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元シスター、悪役令嬢に転生したので修道院行きを目指したら、俺様侯爵様に溺愛されました  作者: 有木珠乃
第一章:学園編

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第43話 代替案の掲示

 お父様の帰宅の連絡を受けて、応接室へと入る。赤い絨毯の上には、背の低い長テーブルとそれを囲むように椅子が五脚、用意されていた。

 そこにはすでにお父様とジスランの姿がある。立って出迎えないことから、歓迎されていないのがありありと分かった。


 まぁ、それはお父様だけで、ジスランは私を自分の隣に座るように視線を向けてくる。それも期待の眼差しを、だ。これまで一度もオリアーヌに応えてもらえていなかったのに、どうして座ってもらえると思っているのだろう。


 私は上座にいるお父様の近く、ジスランの向かい側の椅子に腰かけた。案の定、悲しげな顔をするジスラン。


 別におかしくはないでしょう?


 隣にミュンヒ先生が座り、残った椅子にフィデルが腰を落とした。温室では外にいたが、内容が内容なだけに、フィデルでも応接室に入ったのである。


 お父様は、私と同じ赤毛の奥にある紫色の瞳で、全員の着席を確認する。ジスラン、フィデル、ミュンヒ先生の順で眺め、最後の私のところで動きを止めた。


「ふむ。なるほど、私が思っていた以上に真剣なのだな、オリアーヌ」

「っ! 勿論です」


 やはりお父様は、オリアーヌのことを大事に思っていた。素っ気ない話し方、読み取れない表情。無意識の内に本心を隠す癖は、あまたの古タヌキとキツネに出会ってきたからだろう。


 前世でも、教会にやってくる重鎮たちや地域のお偉いさんたちは、一癖も二癖もある人物たちばかりだったからだ。今、臆せずに対峙できるのも、そのお陰だとは思うが、この緊張感には慣れない。

 何か説明を言わなければ、と思うのに、短い返事で終わらせてしまった。すると、場慣れしているのか、ミュンヒ先生が助け舟を出してくれた。


「カスタニエ公爵。どうやらオリアーヌ嬢は緊張している様子なので、俺の方から説明させていただいても構いませんか?」

「緊張? そうだな。オリアーヌの気持ちを確かめるために設けたのだが、いささか仰々しかったか」

「えぇ。王子との婚約解消後、婚約したいと思っている人物を、公爵に紹介する場でもあるのですから。緊張しない方がおかしいかと」


 みゅ、ミュンヒ先生!? ここは当たり障りのない世情の話をしてから、本題に切り出すのがセオリーなのに、一気にすっ飛ばすなんて……。


 けれどこの場に長くいたい気持ちもあったから、その配慮には助けられた。正直に言って、お父様と無駄話をしてボロが出たら困るからだ。


 ジスラン? ジスランは……シスコンというフィルターがかかっているから、以前のオリアーヌと違った行動や言動をしても、違和感どころか感激してもらえる。優しくなった、とか。

 それだけ以前のオリアーヌに手を焼いていても、ジスランにとっては可愛い妹だった、というわけである。ある意味、病気かと思えるけれど……オリアーヌにとっては良い存在だと思える。


 今の私にとっては煩わしい存在だけど。その証拠に、ジスランがミュンヒ先生を睨んでいる。お父様がいるからか、唇をきつく結んで耐えている様子だった。


「手紙には確かにエミリアン王子との婚約解消を望んでいる、と書いてあった。ジスランからもまた、オリアーヌがそう望んでいる旨も聞いた。が、この婚約が私の一存だけでどうにかなる問題ではない。そのことは、ミュンヒ侯爵も理解していると思っているが、間違いないか?」

