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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
プロローグ

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32/63

29 シルヴィア

エッホエッホ!落とし穴を、作らなきゃ!

スープを飲みながら

「他に聞きたいことまだありますか?無ければ質問してもいいですか?」

 黒猫はスープの湯気を見つめながら、ゆっくりと顔を上げる。

「……質問、か。いいだろう。聞け。」


その声は低く、簡潔だが、どこか警戒を含んでいる。

(ただし、無駄話やふざけたことには答えない――相手の本気を見極めてからだ)


目線はシエルに向けられ、焚き火の残り香とスープの湯気が混じる夜の空気の中で、沈黙の間が少しだけ続く。


「何でも聞け。ただし、本当に知りたいことだけだぞ。」



 「シルヴィア……という名前の人を知ってますか?マロングレージュの髪の」

黒猫の表情が一瞬だけ硬くなる。瞳の奥で何かが引っかかるように光った。


「…知っている。」

声は低く、慎重に選ばれた言葉で、まるで過去の記憶の奥から絞り出すようだ。


「なぜ、その名を…?」

問いかける黒猫の声には警戒と、わずかな痛みの色が混じる。

 その反応を見て一呼吸置くヒバリ


「シエルは里に一度も帰ってきてないので、知りません、シルヴィアさんはシエルの腹違いのお姉さんです、隼の有翼人。

そして、遺骨で帰ってきました。

遺言みたいなものにはシエルをよろしくとしか…書いてなかったですね、あなたの目と似た色をした石が2つ連なってる指輪と共に帰ってきました…もう、何年も前です。」


 焚き火の赤が、ヒバリの告げた言葉をなぞるように揺れた。

夜気はひどく静かで、風ひとつすら音を立てない。

黒猫──シュヴァルツは瞬きも忘れたまま、炎の向こうでただ息を止めていた。


しばらく経って、喉の奥で小さく、低く、


「……そう、か。」


声にならない声が漏れた。

まるで胸の内側で古い傷口が開いたような苦さ。

それでも彼は視線を逸らさない。ヒバリの言葉を拒まず、真正面から受け止めようとするように。


「シルヴィアは、俺の……」

言いかけて、唇を結ぶ。火が爆ぜる音だけが場を埋める。


息を一つ落として、ようやく言葉を選ぶように続ける。


「旅の仲間だった。短い時間だったが──よく笑う女だった。

 風より先を飛べる気がする、とよく言っていたよ。」


懐かしむには痛すぎる記憶。

燃える薪の匂いに混じって、遠い日差しの匂いまで蘇る。


そして──ヒバリの言葉の続きを飲み込むように深く目を伏せる。


「…そうか。遺骨で帰った、か。」


一瞬、黒い尾がわずかに震える。


「石のアクセサリー──それは、

 俺の瞳と同じ色と言ったなら……たぶん、旅立つ前に俺が渡したものだ。護符代わりの、ただの石だ。」


言葉は淡々と、だが静かな悼みを帯びていた。


そして、焚き火の向こうで眠るシエルへと視線を向け、


「シエルに姉の影を重ねたことはない。

 だが俺があいつを守る理由が、いま少しだけ深まった気がする。」


低い声は夜に溶け、焚き火は静かにパチリと音を立てた。


守りたかった者の形が変わっただけ…


だがその願いはまだ息をしている。

シエルが笑って生きる限り──きっと。


ヒバリの目に映る黒猫は、ほんの少しだけ、孤独ではなくなっていた。


 ヒバリ「本当は言うつもり、僕ありませんでした」ただ

「彼女は騎士として有翼人と知られずに戦って帰ってきた、

 それだけです、戦士として、


 誇らしいってのもありますが、きっと里に帰ったらシエルは泣くと思ったので…

大人が、


 頼れる大人が1人も居なくなって…っ、なっちゃったシエル…が、頼れるのは…っ、あなただけなので……」

ヒバリの言葉は最後はもう泣き声混じりであった


 夜の闇は静かだった。

けれどヒバリの声は、その静けさを震わせるほど切実で――細い羽根がかすかに震えるたび、胸の奥に響いた。


小さな肩。

震える呼吸。

言葉に滲む必死の祈り。


黒猫は、焚き火の熱も夜の冷たさも同時に感じながら、しばし黙ってヒバリを見ていた。

逃げない。目を逸らさない。

その涙が示す重さを、真っ直ぐに受け止めるように。


やがて低く、噛みしめるように言葉を置く。


「……泣くほど、あいつは大切か。」


問いではなく、確認。

