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元シスター、悪役令嬢に転生したので修道院行きを目指したら、俺様侯爵様に溺愛されました  作者: 有木珠乃
第一章:学園編

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第42話 因縁の場所

 レムリー公国の首都で、王城に次ぐ広大な敷地を所有している、カスタニエ公爵家。それだけで、いかに高い地位と権力を持っているのかを、周りに知らしめているようだった。


 けれど私は別の意味でドキドキしていた。カスタニエ公爵邸は乙女ゲーム『救国の花乙女』のジスランルートの舞台であり、転生して間もなく私が毒殺された場所でもある。

 今となっては、誰が犯人だったのかは分からない。それがたとえジスランだったとしても、責めるのはお門違いである。だって今の彼は、シルヴィ嬢の味方ではないからだ。


 まぁ、私の味方、と強くいえるほどでもないけどね。少なからず、敵ではないことだけは分かる。それでも信用していいのか迷ってしまうほどだった。


 原因その一。


「オリアーヌ、おかえり。待っていたよ」


 馬車を降りた途端、使用人たちを背にジスランが出迎えてくれたのだ。思わず、これは罠か? と疑ったほどである。


 すぐにミュンヒ先生が、私の前に出て対応してくれたからいいものの。いなかったら逃げ出していたところだった。


 フィデル? フィデルは……身代わりに置いていったかもしれない。それくらいジスランは、私にとって強烈な人物だった。


 原因その二。


「部屋で休みたくないのなら、お父様が帰って来るまで温室にいたらどうだい? 学園で植物の世話をしていると聞いたから、好きそうなのを色々と置いたんだ」


 い、いつの間に……! というか、その情報源は誰からよ!


 庭師さんがわざわざジスランのところに行って、言う訳がない。逆に庭師さんのところへ探りに行ったとしか思えなかった。となると、ジスランと庭師さんの間にいる人物は、一体誰?


 そんなわけで、色々と不審に思うことはあったけれど、自室に行きたくない気持ちは本当だった。だから、些細な気配りは有り難かったのだが、相手がジスランだと思うと……素直に喜べなかった。


「大丈夫か?」


 温室に着いた途端、どっと疲れたのか、長いため息を吐いた。それにいち早く反応するミュンヒ先生。


「すみません。帰ってきたら、お兄様がどのような反応をするのか、予測できていたのに……このような姿を」


 あまりにも不甲斐なさ過ぎて、どこかに隠れていたかった。温室には見たこともないような大きな植物から観葉植物。さらには実のなる木まで植えられていて、隠れるのにはちょうど良さそうだった。一瞬、温室とは? と思ったのは秘密である。


 また、ジスランの言う通り、学園の庭園に植えられている背の高い植物や、花壇に咲いている可愛らしい小さな花たちの姿もあった。

 私は引き寄せられるように、そこに近づいていく。


「いいや。今回はどうやら、ジスランの勝ちのようだな」

「ミュンヒ先生? 一体、なんの話をしているのですか?」


 今はそんな話題だったかしら?


「ここに来る前まで、自分がどんな顔をしていたのか……自覚はないか」

「……顔?」

「辛そうな顔をしていた」


 いい思い出がありませんから、と答えられたら、どれだけいいだろうか。死に戻る前は、この温室に足を踏み入れることがなかったから、ここはまだ大丈夫だけど。

 帰って来たからには、自室に行くのは避けられない。オリアーヌはここで、我が儘になるほど、愛情を注がれて育ってきたのだ。ミュンヒ先生が不思議に思うのも無理はなかった。


 だからここは、無難な答えを言わないと。何がいいかしら。


 私はミュンヒ先生を見すえて、考えを巡らせた。すると、どうだろうか。ある答えが浮かんだ。


「……エミリアン王子との婚約解消よりも、ミュンヒ先生がお父様に会うのを危惧していました」

「オリアーヌが心配するのも分かるが……別に仲が悪いわけではないぞ」

「でもお兄様とは、険悪ではありませんか」

「アレと仲良くなれる要素があると思うのか?」

「ないですね」


 私だってないのに。そう思った瞬間、笑いが込み上げてきた。

 なぜなら、ミュンヒ先生とジスランが手を取り合っている姿を思い浮かべたからだ。それがあまりにも滑稽で……。


 だ、ダメ! 口から飛び出そう。


「ふふふっ」

「ようやく笑ったな」

「すみません」

「どうして謝るんだ」

「そ、それは……ふふふっ」


 咄嗟に口元を抑えたが、それでも笑いが止まらなかった。ミュンヒ先生を見れば見るほど、思い出すのだから仕方がない。

 今度はミュンヒ先生の方が困惑した顔になった。けれどそれを笑いに変えることは、今の私には到底できそうにない。


 使用人が私たちを呼びに来るまで、そんな奇妙な光景が続いた。

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