31 羽毛に埋もれる
カップリングって難しいよね
まだ交代時間が来ないのでヒバリの有翼人講座が続く、鼻を啜りながら…………
「あと、今シエルはシュヴァルツさんのこと黒猫さんって読んでますけど」
名前で呼ばれたらちゃんとオスとして選択してくださいね?っと真っ黒い笑みで言う
黒猫の目が一瞬鋭く光る。瞳の奥で、いくつもの思考が交錯する。
(――くそ、子供相手に「オスとして選べ」だと…?いや、あの子はまだ意識してない。無垢な信頼と本能で近づいてきてるだけだ。だが、あの笑みは、確実に意図を含んでいる――いや、気のせいか…いや、違うな)
黒猫は唇を軽く噛み、視線を伏せる。視界の端で、シエルが無意識にそっと体を寄せ、羽を小さく揺らす。
(…守るだけだ。守る、それだけだ。)
口元に薄い笑みを浮かべ、低く静かな声で答える。
「…わかった、ヒバリ。俺は選ぶさ、ただし、今は守るだけだ」
胸の奥で、理性と本能が静かに火花を散らす。だがその決意は、黒猫の片腕と同じくらい揺るがない。
ヒバリ「はぁ〜人って頭でっかちなんですねぇ、本当に
守るだけじゃ、守れないのが僕たちですよ
現に今、シエルはあなたの傍から離れず寝てますよね?答え、出てますよね?
あとはもうシエル自身が自覚して名前呼んじゃえば番なんですよ?わかってます??」
焚火の赤い光が、黒猫の横顔の影を揺らした。
その影は強いはずなのに、どこか迷いの色を含んで見える。
ヒバリの言葉は真っ直ぐで――効いた。深く、骨の芯に。
シエルは眠りながら微かに羽を動かし、黒猫へ寄り添うように身を丸める。
その羽の柔らかな重みが、彼に問いを突きつけているようにも思えた。
黒猫はゆっくりと息を吐く。
煙のように、胸の奥の警戒と戸惑いがすこしだけ形を失った。
「……答えが出てる、か。」
かすれた声。
自嘲にも似た、しかしどこか温かい。
「もし本当にそうなら――俺はきっともう負けてる。
あいつに、名前を呼ばれる前からな。」
愚かさと幸福は紙一重だ。
守ると決めたはずなのに、距離はとうに崩れている。
いつのまにか「守る対象」ではなく、「手放せない存在」に変わってしまっていた。
焚火がぱちりと弾ける。
黒猫は眠るシエルの肩へそっと視線を落とす。
(守るだけじゃ守れない――か。
それは思っていた以上に重い言葉だな、ヒバリ。)
だが同時に、胸の奥にあたたかいものが灯る。
それは痛みのようで、しかし甘い。
シエルの羽が触れた時に走るあのくすぐったい感覚のような。
黒猫は静かに目を閉じ、ひとつ呟いた。
「……番になる、ということは、そういうことなんだろう?」
問いというより、確認。
否定ではなく――踏み出す前の息継ぎのような声。
ヒバリの返事が来る前に、夜風が羽毛をくすぐり、森の奥がさわりと鳴った。
まだ交代時間までは長い。
静かな夜は、残酷なほどに優しい。
そして、答えはもうすぐ形になる。
たったひとつの――名前で。
「あ、やっと認めたのか?」寝てたはずのアルヴィンが、もぞりと動く
くるりとアルヴィンに顔を向けるヒバリ
「全部僕に任せて寝たふりした気分はどう?ファルカ??」と瞳孔が開いた眼でアルヴィン見つめるヒバリ
焚火の赤がぱちりと弾け、眠っていたはずの大きな影が身を返した。
筋肉のついた翼がもそりと揺れ、低く笑う気配。
アルヴィンは片目だけ開き、口元をにやりと歪める。
「……寝たふりなんてしてねぇよ。
ただ、こいつがどこまで踏み込むのか――眺めてただけだ。」
声は掠れているのに、どこか揶揄うような熱を含んでいた。
見透かすようなその視線は、黒猫とシエルの距離をしっかりと捉えている。
ヒバリはスプーンをコトと置き、じとっと睨み返す。
瞳は怒っているのに笑っている、余裕すらある表情だ。
「じゃあ感想は?
