小鳥は静かに寄る
4話で1万文字って馬鹿だと思うんだ…
まだ夜も開けぬ早朝
「……ぅー、んぅー!!よしっ」
毛布からガバッと勢いよく起き上がり
背中が開いてるいつもの服の上に防寒用のローブを羽織り、外に出る
朝食前のこの時間は冷えと空腹はしんどい、小鳥もしんどいです。
薄明がまだ空に滲む前、草原には白い息がゆっくりと漂っていた。
焚き火の名残は赤く沈み、夜番の兵士たちは肩をすくめて交代を待っている。
そこへ、ローブの裾を揺らしながら小鳥が走る。
頬は冷気で赤く、目だけは太陽のように生きていた。
「交代でーす!夜番お疲れ様です!
小鳥の夜食ですが、スープあります!飲みますかー?」と聞いて回る
声は高く澄み、冷えた空気の中でよく響く。
兵士たちは思わず笑って頷き、片手を差し出す。
小鳥は手際よく湯を足し、鍋の中身を杓子で混ぜる。
ふわっと立つ鶏の出汁の香りに、誰かの腹がきゅっと鳴った。
材料は鶏の干し肉、乾燥葉野菜、乾燥させたパン(クルトンのようなもの)
「黒猫さんも、一応。携帯食混ぜて煮込んだんで、そこそこ栄養あります!」
「もらう」との事だったので小鳥の携帯食を混ぜて作ったスープを温め直して手渡してゆく
黒猫にも同じように湯気の立つ木の椀を差し出す。
椀の表面にはとろりと脂が浮き、乾燥パンはふやけて柔らかい。
干し肉と野菜から染み出した塩気が、朝の冷えた体にじわりと染みる味だ。
黒猫は受け取る指先だけで礼を言い、ひと口すすった。
喉を通るそれは、胸の奥にまで降りていくようにあたたかい。
「……うまい。」
その言葉は小さく、けれど確かだった。
小鳥は胸を張って笑う。
「当たり前です!小鳥の料理は小鳥が一番に保証します!」
その明るさに黒猫の口元が、微かに、ほんの少しだけ緩んだ。
気づく者はほとんどいないほどの変化。
だが確かにそこに、昨日なかった温度がある。
見張り台の上、空は藍を薄めながらゆっくりと金に変わっていく。
朝はまだ完全には来ないが──夜の終わりは静かに告げられた。
冷えた指先、くぐもる息、スープの香り。
それらが、ここに生があると囁くように漂っていた。
小鳥は空を見上げ、言う。
「今日も、生きてますね。黒猫さん。」
黒猫は返事の代わりに、またひと口すする。
湯気が二人の間でふわりと揺れ、朝が始まる。
焚き火の赤がまだ灰の奥に息を潜めている時間。
小鳥は空を見上げながら、言葉をぽとりと落とした。
「小鳥はですね、1番好きなスープは姉が作ってくれた物なんです」
風がさらりとローブを撫でる。
気負いのない調子。だけど、その奥にだけ宿るあたたかさ。
「姉は騎士だったのでなかなか帰って来なくって、
あと歳が離れすぎてて……小鳥、姉を親戚の人だと思ってました」
黒猫は椀を持ったまま目を伏せる。
小鳥の声が硬くも泣きもせず、ただ淡々と語るのが逆に胸に沁みる。
「今日のは姉の味の再現に近いんですが……
携帯食だけだとやっぱり遠いですね。香りだけは追い付けましたが」
笑っているようで、その笑みにほんの影があるのを黒猫は見逃さなかった。
けれど小鳥は続けた。まるで未来へ羽ばたく小さな翼の音のように。
「でもね、黒猫さん。味が違っても、小鳥はあの時の温かさを忘れてません。
だって、小鳥の翼を最初に見つけてくれたのは姉でしたから」
スープの湯気がゆらりと昇り、朝の白と混ざり合う。
黒猫はしばらく黙っていたが──やがて椀を置き、ゆっくりと目を上げた。
「……おまえの姉は、優しかったんだな」
