蘇る記憶(1)
今度こそ終わったのだろうか。そういえばさっきは「終わった」とつぶやいたらこの体から追い出されたっけ。僕が戦闘終了を宣言すればAIの役目が終わってアカツキに戻るのかも。じゃあ、終了宣言しなかったらどうなるんだろう。ずっとこの体を使い続けられるんだろうか。この体……骸骨サイボーグ……あんまりお得感のない体だなあ。だけどユーレイでいるよりはずっとマシだ。だって、体があれば世界に触れることが出来る。なにより、誰かと会話ができる。
とはいえ体を手に入れたとしてもこの世界で一人で生きていく自信もないし、魔王が逃がしてくれるとも思えない。とりあえずは魔王さん家で御厄介になるしかないのかなあ。
などと考えていると意図せずに口から、いやスピーカーから言葉がでた。
「強制終了」
アカツキの声だった。アカツキの意思でも戦闘モードは終了できるようだ。そりゃそうだよな。
福引きガラガラの玉みたいに、僕の意識は骸骨の体から放り出され、その辺に転がるユーレイになった。なんかぞんざいに扱われている気がする。ガラガラの玉なら色はハズレの白だ。もうポケットティッシュ程度だ。
体の支配権を取り戻したアカツキは出来高の確認でもしているのだろうか、ゆっくりと首を回して辺りを見渡している。累々と敵兵の横たわる戦場をひとしきり眺めた後、少しうつむいて、何かを考えているようだった。表情がないから感情は読めないけど、よく見ていると仕草に人間臭さも垣間見える。
アカツキが何を思案していたか分からないけど、すぐに顔を持ち上げて魔王のいる高台の方に向き直り、猛スピードで駆けだしていった。
ユーレイの僕はアカツキに引きずられるように移動を始める。横に過ぎ行く風景を眺めていると、電車にでも揺られているかのようだ。
ふと今、自分で思って気がついた。電車に乗ったという記憶は今の僕にはないけど、車窓の風景とはこういうものだということは覚えている。というか知っている。さっきの福引きガラガラだってそうだ。福引きを引いたという記憶はなくても、白はハズレでティッシュがもらえるということは知っている。ガラガラマシンは正式には新井式回転抽選器だということも知識として知っている。そんなことを、いつどこで覚えたかは記憶にないけど。
アカツキが同じようなことを言っていた。体験としての記憶はないが、基本情報は知識として覚えていると。比べたら僕の記憶も似たようなものだけど、僕には唯一、死ぬ直前の体験の記憶が残っている。これがあるからこそ僕はかつて人間であったと確信できる。
ガラガラの正式名称なんて絶対に基本情報じゃなくて豆知識だ。だからこの知識は体験の結果覚えたもののはずだ。忘れているだけで、僕には人間としての体験の記憶があるはずなんだ。
今はユーレイだかAIだかの不自由な状態だけど、とりあえずは自分の過去を思い出すことに努めよう。てゆうか、この状態でできることなんてそれくらいしかないし。
高台に近づき魔王軍の陣地が見えてくる。天幕が複数あるけど人影は見当たらない。アカツキは天幕の隙間をくぐらずに、その上を大きい跳躍で飛び越えた。
騒ぎにならないように気を使ったのかな。それにしても誰かが近づいて飛び越えても気がつかない兵隊ってどうなの? もしアカツキが敵兵だったらどうするの? でもさすがに魔王がアカツキ出陣を伝えたのかもしれない。そんな気を回すやつには見えないが。
カモシカのように軽やかに岩山を上るアカツキに引かれながら、僕は後ろを振り返り、未だ誰も出てくる気配のない陣地を眺めていた。
疾風のように高台に戻ったアカツキは魔王の眼前でぴたりと止まる。その足元で小さく土埃が舞った。
「ご命令通り全滅させてまいりました」
アカツキは帰参すると淡々と報告した。
「うむ。スレスレの体裁き、曲芸みたいで面白かった」
満足げにうなずいていらっしゃるが、面白かったとの評価は微妙だ。
「お気に召していただいたのであればなによりです。しかし魔王様、正確無比な体裁きは戦闘モードの真骨頂ではありますが、いささか精彩を欠いておりました。AIのシステムに何らかの異常があるものと思われます」




