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元シスター、悪役令嬢に転生したので修道院行きを目指したら、俺様侯爵様に溺愛されました  作者: 有木珠乃
第一章:学園編

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第47話 思い通りにいかない現実(シルヴィ視点)

 どういうこと?


 私は澄ました顔で教室に入って来たオリアーヌを凝視した。いつものように最前列の席に座り、その隣を一カ月前まで別のクラスにいたフィデルが、当然の如く腰を下ろしている。

 フィデルに関しては、護衛という理由で、クラス替えをしたのだとアシルが教えてくれたから、それほど驚きはしなかったけれど……。


 なんで何事もなかったかのような顔をしているわけ?


「シルヴィ、何を見て……あぁ」


 隣に座っているエミリアンが、私の視線の先に気づいた瞬間、何かを悟ったかのように、その口を閉じた。


 続きを言えないのなら、最初から声をかけなければいいのに。


 おそらく心の中でため息を吐いているのだろう。吐きたいのは、私の方である。こんなにイライラしている理由の原因の一つがまさに、エミリアンなのだから。


 オリアーヌもまた、原因の一つだけど、もう一つの原因が私の視線に反応して、後ろを振り向く。さすがは私の護衛騎士……になる予定だった人物。


 別に殺気なんて送っていないわよ、とニコリと微笑んで見せるが、フィデルはすぐに正面を向いてしまった。さらに何かオリアーヌに言っている。


 まさかとは思うけど……この短期間でフィデルを攻略したというの!? 悪役令嬢の分際で……。


「えー、本日もミュンヒ先生が不在なため、歴史の授業は私が行います。さぁ、教科書を出してください」


 いつの間にか教室に入ってきた、代理の男性教師が教壇を叩く。私が学園に戻ってきた時もそうだったけれど、忙しいのか、歴史の授業はいつも別の教師だった。エミリアンにその辺の事情を聞くと、オリアーヌも不在だったのは、私が戻ってきた時のみだったらしい。


 だからこそ、オリアーヌが管理している花壇に手を出せたのだ。


 実際は、アシルの伝手を使って荒らしてもらったんだけど。そっか。アンスガー・ミュンヒが不在、ということは、オリアーヌの周りにいるのはフィデルのみ。攻略されていたとしても、日が浅いのだから……アシルを使えば。いや、アシルに相談すれば、なんとかなるかも。


「楽しくなってきたわ」

「シルヴィ……」

「なぁに?」


 私はエミリアンに向かって、ヒロインらしく微笑んでみせた。それを苦笑いで返すエミリアン。


 あまり問題を起こさないでくれ、とでも言いたいのだろう。けれど、勘違いしないでほしいわ。私をそうさせているのは、エミリアンなのよ。

 オリアーヌの肩なんか持たずに、私のためだけに動いてくれればいいのに。そう、アシルみたいにね。


 今後のことも含めて、放課後にでもアシルに相談しないと。オリアーヌも転生者なのだから、のんびりなんてしていられない。結局、ジスランはオリアーヌの味方だし、アンスガーだって……学園の外に出れば、エミリアンやアシルよりも権力を持っている。


 今みたいに不在なのが、不気味だわ。アシルに会ったら、調べてもらうように頼まないと。それよりも、こっちが優位に立てる策を練ってもらう方が先かしら。


 あぁぁ〜。なんで今、授業を受けなきゃいけないのよ! この時間が勿体ないわ。ゲームの時みたいに、スキップできればいいのに……!



 ***



「それで、思いついた案をノートに書き殴ったわけか」


 放課後、エミリアンには教師に呼ばれた、と言って研究室がある棟の裏で、アシルと落ち合った。方向としても間違っていないし、他の生徒たちもあまり近づかない。落ち合う場所としては、ちょうど良かった。


 さすがはアシルね。こんないい場所を知っているなんて。もしかしたら、花壇を荒らしてくれた人物とも、ここで取引をしたのかもね。


 ますますアシルと手を組んで正解だったわ。だけど……このお小言がなければ、完璧だったのに。そういうところがエミリアンに劣るのよ。


「だって仕方がないでしょう。何事なかったかのように、全然仕掛けて来ないんだもの。わざわざ私に突っかかる理由を与えてあげたのに……」

「……そもそもカスタニエ嬢が、その程度のことで突っかかるとは思えないんだが……その自信はどこから来るんだ?」


 アシルが呆れたような表情を私に向ける。お互いに本心というか野望を打ち明けたせいか、アシルの態度が変わったような気がした。


 だけど、依然として私を甘やかしてくれるところは変わらない。私も……人のことは言えないか。エミリアンが頼りにならないせいか、アシル、アシル、になっているからだ。

 それも相まって、アシルの前では、あまりヒロインらしく振る舞っていないような気がした。


 とはいえ、ここが乙女ゲーム『救国の花乙女』の世界であることは……やっぱり打ち明けようとは思えなかった。


「根拠があるからよ。オリアーヌ様はエミリアンという婚約者がいながら、ミュンヒ先生と懇意にしている」

「……ある意味、君が言うと説得力があるな」

「でしょう? つまり、エミリアンと結婚する意思はないし、あわよくば婚約解消したいと思っている」

「だけど王族との婚約は、簡単に解消も破棄もできない」


 乙女ゲームでは簡単にしているけどね。


「肝心のエミリアンは……あんな調子でしょう? だからオリアーヌ様の方にアプローチを掛けてみたの」

「それが花壇荒らし……か」

「あら、素直にお願いを聞いてくれたから、てっきり分かっているものだと思っていたわ」

「単純に私怨かと思っていたから。あとは……私も多少、仕返しをしたくてね。カスタニエ嬢、個人にはないが、ミュンヒ先生にはあるからな」


 相変わらず、敵を作りやすい人間ね。人選を間違えずに済んで良かったわ。


「そのミュンヒ先生だったら、君の罠に引っかかりそうだけど。カスタニエ嬢は……乗って来なかったわけか。まぁ、当然だろうな」

「どっちの味方をしているわけ?」

「当然、シルヴィの方さ。私はエミリアンとは違うからね」


 どうだか、と遠慮なくじろっとアシルを見る。けれど彼は臆するどころか、口角すら上げて余裕を見せてくる始末だった。


「……そんなに余裕なら、オリアーヌ様が引っかかりそうな罠を考えてよ。私が出した案なんて、アシル様からしたら、どれも使えないのは分かっているんだから」

「卑下することはないよ。それは別に、君に限ったことではないんだから」


 はいはい。そんな自慢はいらないわよ。


「それならさっさと名案を授けてくれませんか?」

「雑なのか、丁寧なのか分からない、そんな嫌味な言い方をしなくてもあげるよ、名案をね」


 さすがはアシル。エミリアンと違って、ちゃんと私の意図を汲んでくれる。本気で好きになっちゃいそうだわ。


 そうしてアシルから聞いた案を元に、早速私たちは、翌日から動き出した。


 待っていなさい、オリアーヌ。今度こそ、ちゃんと悪役令嬢にしてあげるんだから!

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