渡り鳥のいつかきっと
シュバルツは左手でヒバリの手を触ってる、そんでもって魔力補助しかしてない。
理由?有翼人の魔力特殊すぎて…
黒猫も来る
ただ、産卵は普通だったら命に関わる…なんてことは無いが、今回は猛禽類と渡り鳥、
運が良くても悪くても、命に関わる
白と赤が得意な有翼人たちが産卵場所付近で待機しつつ、グループ(黒猫込)とおばあちゃんは室内で待ってる
この時には既にシエルは翼を全部広げて待機してた、この後に備えるために、いつかきっとを運ぶために
産卵当日、里の空気は張り詰めていた。
ヒバリは翼を大きく広げ、室内の光を浴びながら静かに待機する。羽先は微かに震え、魔力の波動が室内にまで伝わってくる。小鳥の瞳は、内側で渦巻く生命の力をすべて見通すかのように、卵たちを注視している。
室内には黒猫ことシュヴァルツも座り、緊張した面持ちでヒバリの様子をうかがう。グループの他のメンバー、白と赤の羽を持つ有翼人たちは産卵場所付近で待機し、必要に応じて保護や魔力補助ができるよう構えている。おばあちゃんたちもそっと見守り、室内の空気を穏やかに保つ努力をしていた。
「命がけ、とはいえ…これが、いつかきっとのための一歩、なんだよね…」
小鳥は自分の翼を最大限に広げ、魔力を整えながら心の中でそっと呟く。
体内の卵たちを守るため、これから始まる運命の時間に備える――その姿は、雛鳥でありながらも、大空を翔ける大人の鳥そのものだった。
空間の静寂の中、魔力の波が揺らめき、里の中は時間がゆっくりと流れる。外の待機組も、室内の見守り組も、全員が緊張と希望の入り混じった眼差しで、ヒバリと卵たちの行方を見守っている。
産卵は無事終わったが、ヒバリの体は限界を迎えていた。翼は重く、呼吸は浅く、魔力を全力で注ぎ込んだ証がその小さな体に刻まれている。
シエルは迷わず全身の魔力を羽に溜め込み、アルヴィンと共にヒバリを優しく包み込む。羽の内側に温もりと力を流し込むその姿は、言葉を超えた決意の表れだった。
(生きることを、絶対に諦めさせない…!)
ユラとシェリルは素早く行動する。卵三つを抱え、抱卵用の魔法を施して、待機している外の有翼人にそっと渡す。
「白!赤!全力でヒバリに魔力!」
短い言葉には、ヒバリの命を守る緊張と切迫が込められていた。
黒猫ことシュヴァルツは静かにシエルのそばに座り、ヒバリの手を握って体温を確かめる。自身の魔力を慎重に注ぎ、他の有翼人の魔力を邪魔しないよう調整する。
室内には重苦しい静寂が流れつつも、同時に確かな希望が芽生えていた――全員の思いと魔力が、ヒバリを生かすためにひとつに結ばれていたのだ。
ユラは軽やかな足取りで、ヒバリの回復を助ける特製のスープを取りに行く。香ばしくも甘い匂いが漂うと、室内の空気が少し和らぐ。
シェリルはすぐさまヒバリのそばに寄り添い、回復魔法を加えて魔力の循環を促す。赤と白の羽が柔らかく光り、ヒバリの体に生命力を注ぎ込むように揺らめく。
シエルは躊躇しない。出し惜しみなど微塵もせず、自身の魔力を全て羽に注ぎ込む。命が削られようとも、助けることをやめない。その全力の中、自然と口ずさむ歌声がヒバリの意識に届き、心に小さな光を灯す――無意識に奏でる旋律で、生命の鼓動を後押しするように。
羽に包まれ、魔力が流れ込むヒバリは、静かにだが確実に、生きる力を取り戻していく。
