ボス猿の咆哮(3)
などという要望もむなしく、アカツキは上位戦闘モードの起動を要請する。少し間をおいて受諾を確認したようだ。僕は受諾してないんですけど。尋ねられてもいないんですけど。お断りしたいんですけど――。一人芝居で反論している間に、またしても骸骨ボディに吸い込まれ、体が動かせるようになった。でもさっきほどの感動はない。戦闘を押し付けられて憂鬱な気分の方が大きい。
「はあ……やれやれ。あ、交代しました。AIです」
「は? 何を言ってやがる。でも、なんか雰囲気変わったな、お前」
「ええ、さっきの人とは、なんていうか、中身が入れ替わってます。多分僕すっごい弱いんで、あなたには勝てないと思うんですよお。できればこのまま見逃してもらえないでしょうか」
気が乗らないが、こちとらサイボーグの頑丈ボディでノーダメージだ。そう思うと気が緩んでしまう。でもスローモーション、精神加速だっけ?ビビらないと発動しないみたいだから、絶対発動しないよね。せっかくアドバイスもらったけど、終わらないんじゃないの、これ。
「ほんとに全くの別人だな。てか、なんで弱いのに入れ替わんだ。まあ、逃がさねえし、よくわかんねぇからとりあえず殴んぞ。いやならさっきの奴に戻っても構わねえぜ」
大猿はそう言ってから口を大きく開けた。次の瞬間、時間を飛び越えたみたいに、僕はすでにブっ飛ばされた後で、豪快に宙を舞っていた。それよりも大問題が一つ。
痛いー! なんだこれ、すっごい痛いよ! サイボーグ痛み感じないんじゃなかったのお?
遥か遠くの地面に打ち捨てられるように転がされ、その勢いのまま、痛みにのたうち転げまわった。まだ頬っぺたズキズキしてるんだけど。
大猿が口を開けたあと、完全に意識が飛んでいる。瞬間移動どころじゃない、殴られたことすら記憶にない。
「がははは!確かにさっきより弱いな!しかもしっかり痛がってくれてるから、殴り甲斐があって結構なことだ」
そしてまた大猿が口を開けたと思ったら、吹っ飛ばされている。
痛い痛い、めっちゃ痛い。もうすっかりビビっているけど、スローモーションにならない。気づかない間に殴られてるからか、発動が間に合わないのか。痛みで体が動かせない。
「ぐえっ」
今度はいつの間にやら空中に打ち上げられていた。おなか痛い……内臓ないのに吐きそう……
上昇が止まり、青空の中央にまぶしい太陽を拝んだ。ほどなく重力が体を地表に引き戻す。仰向けに地面に叩きつけられ、背中と後頭部ゴンっていった……もう、のたうち回る力も残ってない。
「まだ息があるようだな。もうちょっと抵抗しろよ、張り合いのないやつだ」
死にかけの虫でも観察するようにしゃがんで僕を見ている。でかい指で僕の頭をつまみ、脱力した体を振り子のようにぶらつかせて持ち上げる。
「ほれ、立ってみ。もう一発殴ってやるから」
立たせたというよりは、殴りやすい位置に真っ直ぐに僕を置いた。蹴りやすい感じに置かれたラグビーボールの気分だ。そして、もう飽きたとばかりに死の宣告を投げかける。
「とどめだ。渾身の一撃をくれてやるから、しっかりと味わいな」
大猿は肩から腕、げんこつにまで血管を浮かべて溢れんばかりの力を溜めている。両足を力強く踏みしめて地面に体を固定する。体を捻り、関節の限界まで右腕を振りかぶり、血走った眼球の視線が僕の顔面に固定された。
咆哮は使わずに全力でやる気だ。緊張が高まる。でもスローモーションは発動しない。




