魔王城(3)
「やらせることなら、性能テストとかあるでしょう」
「そういう堅苦しいのはアルテアでやっといてくれよ」
「もちろんやるつもりでおりましたっ。ですが、魔王様も参加していただきますよ。骸の天使は魔王様の命令、しか、聞きませんので」
反論は許さないという雰囲気をピリピリと放ちながらアルテアが釘を刺した。
「えーめんどい……おっ、そうだ、手っ取り早く敵陣に単身切り込ませるテストとかいいんじゃねぇか? 蜂の巣突くみたいでワクワクしねえ?」
満面の笑みだ。なんて表情豊かな魔王なんだ。
「ダメに決まってるでしょ! まだ戦闘能力がどの程度かわかってないのに。思いのほか弱ければスクラップにされて今日までの苦労が水の泡。中途半端に強かったら一気に全面戦争に突入するかもしれませんよ」
アルテアの口調に苛立ちが目立ってきている。対して魔王は相変わらず会話相手の感情など意に介さず、自分のやりたいことを主張するだけの子供の様な応対だ。最初こそ威厳のある風な話し方をしていたけど、すっかり聞き分けの悪いクソガキの口調になっている。こっちがこの男の本質なのだろう。
「まあ、今日はもういいじゃねぇか。こいつも久々にシャバの空気を吸えたんだ、ゆっくり休ませてやろうぜ。さ、スイッチ切ってやれよ」
「あのですね、スイッチなんてありませんよ。体のほとんどが機械化されていますが、基本は我々や人間と同じ生体です。動作を止めるには再度魂を吹き飛ばすしかないですよ。霧散した魂の収集と再構築に1年はかかると思いますので、起動状態を保つほうがよろしいかと思いますがねっ」
アルテアは怒りを通り越して投げやりになっている。しかし、それ以上にさっきからチラチラと気になっているんだが、スイッチがどうとか、スピーカーとか、この骸骨は機械なの? 元は生体で機械化したって、改造手術を受けたサイボーグってことなのか。
確かにこの骸骨はファンタジー世界の魔物みたいに骨オンリーの体じゃない。肋骨の内側が空洞になっているわけではなくて、黒い何かで満たされている感じだ。その黒い何かは黒いもやのようで、恐ろしく反射率の低い黒い何か、一切の光を逃がさない黒い何かとか、そんな形容でしか言い表せない。この辺がメカニカルかメタリックでないと、機械ですといわれても今一つピンとこないんだけど。
「じゃあ、このままここに置いといていい? それともその辺の箱にでもしまっとく?」
「いくら機械といっても酷くないですか。それに、そこにある箱って棺桶じゃないですか」
アルテアは驚きと呆れが混ざった複雑な表情になっている。なんか気の毒に思えてきた。おもちゃで遊んだ後の片付けで押し問答する母親と子供さながらだ。
「どこか部屋で休ませる? 部屋とか用意してないけど」
「当然用意させています。ですが、こんなに早く終わると思っていませんでしたので、おそらくまだ準備は終わってないでしょう。確認に行ってまいりますので、魔王様はここでお待ちください」
「俺、いてなきゃいけない?」
「魔王様の命令でしか動かないって言ったでしょっ!」
子供をたしなめるようにそう言い残し、ドアを閉める音と足音で怒りを表しながらアルテアは忙しく部屋を出ていった。
少し間をおくと魔王はコソ泥のような動きでそろそろと扉に歩み寄る。顔だけそっと廊下に出してアルテアがいなくなったことを確かめると、そのまま骸骨の方に振り向いてニタリと笑い語りかけた。
「骸の天使よ……ってなんか大層な呼び方だな。おい、お前名前あるのか?なんて呼べばいいんだ」
「アカツキとお呼びください」
「名前あったのか。よし、アカツキ、場所変えて話そうぜ。アルテアのやつがいたら、あれダメこれダメってうるせえんだ」
そう言いながら魔王は窓に向かってそろそろと歩いて行き、静かに窓を開けた。身を屈めてするりと窓をくぐり抜けると、窓枠に縁取られた逆光の風景の中に、悠然とその姿を浮かベていた。
「屋上へいくぜ」
言葉だけを残し、一瞬で上方に消え去った。骸骨、いやアカツキも後を追って窓枠に足を掛け身を乗り出し、石造りの外壁に爪を立てた。アカツキが外に出た瞬間、僕の霊体のような意識もそれに吸い寄せられるように室外に引きずり出された。アカツキはよじ登ると言うよりは壁を駆けあがる勢いで一気に屋上まで登り詰め、僕の意識もそれに引っ張られるように上昇し、あっという間に屋上に着いた。
どうやら僕の意識は自由に動けるようでも、アカツキから離れることはできないらしい。よくわからないが、僕とアカツキには何らかの繋がりがあるみたいだ。