小鳥は嬉しそうに笑う。太陽より軽やかに。
「はい!世界で一番の騎士で、世界で一番の姉です!」
その笑みは眩しく、暖かく、そして残酷なほどに真っ直ぐだった。
黒猫の胸の奥、刺さった槍の痛みの残滓が熱を帯びる。
失った陽だまりと、目の前の小鳥が重なりそうで、重ならない。
だが──その差異こそが救いでもあった。
炎の色が夜明けの金と溶け合う。
朝はもうすぐそこまで来ている。
黒猫は再び椀を手に取り、最後の一滴まで飲み干した。
「ああ……悪くない」
小鳥は羽を震わせるみたいに嬉しそうに肩を揺らした。
「では次は、もっと近づけますね。
黒猫さんが、生きてるうちに!」
その宣言は、約束にも願いにも似ていた。
世界はまだ夜だが、
二人の間には確かに火が灯っていた――。
「小鳥はもうすぐこのお仕事が満期になるのですが、黒猫さんはいつ終わりますか??」
「いつでも」
「なんですか?そのそこら辺フラフラしてる根無し草みたいな返答は??」
黒猫は肩をすくめて、少しだけ笑った。
「根無し草でも、根っこはある。
ただ……誰かのために植わるのが遅れてるだけだ」
小鳥は首をかしげて、眉を寄せる。
「……意味わかんないですよ、黒猫さん。
でも、そう言いながらちゃんとここに居るんですね」
黒猫は夜空を見上げて、淡く光る星々を指でなぞる。
「そうだ。ここにいる。…満期とか、期限とか、そんなものは関係ない」
小鳥はちょっと口元をゆがめ、でも目はキラキラしていた。
「じゃあ……小鳥も、黒猫さんのそばでフラフラしていいですか?」
黒猫はゆっくりと頷いた。
「……ああ、いい。お前が居る限り、ここは根無し草じゃない」
焚き火が二人の影を揺らす。
根無し草みたいにフラフラしても、確かに温かい居場所がそこにあった。
「満期迎えたらまず小鳥の里に行って腕を造るんですよね?そのあとはどうします?」
焚き火の橙が、黒猫の頬の古傷を柔らかく照らした。
ふっと息を吐くように、彼はスープの湯気の向こうで答えを探す。
「腕ができたら……そうだな。
ようやく両の手で、思い出に触れられる気がする」
小鳥は薪を整えながら、黙って続きを待った。
黒猫はゆっくり言葉を紡ぐ。
「それから先は……風の行く方だ。
恩のある人間にも、果たせぬ約束にも、まだ背を向けられない」
火の粉が星のように跳ねる。
「だが──もし、お前が望むなら」
片腕の袖が風に揺れ、琥珀の瞳が小鳥を射抜く。
「小鳥の里の空も、その先の地平も、共に歩く」
小鳥はぱちぱちと瞬きをして、目の奥で焔の色を揺らした。
驚きでも否定でもなく、ただまっすぐな輝き。
「じゃあっ!!」
羽ばたくみたいに手を広げて笑う。
「黒猫さんの旅路の最初を、小鳥が案内します!
山を越えて、川を渡って──ひだまりの人が眠った丘も、全部連れていく!」
黒猫は短く息を呑んだ。
胸に刺さった槍の痛みよりも、もっと深く響くものがあった。
「……重いぞ、その願いは」
「知ってますよ!
でも、黒猫さん一人で持つより二人の方が軽いです!」
小鳥は夜明け前の空気みたいに無邪気で澄んでいた。
黒猫の影は揺れ、だがもう孤独ではなかった。
いつかきっと──
その言葉は呪いじゃなく、踏み出すための翼へと変わっていく。
小鳥の姉──陽だまりの人。
スープを飲むたびに黒猫の胸をかすめた痛みと、あの日の温度が再びよぎる。そりゃ、ねぇ、姉妹ですから??
ざっくり種族
人間、エルフ、ドワーフ、有翼人、普通の動物、魔物など
細かく分けると面倒臭いよ!




