100人斬り!(6)
まずは左足を思いきり引いてみる。振りほどけるかと思ったけど、しっかりと足首を握って離してくれない。左の猿を引き寄せる形になってしまった。しかし僕の足をつかんでいた猿の手は、僕の手の届く範囲に入った。さっき捉えたナイフを使えば猿の手の腱を切断できそうだ。もう血しぶきが怖いとか言ってられない。
刃先を猿の手首に滑らせる。ほとんど手ごたえのないまま皮と腱を切り裂いた。鮮血が切先の軌跡を空中に描き出す。赤い線が猿の左右の手首を往復すると、左足の枷は力を失った。これで左足は自由に動かせるだろう。引き寄せた勢いを打ち消すように猿の鼻っ柱を蹴り飛ばしてやった。
右足も同じように引き寄せて、そのまま左足のつま先で猿の腕の骨を蹴り砕く。これだけで右足をつかむ手が緩んだ。そのスキにまた顔面を蹴り飛ばす。
猿を蹴り飛ばした反動で、僕の体は頭の方へ移動しつつある。が、体は未だ空中にある。五体の猿はすべて視界にとらえている。そのうち攻撃を仕掛けてきているのはあと一体。猿の表情は「もらった」とでも言いたげだ。ナイフを構えて迫りくるが、本命は僕を地面に仕掛けたナイフの上に落とすことだろう。
でも僕はもう気づいちゃってるんだよね。地面のナイフは手が届きそうだし、これを使って止めを刺してやろう。右手を背後に伸ばしナイフの切先を軽くつまみ上げ、浮かしたナイフの柄を右手に収めた。
両手にはナイフ。投げて両肩の腱を切断してやる。大丈夫、出来る。猿どもも結局僕の動きには反応できていなかった。最速の動きでやれば仕留められる。慎重に、正確に、丁寧に、ダーツを投げるようにナイフを真っ直ぐに送り出す。
僕の手を離れたナイフは空を切り裂き、切先がじわりと猿の肩に近づいていく。しかしこいつにとっては超速の弾丸のようなナイフだ。全く反応せずに肩に切先が接触した。刃は抵抗なく肉に沈んでいく。骨さえ貫いてるようだ。そのまま、ついにナイフは、柄と鍔を残して猿の肩深くに埋もれた。
仕留めた。
そう思った瞬間、モノクロの超スローモーション世界は終わり、僕の体は背中から地面に投げ出された。周りでドサドサと猿たちが地面に落ちて転がる音が聞こえた。
僕はダメージを受けたわけでもないのに、よろよろと立ち上がり辺りを見回す。およそ百体の獣が累々と横たわり、もう起き上がる敵はいなかった。
あれ、なんか頭がくらくらする。スローモーション使いすぎるとこうなるのかな。えっと、もう帰っていいのかな。魔王に指示されたことはやりきったよな。
「でもまあ、とにかく終わった」
言うと同時に僕の意識は骸骨の体から弾き出された。
うわっと声を上げたが、それはもう誰にも聞こえることのない声だった。やれやれ、またユーレイに逆戻りだ。骸骨の体はアカツキに戻ったようだ。
ところで、戦闘モードになって僕が戦っている間、アカツキはどこにいるんだろう。今の僕みたいにユーレイ化して漂っているんだろうか。それとも、完全に意識を失ってるんだろうか。
人に仕事を押し付けておいて、百体の獣が倒れている光景をみてご満足ですかねえ。いいご身分ですねえ。僕に労いの言葉くらいあってもよさそうなものだけどねえ。
そんな僕の気持ちなど察することなく、なぜだろう、アカツキは野営地の後ろにある大きな岩をただじっと睨んでいた。




