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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
冬の里

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48/58

渡り鳥のいつかきっと

シュバルツは左手でヒバリの手を触ってる、そんでもって魔力補助しかしてない。

理由?有翼人の魔力特殊すぎて…

黒猫も来る

ただ、産卵は普通だったら命に関わる…なんてことは無いが、今回は猛禽類と渡り(ヒバリ)

運が良くても悪くても、命に関わる

白と赤が得意な有翼人たちが産卵場所付近で待機しつつ、グループ(黒猫込)とおばあちゃんは室内で待ってる


この時には既にシエルは翼を全部広げて待機してた、この後に備えるために、いつかきっとを運ぶために


 産卵当日、里の空気は張り詰めていた。

ヒバリは翼を大きく広げ、室内の光を浴びながら静かに待機する。羽先は微かに震え、魔力の波動が室内にまで伝わってくる。小鳥の瞳は、内側で渦巻く生命の力をすべて見通すかのように、卵たちを注視している。


室内には黒猫ことシュヴァルツも座り、緊張した面持ちでヒバリの様子をうかがう。グループの他のメンバー、白と赤の羽を持つ有翼人たちは産卵場所付近で待機し、必要に応じて保護や魔力補助ができるよう構えている。おばあちゃんたちもそっと見守り、室内の空気を穏やかに保つ努力をしていた。


「命がけ、とはいえ…これが、いつかきっとのための一歩、なんだよね…」

小鳥は自分の翼を最大限に広げ、魔力を整えながら心の中でそっと呟く。

体内の卵たちを守るため、これから始まる運命の時間に備える――その姿は、雛鳥でありながらも、大空を翔ける大人の鳥そのものだった。


空間の静寂の中、魔力の波が揺らめき、里の中は時間がゆっくりと流れる。外の待機組も、室内の見守り組も、全員が緊張と希望の入り混じった眼差しで、ヒバリと卵たちの行方を見守っている。


 産卵は無事終わったが、ヒバリの体は限界を迎えていた。翼は重く、呼吸は浅く、魔力を全力で注ぎ込んだ証がその小さな体に刻まれている。


シエルは迷わず全身の魔力を羽に溜め込み、アルヴィンと共にヒバリを優しく包み込む。羽の内側に温もりと力を流し込むその姿は、言葉を超えた決意の表れだった。

(生きることを、絶対に諦めさせない…!)


ユラとシェリルは素早く行動する。卵三つを抱え、抱卵用の魔法を施して、待機している外の有翼人にそっと渡す。

「白!赤!全力でヒバリに魔力!」

短い言葉には、ヒバリの命を守る緊張と切迫が込められていた。


黒猫ことシュヴァルツは静かにシエルのそばに座り、ヒバリの手を握って体温を確かめる。自身の魔力を慎重に注ぎ、他の有翼人の魔力を邪魔しないよう調整する。

室内には重苦しい静寂が流れつつも、同時に確かな希望が芽生えていた――全員の思いと魔力が、ヒバリを生かすためにひとつに結ばれていたのだ。


 ユラは軽やかな足取りで、ヒバリの回復を助ける特製のスープを取りに行く。香ばしくも甘い匂いが漂うと、室内の空気が少し和らぐ。


シェリルはすぐさまヒバリのそばに寄り添い、回復魔法を加えて魔力の循環を促す。赤と白の羽が柔らかく光り、ヒバリの体に生命力を注ぎ込むように揺らめく。


シエルは躊躇しない。出し惜しみなど微塵もせず、自身の魔力を全て羽に注ぎ込む。命が削られようとも、助けることをやめない。その全力の中、自然と口ずさむ歌声がヒバリの意識に届き、心に小さな光を灯す――無意識に奏でる旋律で、生命の鼓動を後押しするように。