黒猫はヒバリの手を握ったまま、息遣いを確認する。
「体温が上がってきた…」と、穏やかながらも少し緊張混じりの声で呟く。
シエルは羽を広げ、魔力を惜しみなく注ぎ込みながらも、その声に反応して小さく頷く。室内に静かに流れる緊張と安堵が入り混じった空気の中、ヒバリの胸の鼓動が徐々に力強さを取り戻していく。
ユラが戻ってきてスープを差し出すと、シェリルは赤と白の光を一層強め、室内全体に温かさが広がる。黒猫はそっと、だが確実にヒバリの手を握り、彼の回復を見守る。
薄く、遠く、まるで霞の向こうから響くように。
ヒバリの独白は、声にならない声で世界の底へ沈んでいった。
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〔 暗闇。羽ばたこうとしても風は掴めない。
脚の感覚もない。胸が苦しい。
眠れば楽になるのに、眠ることが怖い。 〕
僕は…渡り鳥なのに。
オスなのに、卵を抱える身体で。
どちらでもなくて、どちらでもある…中途半端。
あの日からずっと思っていた。
巣の中で笑うみんなの横で、胸の底に沈んだ棘のように。
「どうしてアルは、僕なんかを番にしたの?」
「どうして皆は、僕を群れに入れたの?」
僕は誰のようにもなれなかった。
シエルのように──死の縁すら蹴り飛ばして飛べるほど強くない。
シェリルのように──命を抱く覚悟も、切り取る勇気も持てなかった。
俺はただ、生きたいと泣いた。
ただ怖くて……未来から逃げた。
番になったのも、歩み寄ったのも、
「ひとりが嫌だった」なんて理由じゃ、情けなさすぎる。
だから今、胸の奥で苦しみながら思う。
なんで僕だったんだろう。
なんで僕は選ばれたんだろう。
こんな弱いまま、卵を抱いて終わるなんて──嫌だ。
死にたくなんかない。
でも、生きていた証が残らないほうがもっと怖い。
この卵が、僕のすべてで。
アルとの未来のかたちで。
みんなが守ろうとしてくれてるものだと知っているのに。
僕は今、死から逃げるんじゃない。
未来へ這い戻りたいだけだ。
痛みも呼吸も遠のきながら、
それでも消えぬ熱が胸の中央で光っていた。
──あぁ、まだ、終われない。
もう一度あの声を聞きたい。
もう一度、名前を呼ばれたい。
アルヴィン。
僕は、まだ飛びたいよ。
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シエルの羽は温かい。
黒猫の手は確かで。
あわ玉の匂いさえ、遠くで優しく揺れている。
その全てが、ヒバリの沈みかけた意識を地上に繋ぎ止めた。
次の鼓動は弱々しく──けれど確かに、生へ傾き始める。
ヒバリはまだ、帰ってこれる。
ああ、なんて真っ直ぐで、なんて風みたいな男だろう。
まるで荒野を笑いながら走り抜ける渡りの風──アルヴィンの理由は、飾り気なんて一切なかった。
「帰る家がねぇなら作る!」
「他と違う?それのどこが悪い!」
「グループに入ったらもれなく全員家族だ、文句あっか!」
胸を拳で叩き割るような勢い。
弱さも哀しさも、誰かが抱える暗い影すらも、力業で抱きしめてしまうような不器用な優しさ。
ヒバリは自分を 不完全 だと思った。
だけどアルヴィンからすれば──
完全とか不完全とか関係ねぇ。
羽がある?卵を抱く?性がどう?