「貴族派の総意であるからこそ、公王様も承諾されたのです。これを知らない貴族など、おりますまい」

「だからこそ、この婚約を解消することは難しいのだ。それに代わるものがあれば、の話だが」


 つまり、代替案を掲示しなければ、首を縦に振らない、とお父様は言っているのだ。勿論、それを用意していない私たちではない。

 私はミュンヒ先生の方を向き、目で合図をした。


「お父様は花乙女の存在を信じる方でしょうか?」

「何?」


 予想だにしなかったことなのか、お父様の顔が険しくなった。けれどそこを確認しないことには、話をすすめることはできない。


 私はここが乙女ゲームの世界だから信じることができる。ミュンヒ先生は歴史の教師。信じる信じない、という質問は愚問だ。

 ジスランは私の言葉だからか、ただ静観していた。フィデルは……補習の成果が実った、といっていいだろう。私たちと一緒に、お父様の反応を見ていた。


「貴族派の皆さまが納得される、私に代わるお相手を紹介するには、そこが大事なのです」

「まさか、花乙女を見つけた、とでも言いたいのか?」

「はい。まさにその通りです」


 私の言葉に、驚きの表情を見せるお父様。次第に困惑へと変わる姿は、オリアーヌの記憶でも見たことがない。それくらい動揺しているのが、ありありと分かった。


「今、自分が花乙女だ、という人物が学園におり、その人物は手紙でお伝えした、エミリアン王子と懇意にしている女性なのです」

「だから自分の代わりに、エミリアン王子の婚約者として推せ、とでも言いたいのか? 甘いぞ、オリアーヌ。どこの令嬢だが知らないが、それだけのことなら誰でも言える。嘘であっても、教会に知られようとも、な」


 確かに公の発言でなければ、身分関係なく、誰でも言えてしまう行為。幼い子どもが、将来何になりたい? という質問に、「花乙女!」と答えても、誰も非難しないのと同じなのだ。

 それが信仰にも繋がるため、教会側も不敬だとは言わない。


「お父様が信憑性を疑うのは当然のことですし、裏付けがないものを掲示するほど、私は愚かではありません。当然、用意してあります」


 乙女ゲームの知識を元に、私はミュンヒ先生にあることを頼んでいた。そう、シルヴィ嬢の調査だ。

 彼女が転生者である以上、乙女ゲームの知識はあくまで知識にすぎない。どこで前世の記憶を取り戻し、本来のシルヴィ・アペールとしての人生を、どこまで歩んできたのかは分からないからだ。


 幸いにもシルヴィ嬢は、乙女ゲームのシナリオ通り、孤児院で花の女神様の象徴とされるラナンキュラスの光を浴び、アペール男爵に引き取られていた。それを裏付ける書類を鞄から取り出して、お父様に渡す。


「その女性が、ラナンキュラスの光を浴びたところを目撃した者もおります」

「しかし、教会が認めたわけではないのだろう? これを見た限りだと、シスターが目撃した子どもの言葉を信じ、引き取り手を探すための箔をつける材料にしたようにしか見えん」

「っ! 確かにそう見えます」

「引き取ったのも、男爵という下級貴族だ。これだけでは貴族派を納得させることはできないだろう」


 さすがはお父様。一筋縄ではいかないことは分かっていた。


「ですから、納得させる名目をでっち上げるのです」

「何?」

「幸い、この情報は世間に行き届いておりません。それを逆手に取るのです」

「アペール男爵はまた、貴族でありながらどこにも属していません。公爵がおっしゃる通り、下級貴族ですから、どこからも声をかけられることがないからです」


 ミュンヒ先生が私の発言を引き継ぐように、お父様に進言する。


「中立派に団結力はありません。ただどちらにもつけない、つかない家門が集まっただけの派閥ですから、いかようにも取り込める、というわけです。どうですか? 我々でひと泡吹かせませんか?」

「ふむ。悪くない提案だ。アペール男爵がこの娘を引き取ったのは、いずれ花乙女になる可能性がある、と考えたからだろう」

「けれど教会が後ろ盾にならない以上、誰も信じません。アペール嬢が花乙女としての力に覚醒でもしない限りは」


 その決定打がなかったから、あの断罪劇が必要だったのだ。シルヴィ嬢が花乙女として覚醒するのは、エミリアン王子と婚約した後。乙女ゲームの第二幕として、華々しく披露されるのだ。


「だからその前に、我々がその後ろ盾になるのです」

「しかし、その娘が花乙女として覚醒しなかったら、一巻の終わりだぞ」

「そこはご安心ください。花乙女は『悪意』が発生する象徴。それを逆手に取ればいいのです」

「なるほど。我々を欺き、不安を煽った人物として、切り捨てればいい、というのだな」

「はい。さすがは公爵。ご理解が早くて助かります」


 ミュンヒ先生の言葉に、私は大いに同意した。さすがは悪役令嬢、オリアーヌ・カスタニエの父親だと。

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