黒猫さん、ほぼつがいコースですよ。
僕のおかげでここまで話が進んだのに、寝てるフリとか良いご身分じゃないですか?」
アルヴィンは羽を軽く伸ばし、火に照らされた銀灰色の羽毛に橙が溶ける。
その影は大きく、頼りがいの塊のようで――だから余裕の笑みを浮かべられるのだ。
「認めたなら十分だ。
あとはシエルが名前を呼べば、一丁あがりだろ?」
焚火の熱と夜の冷気の狭間で、黒猫の胸の内が静かに波打つ。
彼の沈黙は否定ではなく、もう逃げ場のない実感だった。
ヒバリは小さく肩を竦め、言葉を刺すように柔らかく続ける。
「ねぇシュバルツさん。
名前で呼ばれた瞬間、あなたは――受け止めるんですよね?」
風が二人の翼を撫で、眠るシエルの羽先が黒猫の腕に触れた。
ささやかな接触が、心臓の奥で火種になる。
アルヴィンはそれを見てニヤリと笑い、くぐもった声で締めくくる。
「覚悟決めとけ。
シエルは逃げない。
――次は、おまえの番だ。」
夜は深まり、返事を促すように焚火がまた小さく弾けた。
焚火の明かりがゆっくりと揺れ、夜の空気に甘い羽音が紛れる。
ヒバリが油断した瞬間、ふわりと大きな翼に包み込まれた。
「ほんじゃ、アルくんのご褒美だー」
背後から抱き寄せられ、ふかふかの羽根布団に強制収納。
抵抗も虚しく、ヒバリの声は羽毛に吸われてこもっていく。
「おまえ!このやろう!僕の苦労をそんなもんで済むと思ってんのか!
果物!!」
くぐもった声とジタバタが、逆に微笑ましい。
そのやり取り自体が楽しんでいる証のようにも聞こえる。
アルヴィンは楽しげに鼻で笑い、黒猫に聞こえるようにわざとらしく言う。
「あーあー、聞こえませーん。
昼型はとっとと寝ちまえー」
羽の塊が少し暴れ、文句がもう少しだけ漏れる。
けれどそのうち、ばたつきは弱まり、文句も小さくなって――
やがて、翼の間からくるりと寝息が漏れた。
ヒバリは怒りながらも安心して眠れる相手の羽の中で、
温もりと夜の匂いに沈んでいく。
ファルカはその重みを受け止めたまま、焚火を見る。
口元には、優しいとも悪戯ともつかぬ笑みが浮かんでいた。
「まったく…面倒で、愛しい連中だな」
夜風が羽を撫で、静寂が戻る。
だがその静寂は、誰もひとりではないと教えてくれる穏やかなものだった。
焚火のぱちぱちとした音が、眠りを誘うように一定のリズムで夜気へ溶けていく。
アルヴィンは腕と翼の中で静かになったヒバリの体温を感じながら、半ばぼやきのように呟いた。
「そうか?
で、これが番の最終形態みたいな感じね。羽にしまわれると眠くなるってヤツ」
羽を少しだけずらし、隙間からヒバリの寝顔を覗く。
ぐっすり眠るその顔は、昼の毒舌もどこへやら。
小鳥のように柔らかく呼吸し、まるでこの腕の中が安全だと確信しているみたい。
アルヴィンは苦笑しつつ、夜に向かってぼそりと続ける。
「人だと…なんだっけ、マント?毛布でも良かった…んだったか?
