魔王の独り言
「あははは! なんだありゃ、おもしれー!」
アカツキの曲芸みたいな戦いに手を叩いて盛り上がってしまった。最後の猿軍団との戦闘は瞬きしたら見逃しちまうほどあっという間の出来事だった。アカツキの戦闘の面白さは期待以上だ。わざわざアルテアの目を盗んで連れてきてよかった。つっても、ハナから面白さは期待してなかっただけに、つい声に出して笑っちまった。アルテアがいたら「また品のない笑い方を……」と咎められていただろうな。
アカツキをけしかけて敵陣に送り出したあとは、山の上から遠目に戦闘を見物していたんだが、さすがにこの距離だと会話は全く聞こえない。でもまあ、俺の視力なら豆粒程度でも見えていれば状況は手に取るように理解できる。
アカツキの戦い方は独特だ。とりあえず動きが面白い。なんかヌルヌル動くし。俺と戦った時はこんなじゃなかったけどなあ。AIつってもいろんな奴がいんのかな。
しかーし、強さは期待外れだ。アカツキの野郎、AI最強みたいに言ってたけど、全然大したことないじゃねえか。AIに変った途端に及び腰になったし、なんか踊ってたし。何をやってもスレスレのギリギリぎっちょんだし。
反応と行動の選択はまあ、悪くない。でも全く先が読めてない。そもそも先手を取ろうとしていない。考えてんのは一手先だけで、要は行き当たりばったりだ。俺も先の読み合いが激しい戦闘はあんま得意じゃないけど、あそこまで酷くはないぞ。
前にアカツキのAIと戦ったときは、やたら小細工を弄しやがってえらい苦労したっけか。思い出したら腹立ってくるわ。まあ、俺の力技と根性と痛いの我慢作戦の前に、こいつは敗れ去ったわけだがな。
俺の懐刀として働いてもらうには正直役不足だ。うーん、どうすっかなー
でも、まあ、面白い。あれを捨てんのは、ちともったいない。役不足つってもそこそこの戦力だ。一応雑魚どもを全滅させたしな。
なんであんな戦い方すんだろうな。飛べないんだから地に足をつけて戦えばいいのに、一度も着地せずに空中で何体も倒し続ける。なんの意味もないんだけど。しかし、余裕がなければあんな曲芸じみた戦い方はできねえ。とはいえ、スレスレの動きには余裕が感じられない。うーん、謎だ。
余裕といえば、一体も殺さないように戦いやがったのも余裕がなけりゃできない芸当だ。でもなんで殺さない? もしかして、俺が「殺せ」じゃなく「倒せ」って言ったからか? そこまで言葉通りに解釈すんのか。まあ、確かに全員倒れてるっちゃ倒れてる。倒すだけにする方がむつかしいだろうから、やっぱし余力を残してやがるのか。
などと考えていたら、ん? 物陰でなんか動いてるのがいるぞ。アカツキは気づいていないのか? でかいのがまだ一匹残ってる。さっきまでの雑魚とは全然違う感じだな。あれくらい勝ってくれなきゃ困るけど、相性の悪い能力持ちだったら厄介だな。俺が出ていくわけにもいかねえし、頑張ってもらうしかないか。
でかい猿はこそこそとアカツキの様子をうかがっているみたいだ。なんか小物っぽい奴だな。図体でかいのに小物とはこれ如何に。でかい猿は岩陰からアカツキの前に姿を現し、なんか話してるみたいだ。アカツキは微動だにしない。アカツキが何かしゃべってんのか分らんが、どうせ何も話さずガン無視してんだろう。アカツキの無反応にあくびでも出ちまったのか、大猿は口を大きく開いた。その瞬間、猿の口元とその前方が蜃気楼みたいに揺らいで見えた。猿の正面にいるアカツキも同じく揺らいで見える。勢い、猿がアカツキに襲い掛かったが、アカツキは全く反応しないまま、そのでかい拳骨の直撃を受けて吹っ飛ばされちまった。
アカツキは地面に二度三度バウンドしたあと、かろうじて片手と両足を地面について体制を整え、大猿に向き直った。
直後、どす黒い唸りと甲高い金切り音をないまぜにしたような、一言でいうとただただ不快な音が俺の耳に届いた。
「なんだ、この音。なんか気持ち悪りい」
まさか、あの大猿が吠えた声か?ここまで届くのか。アカツキもあれしきの攻撃かわすのは造作もないだろうに、全く反応できてなかった。猿の咆哮にはなんか特殊な効果があんのかな。この距離でこんだけ不快なのに、この音を間近で聞いちまったら意識が飛んじまうくらい気持ち悪いのかもしれん。
さあ、アカツキ、踏ん張りどころだぜ。あのよく吠える大猿に、吠え面かかせてやってくれよ。