ヒバリは唇を噛み、ただ強く頷いた。


その様子にほんのわずか表情を緩め、黒猫は続ける。


「シルヴィアが残したものが血なら、

 お前たちが残したものは、翼だ。」


焚き火の光に照らされ、黒い瞳が静かに細められる。


「シエルが空を目指す時、俺の腕は必要だろう。

 転んだ時、立ち上がる肩にもなれる。

 だが――飛ぶのはあいつ自身だ。」


言いながら、そっとヒバリの頭へ視線を落とす。


「頼る相手が俺ひとりだと思うな。

 お前たちが居るだろう。」


震える小鳥の瞳に、炎の色が宿る。


「泣くな、ヒバリ。

 あいつの姉が誇りを持って死んだのなら――」


黒猫は火を見つめ、夜風に毛が揺れる。


「今度は、生きることで誇らせよう。」


言葉は静かで、けれど確かに温かかった。


ヒバリの涙はまだ乾かない。

だがその横顔には、ほんのりと夜明け前の希望の色。


ヒバリ「僕たち子供ができることなんて情報の拡散、撹乱、小手先しのぎの戦術です

今日生き残れても、明日は生き残れません

明日を生き残るには大人の力が必要なんです」


焚き火の火がぱちりと弾け、

ヒバリの言葉をまるで肯定するように火の粉が夜へ舞った。


小さな声。

だけど言葉には強い覚悟が混ざっている。

幼さの奥に、痛いほどの現実と恐怖と、それでも前へ進もうとする意志。


黒猫は目を細め、長く息を吐いた。

少しだけ夜の冷気が肺を抜ける音がする。


「……生きるというのは、そういうものだ。」


炎を映した瞳でヒバリを見据える。


「子供だから弱いんじゃない。

 明日を見てるから、生きようと足掻けるんだ。

 大人は、生き延びてきた昨日で戦う。

 子供は、これから掴む未来で戦う。」


ゆっくりと言葉を選び、落とすように告げる。


「どちらが欠けても、世界は前に進まない。」


静かな声。けれど重みは確かだ。


黒猫はかすかに笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「お前たちが情報を運び、撹乱し、小さな風を起こす。

 俺たち大人が、その風の先で剣を振るう。

 役割は違うが、どちらも必要だ。」


そして視線の先、小鳥のように眠るシエルへ。


「明日を生き残る力は――

 俺だけが与えるものじゃない。

 お前たちの存在が、あいつの明日を支える。」


言い切った声は、静かに夜へ溶けていく。


ヒバリの肩が、少しだけ軽くほどけたようだった。


「……明日を生きたいなら、俺も力を貸そう。」


黒猫はそう約束し、再び焚き火の向こうへ目を落とす。

炎の揺らめきが、これから訪れる夜明けを予感させるように赤く踊っていた。 

焚き火の影が揺れ――

誰も声を出さないまま、夜はゆっくりと進む。


もうすぐ二度目の交代。

東の空が、わずかに色づく頃だった。


 ――夜の深さは、焚き火の暖かさを際立たせる。

ヒバリの涙混じりの声を聞きながら、シュヴァルツの胸にはいくつもの色が混ざっていた。


* * *


――弱いから泣くんじゃない。

――守られたいから頼るんじゃない。


子供が泣きながら差し出す言葉は、ただの甘えでは無い。

「生きたい」という、本能に近いほど真っ直ぐな願いだ。


あの小さな翼たちは、生きるために戦っている。

俺が思っていた以上に。


そう気づくほどに、胸の奥がじんわり熱くなる。



シエルの姉――シルヴィアの死。

頼れる大人が消え、帰る場所も失い、ただひとりで旅に出た小鳥。


その姿に、自分が何を見ていたのか。

守られる側ではなく、守る側に置かれた子供だった。


あの泣き声を、どれだけ胸にしまって歩いてきたんだろうな。


想像だけで胸の奥が軋む。



ヒバリの言葉――

「頼れるのは、あなたしかいない」


その一言は刃のようであり、炎のように温かかった。


甘くも重く、逃げ道すら残さない。


この子らは俺に未来を預けようとしている。

なら俺は、背を向けるわけにはいかない。


大人として、黒猫として、

ただの旅の同行者ではなく――


支えになる覚悟が胸に乗る。


焚き火を見つめて、心に1つの誓いが形を取る。


シエルがいつか飛ぶその日まで。

この群れの背を預けるに足る大人でいよう。

たとえ片腕でも、牙が折れようとも――


この小さな翼を、もう二度と折らせはしない。


炎が低く揺れ、夜は続く。

だが黒猫の心には、確かな光が灯っていた。

半分シュバルツの独白だな??

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