表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元シスター、悪役令嬢に転生したので修道院行きを目指したら、俺様侯爵様に溺愛されました  作者: 有木珠乃
第一章:学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/50

第44話 見届けた覚悟の先

「しかし問題はこれからです。王子の婚約者を、オリアーヌ嬢からアペール嬢へ変更しなければなりません」


 お父様の了解を得ると、ミュンヒ先生は早速、次の話題を切り出した。そう、まさにここが本題だからだ。


「そうだな。まずは貴族派を説得しなければ、話は始まらない。アペール男爵をこちら側へ引き入れるにしても、反対されては難しいだろう」

「カスタニエ公爵のおっしゃる通りです。だから私も、公王様の説得から始めたいと思っています」

「ん? 貴殿は確か、中立派ではなかったか? いつ、王権派になったのだ」


 そういえば、ミュンヒ先生の貴族としての立場を、明確には聞いたことがない。仮に王権派だったとしても、私たちの婚約には支障がなかったからだろう。それはシルヴィ嬢もまた、同じ。だから乙女ゲームでも、設定集に書かれていなかったのだ。


「今も昔も、我が家門は中立派ですよ。ただ、今は学園で、王子の監視もとい監督係を仰せつかっているため、公王様に進言し易いのです」

「なるほどな。王権派ではエミリアン王子を称賛し、貴族派だと貶し兼ねない。正確な報告を望んだ結果、貴殿に白羽の矢が立った、というわけか」

「初めはいい迷惑だと思いましたが、結果的に引き受けて良かったと思っています」


 通りで、と私は内心、頷いた。いくら私の相談に乗り、恋人役を買って出てくれたとはいえ、エミリアン王子への対応が悪すぎる、と思っていたのだ。まさか、イヤイヤ引き受けていたとは……これはさすがに乙女ゲームの設定集にも書けないだろう。

 ミュンヒ先生は攻略対象者だけど、最初から印象が悪いのだ。それをさらに悪くするなんて……うん。難しいと思う。


 そんな風に物思いに耽っていると、突然、肩を掴まれた。


「私はこのまま結婚せずに、学園に骨を埋める覚悟をしていたものですから。そしたらどうでしょう。まさかこの年で、伴侶にしたいと思える人物に出会えるとは」

「伴侶って……じゃなくて、そんな卑下されるような年齢だとは思えませんが」

「しかしだな。オリアーヌ嬢の立場と年齢を考えると……難しいだろう」


 年齢はともかく立場、というと公爵令嬢のことを言っているのだろうか。確かに公爵令嬢なら、下級貴族は難しいけれど、王族から上級貴族に至るまで、選びたい放題である。

 その中には、エミリアン王子のように、年齢の近い令息たちは山のようにいる。あえて八歳も年上の男性を選ぶことはない、とミュンヒ先生は言っているのだ。


「まぁ! ふふふっ。まだそのようなことを、気にしていらっしゃったのですか?」

「当然だろう。残念だが、カスタニエ公爵家からすれば、王子を蹴ってまで、我が家門と婚姻関係を結ぶメリットはない」

「それはどうだろうか。権力に固執する、厳格な父親像というのも悪くはないが、貴族派の筆頭にいるのも、少々疲れてきてな。ここは娘の恋愛結婚に理解がある、寛大な父親像という印象にすり替えて、休むのもいいか、と思ってきているところだ」

「父上!」


 ジスランはやはり反対なのか、非難の声を上げる。しかしお父様の表情は、穏やかなままだった。


「お前を見ているとな。貴族派を引っ張っていけるとは思えんのだよ」

「そ、そんなことは……」

「では、国と家門、そして私を前にした時、優先するのはどれですか?」

「オリアーヌに決まっているだろう!」


 迷う素振りもなく返答する姿に、私とお父様はため息を吐いた。つまり、お父様が懸念しているのは、このことを言っているのだ。

 何をするにしても、私を基準にされては、貴族派を率いていくことなど……無理な話である。


「カスタニエ公爵。心中お察しいたします」

「分かってくれるか、ミュンヒ侯爵。貴殿が相手ならば、この愚息が手を回しても、大丈夫だと思ったのだ」

「なるほど。オリアーヌ嬢を王子の婚約者にした原因は……そういうことでしたか」


 カスタニエ公爵家の嫡男であるジスランが手を出せない存在。それは王族しかいない。あとはお父様のおっしゃる通り、ミュンヒ先生のような、性格に難が……いや癖のある人物くらいだろう。

 おそらく、そこを心配していたから、すぐに認めてくれなかったのだ。しかし実際にジスランを退けている姿を見て、考え方を変えてくれたらしい。


「では、私たちの関係をお認めになってくださる、ということですか?」

「先ほどのミュンヒ侯爵の姿を見てな。お前に同情したわけではないことが分かったからだ」

「さすがですね、カスタニエ公爵。そこを見抜いておいでだったとは。キッカケはそうですね。オリアーヌ嬢からの相談でしたが、今は違います。誰にも渡したくないくらい、オリアーヌ嬢を愛しています」

「っ!」


 思わず横にいるミュンヒ先生の顔を見た。エミリアン王子との婚約解消ばかりに気を取られていたばかりに、肝心のミュンヒ先生からの愛の告白を、受けたことがなかったことに気づいたのだ。


 ほしい、とは言われたことがあったけれど、ストレートに「愛している」とは言われたことがない。「好き」だとも……。


 それなのに、ここで!? という不意打ちに私は狼狽えてしまった。いや、正確には感情のコントロールをできなくなっていたのだ。


 すると肩に置かれていた手が、背中に回り、気がつくと抱きしめられていた。そればかりか、ミュンヒ先生は立ち上がり、その勢いを使って私の膝の裏を持ち上げてしまったのだ。


「申し訳ありません。少しばかり、お時間をいただけないでしょうか」

「いや、その必要はない。確認したいところは確認し終えたのでな。あとは書面でのやり取りで十分だろう。今日はこのままここに泊っていっても構わんし、オリアーヌを連れて行っても構わない」

「ち、父上! それはさすがに……」

「確かに。婚約前の令嬢を連れて帰るわけにはいきませんので、部屋を用意していただけると助かります」

「ふむ。では客間に案内させよう。勿論、バラデュール卿にも別の客間を用意させるから、安心してくれたまえ」

「ありがとうございます!」


 フィデルの元気のいい声が聞こえてきたが、その前の出来事と会話に、私の頭はパンク寸前で、それどころではなかった。


 ミュンヒ先生はどうして私を横抱きにしているの? どうしてお父様はあんなことをおっしゃるの?


 誰かこの状況を説明……ううん、止めてーーー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