ボス猿の咆哮(2)
ええ!なんで?
アカツキは物凄い勢いで二度三度地面にバウンドした後、地面に手足を着いて滑らせて、勢いを殺すように受け身を取った。
何事もなかったかのようにすっくと立ちあがり、さっきまでのガン無視とは打って変わって大猿に話しかける。
「貴様、突然目の前に現れたな。どういう能力だ?」
大猿は満足げな表情を浮かべ、のしのしとアカツキに近づいていく。
「がははは! 瞬間移動だよ。てめえがいくら素早くてもさすがにかわせんだろうよ!」
いや、瞬間移動と違うだろ。普通に殴りかかってたし。なんでかアカツキが無反応で、そのまんま殴られちゃったんだけど。もしかしたら、あの気持ち悪い声で一瞬意識が飛んじゃうんじゃないの。だからアカツキには突然目の前に現れたように見えたんだ。僕は生身じゃないから気持ち悪い程度で済んでるのかな。
再び大猿は口を開けて気持ち悪い音を発した。アカツキは無反応だけど、もともと動じない奴だから無視してるのか硬直してるのか区別がつかない。すかさず大猿が繰り出した拳が直撃し、アカツキは吹っ飛んでいく。やっぱり硬直してるんだ。
「どーした、骸骨!ちょっとくらい反撃してくれよ、あひゃはははは!」
必勝パターンがきれいに決まって大猿は大喜びだ。アカツキにしたら突然目の前に現れて反応できずに殴られるんだからたまったもんじゃない。無駄だとわかっていても、アカツキに声をかけずにいられなかった。
「聞いてくれ、こいつが吠えたら意識が飛んじゃうんだ。瞬間移動なんかじゃないんだよ。だから耳をふさぐとか、音が届かない遠くに逃げるとかしないと、いつまでたっても繰り返し殴られるだけだぞ。おい、アカツキ、本当に聞こえないのかよ!」
どれだけ近くによっても、どんなに大声で叫んでも伝わることはなく、喚き散らす僕の目に映るアカツキは、次の瞬間でっかい拳骨と入れ替わり、僕の視界の端っこへ吹っ飛んでいった。喚いていた口を大きく開けたまま、僕はアカツキを目で追うこともできずにいた。
このままじゃやられる。途方に暮れて立ち尽くす僕の前で、アカツキは繰り返し殴られては、右へ左へと転がされている。単純作業のような攻撃が一体何度繰り返されただろうか。
「そろそろいいか」
アカツキが独り言のようにつぶやいた。そろそろって、何を待っていたんだ。それよか、さんざ殴られたってのに、アカツキは平然としている。土と埃にまみれてはいるが傷ひとつもついていない。
……あれえ、まさかまさか、もしかして、サイボーグってものすごい頑丈で痛みを感じないとか? だとしたらさっき僕が必死になって猪や猿の攻撃を避けたのは、全部無駄な努力だったってこと? え、だったらそれ、先に言ってほしかったなー。
「お前は口を大きく開けたら瞬間移動する。おおかた特殊な音波で俺の脳を揺さぶって意識を飛ばしているのだろう」
大猿は目に少し驚きを覗かせて、何も言い返せないまま口ごもっている。アカツキも状況証拠だけで見抜いていたんだ。ものすごい頭の冴えてる人なのかも。
「図星のようだな、ならば対策はなんとでもやりようがある。しかし主君の命により、AIの戦闘能力を披露することが最も優先される。AIの精神加速ならお前の咆哮など、あくびのようにしか聞こえんだろう」
あー、その命令を優先させていたのか。さっきからアカツキはよくしゃべる。アカツキは超ぶっきらぼうな性格だから、敵と無用な会話なんて絶対にしない。アカツキはAIに、つまり僕に状況を伝えようとしているんだ。精神加速ってのはスローモーションのことだろう。スローモーションが発動したら咆哮は無効化できると僕に伝えてるんだ。スロー再生した音楽の音程が低くなるみたいに、咆哮もあくびのような緩んだ音にしか聞こえないってことなんだろう。と、いうことは……
また僕に代わるつもりなのね。あれって想い通りに発動できないから、多分僕も意識飛んじゃうと思うんだけどなー。なんとでもやりようがあるなら、アカツキがやっちゃってほしいなー。まだ頭のクラクラちょっと残ってるんだけどなー。




