失われた秘術の記憶(3)
ビビりまくってその場にへたり込んでしまった。すると魔王もしゃがんで僕の頭をガシッと掴み、ムリヤリ目線を合わせてくる。怖いよ~~~。
「でもな、俺が思うにアキラは本当に何も知らない。このアキラってのはアカツキのもう一つの人格だ。それはつまり、もう一つの魂があるってことだ。魂の構築中に、AIの部分に別の魂が混ざってしまったとは考えられないか」
「……確かに魔王様のおっしゃる通りかも知れません。魂の再構築は先ず魂の器の形を正確に把握することから始まります。そこに慎重に浮遊霊魂をはめ込んでいくのですが、AIを魂として把握しておりませんでしたので、この未知の領域の器に形状の似た魂が紛れ込むことは十分考えられます」
「だろ、だったらこいつは俺が戦った骸の天使じゃねえ、通りすがりの野良魂で、どっかの誰かの人間だ。俺は骸の天使とガチで闘りあったから分かる。さすがにこのヘタレは別人だ。だからいくら時間をかけたって敵将のことなんか思い出さねえよ」
まさかまさか、魔王に見抜かれてしまった。ただのアホだと思ってたのに。でもこれってつまり、僕の利用価値は完全にゼロになったってことじゃないか。お払い箱だ。目の前が真っ暗になる。
「であればなおさらこのままでは意味がありません。やはり再構築するしか……」
「でも再構築したからと言ってなにか思い出すのか。アカツキも何も覚えていなかったぞ。それよりも重要なのは、こいつはどこの誰かは分からないが、どっかの誰かの人間だ」
「はあ、一体何を……」
「滅んだ人間の誰かってことだ。その誰かの記憶は思い出すかもしれないだろ。その中にあの情報があるかもしれねえじゃねえか」
ま、まじか、人類滅んだんだ……ほんと重要な情報をサラッと挟んでくるやつだ。でも、滅んだってことは、元の世界に戻れたとしてももう誰にも会えないんだ。誰かもわからない屋上の彼女にも。でも、記憶がないからか、感慨深くは感じない。で、あの情報ってなんのこと? なんでもったいぶるのさ。
「あの情報ってまさか……」
どの情報かわからないけど、絶対に知らないと思うヨ……
「そう、失われた秘術、錬金術だ」
錬金術って……貴金属欲しいんだ。案外俗っぽいものをお望みなのね。もちろん知らない。知らないどころか、それは実在しない空想上のものだ。失われたんじゃなくって、最初からそんなの存在しない。でも、実在しないことは伏せておいたほうがよさそうだ。知らないけど、思い出せないの体でいこう。
「で、アキラ、錬金術知ってる?」
「ごめんなさい、やり方は知りません。えーと、でも、錬金術って言葉が前世にあったことはよく覚えています。思い出したらお伝えします」
「おう、頼むぞ。結構な数の使い手がいたって話だ。お前が知ってることは十分期待できる」
誰から聞いたんだよ、その話。架空の技術なんだから、そんなに普及してるわけないじゃないか。でも、思いのほかサラッと流せちゃったな。
「失われた秘術っても、俺らが人類滅ぼしちゃったからなんだけどな。いやーこんなことならちょっとくらい残しとくんだったよ」
やっぱりお前らが滅ぼしたのか……攻め入ったって言ってたからそうだろうとは思ったけど。事実を知っても怒りも憎しみも湧いてこない。記憶が戻ればそんな感情も抱くようになるのかな。帰る場所はもうないんだって思うと、絶望に似た感情は心のどこかにあるにはある。それでも、もうどうでもいいやって気分にはならない。自分が消えてなくなってしまいたいなんて思わない。ポンコツAIとしてでも、この世界に僕の心が存在できるなら、力の限り存在し続けよう。
人類を滅ぼしたって笑いながら話す魔王は相当に冷酷で凶悪なやつだろうけど、さっきからの馴れ馴れしい態度を見ていると、どうしてかそんなに悪い奴には思えないんだ。戦ったりするのは嫌だけど、うまいことやっていけるんじゃないかなとも思う。第二の人生だと考えて、ポジティブにいこう。うん。




