失われた秘術の記憶(4)
なんか話終わったみたいになったけど、アルテアがパンッと手をたたき、では話を戻しましょうと切り出した。
「錬金術の再現に期待して再構築はしない方針で行くとして、先ほどアカツキは戦闘をモニターしてたって言ったわね。アキラが暴走した挙句誰かと戦闘があったの?魔王様の説明では暴走したアカツキをなんとか捕まえたってことでしたけど、戦闘に及んだという話はありませんでしたよね」
アルテア鋭い。話の勘所を見失わない冷静さには恐ろしささえ感じる。魔王は再び汗ダラ状態に陥っている。
「あなたに聞いているのよ、アキラ」
おっと、こっち来たか。さっきは再構築の危機にテンパっちゃったけど、再構築されないんだったら落ち着いて話ができそうだ。アカツキと違って忖度できるってとこを見せてやりますか。
「はい。暴走している間の記憶はないです。気が付いたら服を着た猪の群れに囲まれてました。そのあと猪と猿に襲われたけど頑張って何とか倒しました。逃げ帰る途中で魔王様に会ってそのまま連れ帰られました」
「ちょっと待って、猪って連合との前線の平原まで行って悶着したの? 連中が進軍を始めているかもしれないなら、こちらも応戦の準備をしないと。魔王様、なぜそれを先に……」
魔王が遮って手のひらを左右に振る。
「ないない。表に出てた奴らを小突き回しただけだから。小競り合いに毛が生えた程度のもんよ。誰も死んでないし、骸骨一体にやられたなんて報告できねえだろうよ。戦闘の後もしばらく眺めてたけど、傷の浅い奴らがノロノロと動き出して治療を始めただけで報告に動くやつはいなかったぜ」
魔王がへらへらと答えた。アルテアは絶対怒り出すだろうと思ったけど、事なきを得た安堵の方が大きいのか、ほっとした表情を見せた。
「ふう。であれば一先ずはいいでしょう。でも、骸の天使を復活させたことは知れ渡ったと見て間違いないでしょうね」
「えーそうかな。報告してないと思うし、下っ端どもは骸の天使のことなんて知らされてねーだろ。てかさー、ばれちゃダメだったの?アカツキのこと」
「魔王様がうちの秘密兵器にするんだってずっと言ってましたよね?」
「え、なんかそう呼んだ方がカッコいいし、ワクワク感が違うだろ」
「はあ、もういいです……」
アルテアは疲れた顔でため息をついた。魔王はアルテアが根負けして追及を諦めたことがわかると途端に饒舌に話し出す。
「ま、確かに颯爽と現れて何者だ?って騒がれた方が面白いっちゃ面白いか。秘密にした方がよかったかもな。でもアキラのやつ、一体も殺さねえんだもん。あれじゃ骸の天使復活はそのうちばれちゃうだろうな。ちゃんと皆殺しにしろって言えばよかった」
「どうせ中途半端な言い方をしたのでしょう」
「そうなんだよ。倒して来いって言い方しちゃってさ」
「それで倒すだけになったわけですね」
「そうそう」
「やっぱり……」アルテアの目がギラリと鋭く光った。「暴走ではなく、魔王様の命令だったのですね」
魔王は殺したがるだけあって、墓穴掘りの名人のようだ。
「いや、悪かった。勝手なことして悪かった。嘘ついてすみません」
「お仕置きです。防御障壁を解除なさい」
「まじで? 障壁なしで折檻受けたら死んじゃうこともあるよ?」
アルテアは手刀を振り上げるようにゆっくりと右手を頭上に掲げ、「早く」と一言つぶやいた。魔王は観念したのか、目から生気が抜け、全身が色を失ったかのように見えた。掲げたアルテアの手から青白いオーラのような何かが立ち上る。おおっ、もしかして魔法的な何かが見れちゃうのか? 魔王には悪いが期待に胸が膨らみまくりだ。魔法の名前とか言ってくれるのかな。
「八極撲殺魔法!」
言った! かっけえ! アルテアの背後から八本の青白く輝く腕が現れ、勢い手刀を振り下ろすと、放たれた猟犬のように青白いゲンコツが魔王に襲い掛かる。魔王は右から左から倒れる間もなく次々に打ちのめされ、「ぶべべべべ!」と無様な声を発したあと、少し宙に浮いてばたりと床に倒れた。こっちは気の毒なくらいかっこ悪い。魔法なのに物理でタコ殴りする魔法なのかな。魔王は床に伏しながらも「痛てえ……」と力なくつぶやいたので、まあとりあえず死んではいない。




