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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
冬の里

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35 シエルへ

みんなシルヴィア好きだねぇ?

里に帰ってきて、3日目

私はあの後今日まで寝てたみたい…自分でも実感がわかない。けどうらうらする感覚で「ぁ、魔力不足だ…」ということはわかる…。

ご飯を食べなきゃ…少しでも回復を早めなきゃ…

そう思ってリビングに行くと長老が小さな箱を抱えて…待ってた。



長老は、昼の光に満ちていた部屋で顔に影を浮かべながら…、シエルを見つめ「お前に知らせねばならないことがある…」と

シエルの前に差し出された小箱は、異様に重く見えた。


「……シルヴィアは、もういない」


長老の声は静かだった。

それが、余計に胸へ落ちてきた。


シエルは何も言えず、小さな手で小箱を受け取る。

中には、指輪と一通の手紙。


黒猫は、何も言わずに背後へ一歩下がった。



---


シルヴィアの手紙


> シエルへ


あなたがこれを読むとき、私はもうそばにはいないかもしれません。

でもね、悲しまないで。

あなたと過ごせた日々は、私の一生の誇りです。


生きて。

どんな形でもいいから、生き続けて。

あなたの翼は、まだ空を知らないだけ。


歌を忘れないで。

それは命の証で、希望の火です。


いつかきっと、あなたの未来が光に満ちますように。


――シルヴィア





---


追伸に、シエルの視線が止まる。


> 追伸

黒猫さんに会ったら、この指輪を返してあげてください。

あの人は、何も知らずに渡したのでしょうけれど

私には、なぜかそれが“約束”の形に見えました。





---


「……黒猫、さん?」


シエルは指輪を見つめ、そっと指でなぞる。

そして、ゆっくりと振り返った。


「黒猫さん……お姉ちゃんに、会ったこと……ありますよね?」


その瞬間。

シュバルツの呼吸が、止まった。


視線を逸らしたまま、低く呟く。


「……ああ」


それだけで、十分だった。


あの指輪。

戦場の片隅で、冗談みたいに渡した“おまじない”。

守れなかった命が、今ここで遺品になって戻ってきている。


――逃げ道は、もう無い。


「……姉さんのこと。ちゃんと話す」


黒猫の声は、ひどく掠れていた。


シエルは何も言わず、ただ指輪を胸に抱いた。


それはもう

失われた命の重さであり、未来を縛る約束でもあった。



夜だった。


里の灯りが、遠くで滲んでいた。

焚き火の前に、シエルと黒猫は並んで座っている。


指輪は、シエルの手の中にある。


「……約束してくれ」


黒猫が言った。


「途中で、もう聞けないと思ったら、やめる。無理はしなくていい」


シエルは、小さく首を振る。


「……聞きます。

 お姉ちゃんが、どこで、どうやって……」


黒猫は、しばらく火だけを見ていた。


炎の色が、あの夜と同じだった。



---


「依頼だった。

 よくある、街道沿いの討伐」


低い声。感情を削ぎ落とした語り口。


「陽だまりみたいな奴だった。

 笑って、前を向いて、無茶をして――

 それでも、誰よりも生きたがってた」


一瞬、言葉が詰まる。


「……捕まったのは、俺のせいだ」


その一言だけが、夜に落ちる。





「囲まれた。

 俺は、突っ込んだ。間に合うと思った」


焚き火が、ぱちりと鳴った。


「間に合わなかった」


その声は、ひどく静かだった。





「……俺が辿り着いた時、

 もう、声も出せなかった」


息を吸う音が、微かに震える。


「それでも、あいつは笑った。

 血だらけで、息も浅くて――

 それでも、俺を見て、笑った」


黒猫の喉が、鳴る。


「“生きて”って、言われた」





シエルの指が、ぎゅっと指輪を握る。





「俺の胸には、槍が刺さってた。

 抜けば、すぐ死ぬと分かってた」


黒猫は、焚き火を見つめたまま言う。


「……それでもあいつは、俺の手を離さなかった」


そこで、ようやく視線が落ちた。


「――離してくれなかった」





「だから俺は、生き残った」


自嘲も、涙もない、ただの事実。


「腕の中で、あいつが冷たくなるまで、

 俺は、動けなかった」





沈黙。


風が、夜を撫でる。





「……その時だ。

 あの指輪を見たのは」


黒猫は、シエルの手の指輪を見る。


「俺が、冗談で渡したやつだ。

 “帰ってきたら返せ”って――

 そんな軽い約束だった」


唇を噛みしめる。


「……返らなかった」





「俺は、あの日からずっと、逃げてた」


声が、わずかに揺れる。


「戦って、殺して、何も考えずに――

 それでいいと思ってた」





黒猫は、ゆっくりとシエルを見る。


「でも、お前がその指輪を持って現れた」


一拍。


「……もう、逃げられなくなった」





シエルの目から、音もなく涙が落ちる。


「……お姉ちゃん……黒猫さんのこと……」


黒猫は、短く言う。


「……好きだった」


それだけで、十分だった。




「だから俺は、お前を守る」


低く、確固とした声。


「贖罪じゃない。

 約束だ」





シエルは、静かにうなずいた。


「……一緒に、生きます」


その言葉に、黒猫は何も返さなかった。


けれど焚き火の向こうで、

わずかに、肩が揺れていた。

でも彼女も地獄に落とす側の人だよ

指輪のおまじないは「無事に帰ってこられますように」とかそんな感じのフワッフワしたやつ

後に別のものに変質します

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