失われた秘術の記憶(2)
アカツキが魔王の暗黙の期待に応えて嘘にならない範囲で上手に誤魔化すとか、そんな器用な真似はしないだろう。というかできないだろう。アカツキは今ナチュラルに話をあらぬ方向にもっていっている。魔王は突然の都合のいい展開に目が生き生きと輝いている。なんてわかりやすいやつだ。
「その戦闘用人格のアキラが暴走したってことなの」
「はい。アキラの戦闘をモニターしていましたが、本来の戦闘能力を発揮できていませんでした。過度な警戒、スキル発動のムラ、殺傷への躊躇などが見受けられ、戦闘に最適化されているとは言いがたい状態でした」
「今後とも暴走する可能性はあるの」
「正常に機能していない時点で既に恒常的に暴走していると言えます」
「であれば戦力としては期待できないってことね……魔王様に危害を加えることも懸念されるわ。時間はかかるけど、魂の再構築をするしかないかしら……」
「おい、ちょっと待て」すっかり立ち直った魔王が口をはさむ。キリッとした顔が逆に腹立つ。「それについてはさっきアカツキとも話したんだが、アキラには敵将の戦闘データの蓄積があるらしい。再構築で消えるかもしれん。消去するには惜しい情報だ」
「そうなのですか。確かに貴重な情報です。アカツキ、そのアキラっていうの、今すぐ起動できるかしら」
うわあ、僕にお鉢が回ってくるのか。やばい展開になってきた、どうやって誤魔化そう……
「可能です」
「よし、じゃあアキラに替わってくれ!」
魔王様、電話じゃないんだから……
「メンテナンスモード起動要請。……受諾を確認、アカツキ意識をサスペンドする」
戦場で起きたのと同じように、僕の意識は骸骨に吸い寄せられて一体となった。どうしよう、なにかロボっぽいこと言ったほうがいいのかな。
「セントウAI、アキラ、キドウしました」
抑揚をつけずに合成音声みたいに言ってみた。ホントなら汗ダラダラだろうけど、今だけは表情に出ないのは有難い。
「ふーん。あんまり雰囲気変わらないわね。質問させてもらってもいいかしら」
いや、困るんだけど。めっちゃ困ってるんだけど。敵将のことなんか全く分からないんですけど。
「だ、ダメです」つい、拒否ってしまった。
「どうしてなの」
「……うっ、うっ……」気の利いた返しが全く思いつかない。AIだか何だか知らないが、僕の頭の回転はすこぶる悪いようだ。「うわーん!ホント僕、何にも覚えてないんですーー! アカツキと一緒でこっち来てからの記憶しかありません! がんばったら思い出すかもしれないんで、初期化とか再構築とかマジ勘弁してくださいー! お願いしますうー!」
口を突いて出てきた言葉は泣き落としだった。取り調べ2秒で尋問される前にビビって自白してしまうって、つくづく僕は犯罪に向いていない。
「これが人工知能……」
アルテアの訝しんだ視線が痛い。呆れられているだろうだけど仕方がない、だって僕、人工知能違うし。記憶喪失の人だし。
「あなたがそうまでして守ろうとしている秘密は一体何なのかしら。もしかして世界の趨勢を左右するような何かを……」
「へっ? いえ、ホントに何も知りません」
さっきのヘタレ対応を演技だと思ったのか。敵の秘密よりもっと重要な何かを知っていると勘繰っていらっしゃる。
「うーん。あなたサイボーグだから痛みを感じないし、拷問しても意味なさそうね。困ったわね。やはり再構築するしかないかしら」
サラッとおっかないこと言いましたね。
「まあ待て、アルテア。こいつ殴られたら痛がってたから、拷問は効くかもしれんぞ」
余計なことを! 知ってたら拷問される前に全部話しますよ。でも知らないんだからいくら拷問したって「知らない」としかいいませんよ。なかなか口を割らないと思われて、挙句舌打ちして「強情なやつめ」とか言われるんだ。いやだぁ~~~~。




