100人斬り!(3)
「まただ」
スローモーション世界だ。心底ビビったら発動するのかなあ、不便すぎる。とはいえ、さっきみたいに移動できないと話にならない。僕の感覚だけが速くなったんだとしたら、さっきのはきっと足を動かすのが速すぎたんだ。だからその場で足だけが滑った。移動するために、歩き出す動作を細かく、じっくりと、丁寧に再現するんだ。
ゆっくりと体を前に倒し、右足を浮かせて前に出し重心を前方に落としていく。前傾しながら左足で徐々に地面を蹴りだす。全力でやるとグリップを失ってさっきみたいに滑るだろうから、足裏の感触を確認しつつ、ジワリと踏み出す。体が前方に加速していき、膝を伸ばしきったところで左足のつま先が地面から離れた。やった、加減が難しいが、動けた。これは人類にとって小さな一歩だが、僕にとって大きな一歩だ。
次は右足が着地したら、スピードを殺さないように注意しながら、左足と同じように地面を蹴るんだ。右足で着地……しない。まだまだ宙に浮いている。むしろまだ微妙に上昇中だ。アカツキはここへ来るとき何十メートルもの歩幅で走ってきた。それと同じことをやってしまったみたいだ。僕にとっての大きな一歩は大きすぎてなかなか終わりそうにない。くそお、加減が難しい。
お城を出発するとき魔王が「翼取られて飛べない」みたいなこと言ってたっけ。飛べないってのは、地面に足が着いていない空中では挙動を変えられないってことだ。このままだと猪の群れに突っ込んでしまう。なんで敵に向かって移動しちゃったんだ僕は。仕方ない、さっき掴んだ斧も持ったままだし、このまま切りつけるか。
でも、切ったら血とか出て痛がるかな。言葉を話す生き物を切りつけるのは気が引ける。血しぶきとか想像したら、なんか気持ち悪くなってきた。僕に胃袋はなさそうだけど。極力柄とかみねとかの尖ってないところで殴ろう。
猪に大分近づいたけどこいつらほとんど動いてない、多分僕のほうが圧倒的に速いんだろう。気づくより先に打ちのめすって啖呵切ったけどその通りになった。
先ずは武器を弾き飛ばしてやろう。一番近い猪の武器に向けて斧を振り回す。宙に浮いているからか、振り回しにくい。やっぱり地に足がついているって大事だなあ。でもまあ、何とか敵の武器に自分の斧をぶつけることができた。敵の武器は僕が振り回した斧と同じ勢いで弾き飛ばされていった。そのままついでに斧の柄の先端で猪の顔面を小突いておいた。
小突いた反動を利用してすぐ右の猪の方に進路を変える。猪は全く反応しないので、武器を弾く必要もなさそうだ。近づいてきた猪の頭を両手でつかみ、引き寄せるようにして猪の腹に両足で直地した。そのまま猪の腹を足場に蹴りこんで方向転換、残り3匹の方へ飛びかかる。
ちょっとコツがわかってきた。同じ要領で攻撃の反動を利用して方向修正しながら次々に3匹を倒して、今度こそ地面に着地した。もしかしてこれ、はた目からは八艘飛びみたいに見られてて、めちゃカッコいいんじゃないの。
「ふう」と一息ついたらスローモーション世界が終わった。周りの動きの速さじゃなくて、重力の感じ方の強弱でスローモーション効果の有無が判断できる。そうだ、忘れそうになっていたが、ハッタリの続きだ。戦闘は極力回避の方向で。
「だから言ったじゃないか。逃げたほうがいいよ」