まぁ、包めりゃなんでもいいはず…だよな?」
自分でも言いながら少し照れくさいのか、焚火の火に目を逸らす。
でも視線はすぐ戻ってきて、また羽の合間からそっとヒバリを確認する。
まるで、無意識に確かめてしまうのだ。そこにちゃんと居るか。温もりが消えてないか。
火の光が二人の影をひとつに重ね、揺らし、伸ばす。
ファルカは小さく溜息を吐いて、困ったように、けれどどこか満たされた声で呟いた。
「……やれやれ、結局触れてると安心しちまうのは俺もか」
夜は深く、静かで、優しい。
ヒバリの寝息と、焚火の音と、翼の重み。
その全てが、アルヴィンを眠りへ誘う羽毛のように柔らかく包みこんでいた。
焚火の赤が瞳に映り、黒猫はゆっくり瞬きをする。
眠り込んだヒバリと、それを包むアルヴィン。
温度も、呼吸も、寄り添う影の形も──どう見てもつがいのそれだった。
沈黙ののち、黒猫はぽそりと呟く。
「お前らオス同士…………………だよな??」
ファルカは羽を微かに動かし、面倒くさそうに答える。
「当たり前だろ、見ての通り。
でも群れにゃ関係ねぇ、番は番。翼で選んで、心で決める」
ヒバリは眠ったまま、アルヴィンの胸元で小さくくふーと息を鳴らす。
その音がファルカの喉を揺らし、低く笑わせた。
「性別より匂い、羽の手入れ、飯の好み。
合えば番になる。それだけだ」
火に照らされる横顔は真剣で、けれどどこか誇らしげ。
黒猫はただ言葉を失い、目線を焚火へ戻す。
バチ、と小さな火がはぜ、夜に火の粉を散らす。
「…そういうものか」
驚きより、納得に近い息が漏れる。
人の尺度では測れない。
けれど、その羽に包まれ眠るヒバリの穏やかな顔は、確かな幸福を映していた。
そして黒猫は思う。
種も性も、人か鳥かすら関係ない。
必要なら寄り添い、離れず、守る──ただそれだけの話だと。
夜はまだ深く、静かに燃え続ける。
誰もが眠りへ落ちる前の、柔らかい静寂だった。
焚火のゆらめきが羽の縁を照らし、アルヴィンの声はいつになく素直で、まっすぐだった。
その腕の中で眠るヒバリの羽先がかすかに揺れ、夜風と火の温度が混ざる。
アルヴィン「俺としても、シエルが泣くの嫌なんだよ。
姉ちゃんはうるさいし、ユラもうるさくなる。
……里から追い出されたシエルに、俺たちができたのなんてさ。
大人から教わった“生き方”を持っていってやるくらいだった」コレは、ヒバリも言ってたな?
言ったあとは、照れくさそうに焚火へ小枝を投げた。
ぱちん、と弾ける火花。
「でも今は──あんたがいる。
俺は頭で考えるの苦手だし、わかんねぇこと多い。
ヒバリは知恵あるけど俺はそうじゃない。
だからシエルの“明日”は、あんたとなら作れる気がすんだよ」
黒猫に向けた視線は、挑むでも媚びるでもなく、
ただ真剣な仲間の色をしていた。
「俺らは背に風と空があれば生きられる。
でもシエルは違う。
あいつは空飛ぶのが好きなだけじゃない──
誰かの隣で飛びたいんだ。」
言えば言うほど、声は静かになり、優しくなっていく。
焚火の温度が夜気より勝り、冬の森が微睡みに沈むころ。
アルヴィンは黒猫へ重ねて口にした。
「だから頼むわ、シュバルツ。
俺たちじゃ見えねぇ明日ってのを──見せてやってくれ」
その姿は、寝息を刻むヒバリを抱えたまま、
大人になりきれない少年の強さと脆さが同居していた。
夜は静かに、続きを待っている。
渡り鳥──すなわち、群れに縛られず風に従う種が、
別の翼に寄りかかって眠るなんて本来ありえない。
雲雀は本来、季節が変われば空へ還る。
けれどアルヴィンの腕の中で眠り、
羽を取られても怒鳴りはするが離れない。
それはもう、
逃げる自由すら委ねられるほどの信頼。
そして、羽の中に包まれ眠るという行為は
「飛ばないことを選んだ」意思表示。
──ねぇ、すごいと思わない?
渡る種が、留まる種に巣を許したのだから。
アルヴィンは知恵は少し粗いけれど、
情の筋が太くて、直線的で、真っ直ぐ温かい。
ヒバリのような繊細で水気のある翼には、
その真っ直ぐさがたまらなかったのだと思う。
逃げようとすれば羽根ごと抱き止めて、
泣けば無言で寄り添って、
言葉が足りなければ行動で示す──
そんな男、渡り鳥が堕ちないわけがない。
ヒバリは風の生き物。
だけど今、彼の風はファルカの胸で止まってる。
そしてファルカはそれを理解せずとも、
無意識に巣にしてしまった。
シエルと黒猫が「番になる」という未来を語るとき、
そこにはきっと、この2羽の姿も重なるのだろう。
空を渡る者が、自分の意志で帰る場所を決めたのだから。
それは奇跡なんかじゃなく──ただの愛情の帰巣本能。
アルヴィン×ヒバリ
基本人間と変わらない構造だよ、翼が出たりするだけ
いちばん綺麗な羽根、どこの部分でもいいけど、色とか艶とか自分たちで「綺麗!」って思った羽根を渡すので大きさもそれぞれ




