目


小鳥は黒猫に弓を教わる。

指の力加減、呼吸の置き場所、獲物の先にある命の意味。


「生きるのは奪うことだって、小鳥言いました」

「覚えてる」


「じゃあ今度は、与えることも教えてください」


黒猫の喉が熱い火に焼かれたように震えた。


「……そんな日が来るなら、悪くない」



---


◆七日目・満期前夜


星が降るほど散らばる夜。

二人は最後の火を前に、未来に名を与えた。


黒猫は低く、小さく、だが確かな声で言う。


「“向こう岸”だ」


小鳥は目を輝かせた。


「渡るんですね!黒猫さんが辿りつけなかった場所に!」


「そうだ。

 死んだ影も、傷だらけの俺も、小鳥の羽音も全部連れていく」


小鳥は笑った。焔よりも明るく。


「じゃあ明日からは 向こう岸を目指す旅 ですね。

 黒猫さんと、小鳥の二人で」


夜明けの薄紅が空に滲む。

“いつかきっと”はもう、漠然ではない。


名前を得た未来は、歩ける道になる。


明日、その一歩目が踏みしめられる。


隊長「ほら、満期終了の証明書と金な、後これは早朝に振舞ってたスープ代だな、これは兵士が有志で集めた心ばかりというやつだ、受け取っておけ(日本円で約30万)」といって小鳥に手渡す

「ぇ!え!?良いんですか!?小鳥ただ作っただけですよ!?というか、色つけて貰ってますけど、契約書より多すぎます!」

「こっちのはお前さんのだな、結構長い間此処に居たからな、かなりの金額だが…どうする?ギルドカードに入れとくか?」

「あぁ、頼む」

机の上にカードを置いて殆どの金を入れる黒猫


小鳥は受け取った巾着をぎゅっと抱え込み、まだ朝の冷たい空気の中で少しそわそわしながらも、目に光を宿して隊長を見上げる。


「本当に、ありがとうございます…!こんなに…!でも、これでまた新しいことに挑戦できます!」


隊長は軽く笑い、肩をすくめる。

「お前さんが働いた分だ。文句を言う筋合いはない。しっかり次に繋げろよ」


小鳥は深く頷き、胸に抱いた袋をぎゅっと握り直す。

「はい…絶対に無駄にしません!」


その後ろで、黒猫は小鳥を静かに見つめていた。

目の端にわずかに笑みを浮かべながら、声にならない安心感を湛えている。


「これで、満期の旅立ちにふさわしい準備が整ったな」と、誰も言わなくても空気が告げているような朝だった。

  

 黒猫は煙草の先を火で炙りながら、ゆっくりと小鳥を見下ろす。



兵舎を出て街を歩きながらポつりと

「本当にこんなに…貰ってよかったのかな…!」


煙を吐きながら黒猫は言う

「良いんだ。お前は契約をこなしただけじゃない。

 疲弊した兵士たちの夜を支え、弱き者の笑顔を守った。

 その価値は金だけじゃ計れん」


小鳥は手を握りしめ、目をぱちぱちさせる。

「でも……本当に……いいんですか?私……ただスープ作っただけなのに……?」


「ただ……だけ、だと?

 その“ただ”があるから、みんな生き延びられたんだ。

 金は後から付いてきただけの話だ」


小鳥は小さく息を吐き、その言葉を胸に抱きしめる。

「ありがとうございます……黒猫さん……!」


黒猫は片手で髪をかき上げ、夜風に目を細める。

「……ま、あとは向こう岸でどう生きるかだな」


小鳥は小さくうなずき、心の中でそっと誓う。

「向こう岸まで、必ず届けます……“いつかきっと”を」

 

吐く息が白く立ち昇り、小鳥の声だけがやけに澄んで響いた。



「それはそれとして

小鳥、初めて知りました…!黒猫さんギルド入ってるんですか!?!?」


黒猫は歩みを止めず、ちらりと横目だけ向けた。

陽の光を受けて、片方の瞳だけが金のように揺れる。


「必要なときに使う。…ただそれだけだ」


あっさりした返答なのに、そこには長年拭えない旅と血の匂いが滲む。

肩の片側しかない体、その影の深さまで抱えて進む彼らしい言い方。


小鳥はぽかんと口を開け、次の瞬間ぱぁっと笑った。


「なんか!もっと闇とか狂気とか背負った孤高の存在かと思ってました!

