23 片翼でも飛ぶのです
ギリギリR15のはず!!
色々すっ飛ばしてます、書くことがなくって…里まで後5日くらいだよ
シエルは羽をしまって、起きて、余った夜食を朝食にして、昼には固形物、夜にはスープ
たまに遭遇する生き物や魔物を倒して食料調達しつつ街道沿いに里の手前まで行くよ!
里の手前、街道からズレた洞窟、そこに小鳥は歩いてく
そこはかつて小鳥が住んでた場所、ここでなら翼を広げられると本能が知ってる
洞窟の中に入ると、空気はひんやりとして静寂が支配する。
小鳥は足を止め、背中にそっと手をやる――羽の残りが疼くのを感じながら、深呼吸をひとつ。
「ここなら…」と、彼女の体が無意識に反応する。自然と背中の羽が少しずつ広がっていく。
ボロボロの片翼も、洞窟の静けさの中でゆっくりと息を吹き返すように震える。
黒猫は少し離れて観察する――無言だが、目は鋭く、小鳥のあらゆる動きに注意を払っている。
(ここでは、小鳥自身が自由を取り戻す。けれど、油断はできない…)
小鳥は洞窟内でゆっくりと羽を広げ、片翼でも大きく広がる様子に少し笑みを浮かべる。
「うん、やっぱり…ここなら飛べる気がする!」
その背中から生える羽は、生存本能の象徴でもあり、誇りでもある――里に帰る前の、一瞬の解放と自由。
黒猫は無言のまま、でも確かに心の中で安堵する。
(こうして羽を広げている小鳥を見るのは、やっぱり――安心する…)
洞窟の奥に向かって、小鳥は歩を進めながらも、たまに羽をパタリと広げ、軽くバランスを取る――里に戻る前の、羽根と心の準備運動のように。
完全にまだ生え揃ってない羽、何度かばたつかせ
「黒猫さん、ちょっとお願いが…」っと遠慮がちに聞いてくる
「あのですね、今から羽を全部戻すんですが、ここまで旅でだいたい把握したんですが、叫ぶので、その、舌噛み切らないように布とか口に入れるのと、拘束を、お願いします、めっちゃ暴れると思うので!」
魔力による回復、長年生え替わりしてこなかった羽、自分で身を守る最適解。ただそれだけの事
黒猫は眉をわずかに寄せた。
焚き火の赤が横顔を照らし、瞳の色が揺れる――右は銅、左は深い緑。
しばらく黙していたが、やがて息を落とすように言った。
「……暴れる前提か。なるほどな。」
淡々とした声、だがその奥には緊張と覚悟の色がある。
小鳥の言葉だけで、ただの痛みでは済まないと理解したのだ。
黒猫は荷から切れ端の清潔な麻布を取り、ゆっくりと指でほぐす。
口に噛ませるための厚みを作る動作は実に冷静で、迷いがない。
次に、旅用縄を手に取る。
それは普段は荷運びか拘束用――だが今夜は小鳥を守るために使われる。
黒猫は膝をつき、小鳥の前に座った。
低い声で、けれど優しく問いかける。
「本当にやるんだな。」
小鳥は小さく頷く。
その決意は、震えの中でも確かだった。
「……じゃあ、噛め。」
布を口元へ差し出す。
小鳥はそれを噛み、目を閉じた――羽が戻りきる痛みに備えて。
黒猫は小鳥の体をそっと前から支え、羽の付け根を逃がさないように腕で包む。
拘束と保護の間――力は強いが、壊れるほどではない絶妙な加減。
その姿は戦士というより
誰かを落とさぬよう抱き留める夜の影。
「叫んでいい。暴れてもいい。ただ――」
低く囁き、耳元に落とす。
「お前は俺が押さえる。」
その言葉が、呪いに抗う小鳥の背中を支える柱になる。
次の瞬間――
羽根が一斉に、生まれ変わるように膨らみ始める。
筋が軋む。肉が再生する。魔力が骨を編み直す。
裂けるような痛みが小鳥を貫き、全身が反射で跳ねた。
黒猫の腕に、鳥の羽ばたきのような暴力的な震えが伝わる。
小鳥の喉から押し殺した悲鳴が洩れる――噛んだ布が濡れるほどに。
黒猫はその肩を抱き込み、片腕で胴を固定し、
逃がさないように、壊さないように、ただ全身で受け止める。
夜の洞窟に、翼の再生の音と、荒い呼吸だけが響いた。
羽が再生する痛みの渦の中で、小鳥は意識が白く途切れそうになる。
涙とも汗ともつかぬものが頬を滑り落ち――
でも、腕が離れない。
誰かがちゃんと、支えている。
"離さない”という重みだけが、小鳥を生に繋ぎ止めていた。
夜気は冷たく澄み、洞窟の闇は吐息の色まで映すほど深い。
小鳥の身体からあふれる魔力は熱を帯び、まるで命そのものが燃え上がるかのようだった。
ぐぐ、と骨が伸び、節が軋み、
羽軸が皮膚を押し破って外へと生まれ直る。