そんなん知らねぇ。
お前がヒバリだから選んだ、それだけだ。
その想いは、火種のように赤々しく、ひそやかで、ただひとつの真実。
ヒバリが震える夜もあっただろう。
自分の体を呪った日もあっただろう。
仲間の背を追いかけて、届かない翼を抱えて泣いた日も。
けれどアルヴィンはきっと、何度でも言えた。
「他の誰でもねぇ、お前がいい。」
理由としては粗野で、説明としては子どもじみていて。
でもだからこそ残酷なほど真っ直ぐで、ヒバリの心臓に突き刺さる。
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そして今──瀬戸際で揺れる命へ、あの声は届いている。
ヒバリ、置いていかねぇぞ。
お前が生きて帰る場所は、もうできてんだよ。
逃げても迷ってもいい。
俺が迎えに行く──番だろうが。
ヒバリが産んだ卵は、未来の証。
でもヒバリという存在そのものが、最初の巣だった。
家族は、「違う」から始まる。
アルヴィンはそう知っていたのだ。
その想いが、ヒバリを引き戻す風になる。
どこまでも荒々しく、どこまでも優しい風だ。
欲しい。
ヒバリの影を引き戻すには──風の真ん中にいるアルヴィン自身の声が、どうしても必要になる。
強さにも見える言葉の裏で、あの荒っぽい番が本当はどんな痛みや迷いを抱えていたのか。
「理由は単純」なんて一言で片づけられないほどの愛情が、胸の奥では燃えているはずだ。
俺は強いわけじゃない。
ただ、置いてきた背中があるのが嫌だっただけだ。
群れから零れた鳥が風に呑まれるのを、もう二度と見たくなかった。
ヒバリを選んだのは、哀れだったからじゃねぇ。
あいつが笑ったからだ。
泣きながらでも翼を畳まずに立っていたからだ。
弱くても前に進もうとすんのを、俺は知ってる。
──俺の番に、不完全なんて言葉はねぇ。
帰る家がねぇなら、作りゃいい。
ひとりで飛べねぇ夜は、俺が風になる。
卵を抱く?危ねぇ?
そんなこと最初からわかってんだよ。
怖いんだ。
あいつがいなくなるのが。
俺より先に風にさらわれんのが。
胸がずっと、焼けるみてぇに痛ぇ。
だからヒバリ──
生きろ。
泣いても震えても、卵を産んでも産めなくてもいい。
戻ってこい。
番の場所は、ここにある。
俺がヒバリを選んだんだ。
言い訳なんざ一生させねぇ。
帰ってこい。
俺の風の中へ。
きっと
夜明け前の薄い青。
室内はまだ張り詰めたまま、魔力の光だけが脈のように揺れていた。
シエルの翼は震えながらも広がり続け、アルヴィンの腕は決して離れない。
黒猫はヒバリの手を握り、体温の戻るたびに息を止めて確かめていた。
ユラのスープの香りがほのかに満ちはじめた頃──
微かに、胸が上下した。
最初は風の錯覚かと思うほど小さく。
だが、次の瞬間、乾いた喉が震え、ほそい空気を吸い込む音が確かに響いた。
ヒバリの瞳がひらく。
焦点は定まらず、天井の白さと光の粒を眺めるだけ。
けれどその瞳は生きている。
戻ってきている。
「……あ……れ……?」
声というより、息の欠片。
それでも、部屋の全員の心臓が鳴った。
アルヴィンは堪えられなかった。
涙とも汗とも言えない熱いものを零しながら、ヒバリを強く抱き寄せる。
「──帰ってきたな」
その一言で、ヒバリの目にふわりと涙が滲んだ。
喉はまだ声を作れない。
けれど、震える指先がアルヴィンの腕を掴む。
生きたい
生きて帰ってきた
その意思だけが確かにあった。
そして小さく呼ぶ。
途切れ途切れ、それでも真っ直ぐに。
「……ア、ル……ただいま……」
アルヴィンは何も言わず額を重ねる。
黒猫はそっと手を離し、安堵の息を吐く。
シエルは力を抜いた瞬間膝をつき、それでも微笑んでいた──翼の中にまだ温かい命があることを確かめながら。
外では、白と赤の有翼人たちが静かに羽を畳み、
カゴの中の卵は柔らかい光に包まれて揺れていた。
命は戻った。
渡り鳥は帰巣した。
新しい風が、ここから始まる。
白は治癒
赤は生命力強化とかまぁ、熱血よね、ファイアー!