ギルドカード持ってるとか、意外と普通の人みたいで可愛いです!」


「……可愛いは余計だ」


でも否定は薄い。

どこか照れた猫の唸り声にも似て、低く胸に響く。


小鳥はスキップしながら並び、ローブの裾が朝日に跳ねた。


「じゃあ決まりですね!小鳥の里に行って義手つけたら、次は黒猫さんのギルド登録内容も書き換えましょう!

新しい旅用に!仲間欄に“小鳥”って!…あ、敬称はどっちがいいです?」


黒猫は鼻で笑い、小鳥の足元に落ちた影まで抱き込むように視線を落とした。


「勝手に書け。ただし――」


一拍、風が二人の間を撫でていく。

遠い冬の名残が、まだ彼の声に残る。


「書くなら、“同行者”だ」


仲間でも、家族でも、憐憫でもない。

けれど確かに傍らを許した言葉だった。


小鳥の胸が、焚き火より暖かく鳴った。

「それより、小鳥は持ってないのか?」

「何をですか?」

「ギルドカード」

「持ってません!まだ誕生日来てないので!」


黒猫は頭を抱えた…

「つまり、お前はカード無しっと」

「はい!里に着く頃には誕生日迎えてるので作れます!楽しみです!」

はぁー…と空を見上げる黒猫

「お前、それほぼ脱法だろう…税金どうした…」

「街にはいる時の税金ですか?それは全部路銀で賄いました!小鳥はこう見えて頑張り屋なのです!」

「だろうな…とりあえず仮登録するぞ」

「?仮登録は身元引受人居ないとできませんよ?小鳥、里でないと登録できませんよ??」

「俺が変わりになるから、里に着いたら本登録しろ…」


 朝陽が石畳の隙間に金色を流しこみ、二人の影を長く引き伸ばす。

小鳥は「え、え?」と目をぱちくりさせながら立ち止まり、黒猫の言葉の意味を追いかけた。


「俺が変わりになるから、里に着いたら本登録しろ…」


「……それって」

小鳥は胸の奥で、何かがぽん、と跳ねるのを感じた。


「黒猫さんが、小鳥の身元引受人になるってことですか?」


黒猫は頭をかいた後、タバコの火を消しながら

「……他に誰がいる」


いつも通り淡々とした口調なのに、そこには確かに責任と選択があった。

片腕しか残っていないのに、失うものの痛みを知っているのに――それでも拾いあげた繋がり。


小鳥はふわっと笑った。

春風みたいに軽く、けれど胸の底に響く温度で。


「じゃあ小鳥は黒猫さんの、“預かり物”ってことになりますね!!」


「もっと言い方あるだろう…」


黒猫の声は低く呆れたようで、でもどこか苦笑の香りがする。

その表情を見た小鳥は、嬉しさが溢れてくるのを止められない。


「黒猫さんに預けられるなら小鳥は安心です!

だって黒猫さん、生き残るじゃないですか。

小鳥の未来も連れてってくれそうです!」


黒猫はふ、と喉の奥で笑う。

陽だまりを失った男にしては、柔らかい音だった。


「調子のいい奴め。…だが悪くない」


「褒められました!?褒められましたよね!?」


「好きに思っとけ」


二人の会話が、冬の終わりを歩いていく。

黒猫の影と小鳥の声が並んで進む道は、まだ名もない「いつかきっと」の途中。

だが確かに、未来に向かっていた。

1リル1円、1-1.000伸ばした銅貨、1.000銅貨、1万銀貨、10万超えたら金が混じる


シュバルツ、ポケット灰皿みたいなのを持ってるよ、吸ってるのは辛い(メンソール系)

シエルが近くに寄るとタバコを外します

「ガキには煙すら毒だろ」との事


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