小鳥が噛む布はすでに濡れきり、震えは痙攣に近い。
それでも――意識は切れない。
切らない。
切らせない。
唸り、呻き、涙をこぼし、必死に前へ進む獣のように。
彼女はただ、生きようとしていた。
黒猫は片腕だけで抱きとめ続ける。
その力は決して優しいだけじゃない――
逃げられないほど確かな重さで、小鳥の命をこの世に繋ぐ楔。
そして黒猫の視界に映るのは、
新たに生え揃い始めた大きな片翼の白。
……だが、その反対側には、
呪いに縛られたままの破れ羽――成長しない翼。
皮膚のすぐ下に埋め込まれたような魔法陣が微かに光り、
まるで古傷が脈打つように淡く揺れる。
しかし、黒猫の目は見逃さなかった。
時折、魔法陣がひび割れる音。
まるで内側から、小鳥自身が砕こうとしているかのような――
硬く乾いた裂け目の音。
黒猫は片手で小鳥を支えたまま、もう片方の残った箇所へそっと眼を向ける。
――こんな呪いに、生き方を縛らせるか。
心で噛みしめ、表には出さない。
声にもせず、ただ見続ける。
小鳥は苦痛の波に飲まれながらも意識を手繰り寄せていた。
飛び立つために。
見上げるために。
「いつかきっと」をその背で掴むために――
指先が震え、喉から押し殺した悲鳴がまた漏れる。
それでも魔力は止まらず、羽根は育ち、翼は形を取り戻す。
黒猫は囁くように低い声で言う。
「いい。もっと暴れても折れねぇ。
飛ぶための痛みなら、全部俺が受け止める。」
風もない洞窟で――
舞い散る羽毛が雪のように落ち続けた。
洞窟の静寂が、一瞬だけ破れた。
「――あ゛ッ…!」
絞り出すような叫び。
最後の羽軸が伸び切り、血のように鮮烈な痛みが背骨を駆け上がる。
胸が跳ね、体が仰け反る。
黒猫の腕だけが、小鳥の上半身を支え、墜落を許さない。
かみ砕くように噛んでいた布が、
ぽとり、と濡れたまま落ちた。
息は荒く、喉は震え、
目の焦点もまだ曖昧で――
それでも。
背に広がる新しい片翼は、
白く、大きく、再び空を知る形に成長していた。
まだ不揃いで、ところどころ血と羽油が滲み、
痛みの余韻が皮膚の奥まで残っている。
だが、確かにそこに在る。
飛ぶための翼が。
黒猫はその細い肩を落とさないよう、そっと支え直す。
腕一本でも乱れない重心。
獣のような静かな眼が、小鳥の顔色をひとつ見極める。
「……終わったか。」
その声は低く、優しくも荒くもないただの事実確認。
けれど、その一言が落ちるだけで
小鳥の張りつめていた意識はようやく解けた。
視界が揺れる。
羽が震える。
呼吸のたびに胸が焼けるように痛い。
それでも、息の隙間に微かな笑みが滲む。
生きてる。
まだ飛べる場所は残ってる。
小鳥のまつげがかすかに震え、
かすれた声が砂の上にこぼれ落ちる。
「……っ、黒猫さん……
痛い……けど……生きて、ます。」
今にも倒れそうな身体が、
黒猫の胸元へと自然に寄り掛かった。
支えなければ崩れる。
でも、離せば飛べなくなる。
その境の温度で、夜は深く息をのむように沈んでゆく。
薄い羽音だけが洞窟に残り、
小鳥は黒猫の腕の中で、静かに眠りへ沈んでいった。
新しい羽根はまだ柔らかく、生まれたての雛のように暖かい。
片翼だけで、しかし大切なものを抱きしめるように
自らの身体を包み込む。
守るための羽――
傷ついてでも、また伸ばした羽。
黒猫はその温度を腕越しに感じながら
そっと毛布とマントをかける。
片腕で器用に、優しく、乱暴とは無縁の仕草で。
「ああ……鳥の換毛期は、栄養が要るんだったな。」
呟きは思考の端に溶けて、
眠る小鳥の髪越しにふわりと降り積もる。
焚き火の灰――
まだ微かに残る暖かさが、
まるで誰かが昨日までここにいて、
この場所が明日も二人を迎えると信じているよう。
黒猫は横になり、小鳥の頭をそっと自分の胸元へ。
寝息は浅く、不安定で、
けれど生きている証として愛おしいほど規則的。
今はただ栄養と休息が必要。
そして明日――また進めばいい。
ゆっくりと黒猫の瞳が閉じる。
洞窟に流れるのは、二つの鼓動の重なり。
夜が降り、世界の全てが静まる中、
再び生えた片翼はわずかな風に震えながら――
未来を抱く雛のように、眠った。
シュバルツさん?ずっと回復魔法かけてますよ?サポートしてますよ、隣で寝るのも魔法かけるため…と本人は思いたいだろうね
肩甲骨はがしと脱臼したらだいたいこんな話が出来上がった




