骸骨の記憶(2)
「左様でございますか」
やっぱりアカツキはサイボーグだった。しかも天使の姿だったとは驚きだ。でも僕の存在って何なんだろう。僕は意識だけの存在みたいだけれど、魔族でもなければ、骸骨でもサイボーグでもない。きっと僕は、僕の魂は人間だ。いや、過去の僕は人間だったと言うべきか。この世界の穏やかな風景を見た時、僕がいた世界の風景と変わらないって思ったんだ。覚えていないけどわかる。それと同じように、自分が人間であったということが、自分の過去は思い出せないけどもわかるんだ。
この世界に誰か僕を知っている人間はいるだろうか。魔王はここを魔界だと言っていた。全く別の世界に魂だけ迷い込んだのかもしれない。だとしたら僕を知る人間なんているはずもない。人間自体がいない世界なのかもしれない。でも僕に記憶がないうえに誰とも会話できないのだから、そんなこと確かめる術もない。今はおとなしく彼らの会話を聞いてこの世界のことを知るしかなさそうだ。僕の声は誰にも聞こえないし、誰かに触れることもできない。僕はこの世界に干渉できないのだから。
「いくつもの能力を奪われて骸骨の姿になってもお前は強かった。最後を託された俺は一騎打ちで三日三晩お前と戦い続け、激闘の末ついに俺が勝利した」
「それはようございました」
相変わらず素っ気無いが一応言葉を変えつつ相槌を打っている。全くの機械的対応というわけでもなさそうだ。
「本気で言ってる? お前が負けたんだよ、お前一回殺されたんだよ?」
「はい。魔王様が健在で何よりです。しかし私はこの通り生きております。私は魔王様に殺害されたとのお話ですが、現状とつじつまが合いません」
アカツキは当然のごとく表情一つ変えずに、自分の生死について淡々と話している。骸骨の風貌と相まって奇妙な不気味さが漂う。
「殺したと言っても魂を吹き飛ばしただけなんだ。そういう技があるんだ。それをアルテアの秘術で復活させた。さっきアルテアが魂の再構築がどうのって言ってたのがその秘術だ。てか、お前初めて自分の意見喋ったな。ほんとにわかってんのかちょっと不安になってたんだ」
確かにアカツキにしては長めのセリフだった。矛盾点とかは指摘せずにはいられないのだろうか。アカツキは理詰めで話し合いたくないタイプのやつだな。すぐに論破されそうだ。僕はアカツキを機械的なやつと評価していたが、今は少し評価が変わり事務的なやつに改められた。
「俺はお前を倒してお前の亡骸を戦利品として手に入れたんだ。でも骸骨もらってもなあ、どうしろってんだって話だ。他のやつらは剣やら翼やら持ってったからまだ使いでがありそうなもんだけど、骨もらっても仕方がないからな、箱にしまっておいたんだ。そしたらアルテアが同盟を持ち掛けてきて、お前を復活させようって提案してきた。あの骸の天使を従えることができたら魔王軍が一気に優勢になるからな」
「魔王軍が優勢になる、と仰るのは、魔王様は別の軍勢と争っていらっしゃるのですか」
「そうそう。今は魔族同士で争ってんの。何のかんのでみんな争いごとが好きなわけよ。もともと魔族は7つの派閥があって、お前を倒すときに手を組んだんだ。お前から奪った装備とかの戦利品を七つの派閥でそれぞれ一個づつ持ってる。そのあとは派閥同士で争うようになったんだけど、同盟を組む派閥が現れてさ。俺もアルテアの派閥と同盟組んだんだ。それで三つの同盟と残りの一つの派閥に分かれたんだけど、この残りの一派閥は姿をくらまして今どこにいるのか分かんねえ。結局三同盟で三つ巴の睨みあいの膠着状態の今に至る、だ」
「魔王様と私のご縁、理解しました。これからは魔王様のため、粉骨砕身働きます」
粉骨砕身って、まさかの骨ジョークか。いや、アカツキにジョークが言えるわけないか。素で言ってるんだろう。
「ぷぷぷ。なんだよ、お前ジョークも言えるんじゃねえか。その調子で頼むぜ。ま、だいたいの経緯もわかってもらえたところで、そろそろアルテアも俺らがいないのに気づく頃だろう、見つかる前にいっちょ、突っつきに行くか」
「どこに、何を突っつきに行くのでしょうか」
「敵陣に、蜂の巣をだよ」