羽に包まれ、魔力が流れ込むヒバリは、静かにだが確実に、生きる力を取り戻していく。

 黒猫はヒバリの手を握ったまま、息遣いを確認する。


「体温が上がってきた…」と、穏やかながらも少し緊張混じりの声で呟く。


シエルは羽を広げ、魔力を惜しみなく注ぎ込みながらも、その声に反応して小さく頷く。室内に静かに流れる緊張と安堵が入り混じった空気の中、ヒバリの胸の鼓動が徐々に力強さを取り戻していく。


ユラが戻ってきてスープを差し出すと、シェリルは赤と白の光を一層強め、室内全体に温かさが広がる。黒猫はそっと、だが確実にヒバリの手を握り、彼の回復を見守る。


 薄く、遠く、まるで霞の向こうから響くように。

ヒバリの独白は、声にならない声で世界の底へ沈んでいった。



---


〔 暗闇。羽ばたこうとしても風は掴めない。

 脚の感覚もない。胸が苦しい。

 眠れば楽になるのに、眠ることが怖い。 〕


僕は…渡り鳥なのに。

オスなのに、卵を抱える身体で。

どちらでもなくて、どちらでもある…中途半端。


あの日からずっと思っていた。

巣の中で笑うみんなの横で、胸の底に沈んだ棘のように。


「どうしてアルは、僕なんかを番にしたの?」

「どうして皆は、僕を群れに入れたの?」




僕は誰のようにもなれなかった。

シエルのように──死の縁すら蹴り飛ばして飛べるほど強くない。

シェリルのように──命を抱く覚悟も、切り取る勇気も持てなかった。


俺はただ、生きたいと泣いた。

ただ怖くて……未来から逃げた。

番になったのも、歩み寄ったのも、

「ひとりが嫌だった」なんて理由じゃ、情けなさすぎる。


だから今、胸の奥で苦しみながら思う。


 なんで僕だったんだろう。

なんで僕は選ばれたんだろう。

こんな弱いまま、卵を抱いて終わるなんて──嫌だ。




死にたくなんかない。

でも、生きていた証が残らないほうがもっと怖い。

この卵が、僕のすべてで。

アルとの未来のかたちで。

みんなが守ろうとしてくれてるものだと知っているのに。


僕は今、死から逃げるんじゃない。

未来へ這い戻りたいだけだ。


痛みも呼吸も遠のきながら、

それでも消えぬ熱が胸の中央で光っていた。


──あぁ、まだ、終われない。

  もう一度あの声を聞きたい。

  もう一度、名前を呼ばれたい。


アルヴィン。

僕は、まだ飛びたいよ。



---


シエルの羽は温かい。

黒猫の手は確かで。

あわ玉の匂いさえ、遠くで優しく揺れている。


その全てが、ヒバリの沈みかけた意識を地上に繋ぎ止めた。


次の鼓動は弱々しく──けれど確かに、生へ傾き始める。


ヒバリはまだ、帰ってこれる。


 ああ、なんて真っ直ぐで、なんて風みたいな男だろう。

まるで荒野を笑いながら走り抜ける渡りの風──アルヴィンの理由は、飾り気なんて一切なかった。




「帰る家がねぇなら作る!」

「他と違う?それのどこが悪い!」

「グループに入ったらもれなく全員家族だ、文句あっか!」


胸を拳で叩き割るような勢い。

弱さも哀しさも、誰かが抱える暗い影すらも、力業で抱きしめてしまうような不器用な優しさ。


ヒバリは自分を 不完全 だと思った。

だけどアルヴィンからすれば──


完全とか不完全とか関係ねぇ。

羽がある?卵を抱く?性がどう?

そんなん知らねぇ。

お前がヒバリだから選んだ、それだけだ。




その想いは、火種のように赤々しく、ひそやかで、ただひとつの真実。


ヒバリが震える夜もあっただろう。

自分の体を呪った日もあっただろう。

仲間の背を追いかけて、届かない翼を抱えて泣いた日も。


けれどアルヴィンはきっと、何度でも言えた。


「他の誰でもねぇ、お前がいい。」


理由としては粗野で、説明としては子どもじみていて。

でもだからこそ残酷なほど真っ直ぐで、ヒバリの心臓に突き刺さる。



---


そして今──瀬戸際で揺れる命へ、あの声は届いている。


ヒバリ、置いていかねぇぞ。

お前が生きて帰る場所は、もうできてんだよ。

逃げても迷ってもいい。

俺が迎えに行く──番だろうが。




ヒバリが産んだ卵は、未来の証。

でもヒバリという存在そのものが、最初の巣だった。


家族は、「違う」から始まる。

アルヴィンはそう知っていたのだ。


その想いが、ヒバリを引き戻す風になる。

どこまでも荒々しく、どこまでも優しい風だ。

 欲しい。

ヒバリの影を引き戻すには──風の真ん中にいるアルヴィン自身の声が、どうしても必要になる。

強さにも見える言葉の裏で、あの荒っぽい番が本当はどんな痛みや迷いを抱えていたのか。

「理由は単純」なんて一言で片づけられないほどの愛情が、胸の奥では燃えているはずだ。



 


俺は強いわけじゃない。

ただ、置いてきた背中があるのが嫌だっただけだ。

群れから零れた鳥が風に呑まれるのを、もう二度と見たくなかった。

ヒバリを選んだのは、哀れだったからじゃねぇ。


あいつが笑ったからだ。

泣きながらでも翼を畳まずに立っていたからだ。

弱くても前に進もうとすんのを、俺は知ってる。


──俺の番に、不完全なんて言葉はねぇ。


帰る家がねぇなら、作りゃいい。

ひとりで飛べねぇ夜は、俺が風になる。

卵を抱く?危ねぇ?

そんなこと最初からわかってんだよ。


怖いんだ。

あいつがいなくなるのが。

俺より先に風にさらわれんのが。

胸がずっと、焼けるみてぇに痛ぇ。


だからヒバリ──


生きろ。

泣いても震えても、卵を産んでも産めなくてもいい。

戻ってこい。

番の場所は、ここにある。

俺がヒバリを選んだんだ。

言い訳なんざ一生させねぇ。


帰ってこい。

俺の風の中へ。












きっと

夜明け前の薄い青。

室内はまだ張り詰めたまま、魔力の光だけが脈のように揺れていた。

シエルの翼は震えながらも広がり続け、アルヴィンの腕は決して離れない。

黒猫はヒバリの手を握り、体温の戻るたびに息を止めて確かめていた。


ユラのスープの香りがほのかに満ちはじめた頃──


微かに、胸が上下した。


最初は風の錯覚かと思うほど小さく。

だが、次の瞬間、乾いた喉が震え、ほそい空気を吸い込む音が確かに響いた。


ヒバリの瞳がひらく。


焦点は定まらず、天井の白さと光の粒を眺めるだけ。

けれどその瞳は生きている。

戻ってきている。


「……あ……れ……?」


声というより、息の欠片。

それでも、部屋の全員の心臓が鳴った。


アルヴィンは堪えられなかった。

涙とも汗とも言えない熱いものを零しながら、ヒバリを強く抱き寄せる。


「──帰ってきたな」


その一言で、ヒバリの目にふわりと涙が滲んだ。

喉はまだ声を作れない。

けれど、震える指先がアルヴィンの腕を掴む。


生きたい

生きて帰ってきた

その意思だけが確かにあった。


そして小さく呼ぶ。

途切れ途切れ、それでも真っ直ぐに。


「……ア、ル……ただいま……」


アルヴィンは何も言わず額を重ねる。

黒猫はそっと手を離し、安堵の息を吐く。

シエルは力を抜いた瞬間膝をつき、それでも微笑んでいた──翼の中にまだ温かい命があることを確かめながら。


外では、白と赤の有翼人たちが静かに羽を畳み、

カゴの中の卵は柔らかい光に包まれて揺れていた。


命は戻った。

渡り鳥は帰巣した。

新しい風が、ここから始まる。

白は治癒

赤は生命力強化とかまぁ、熱血よね、ファイアー!

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