100人斬り!(1)
アカツキは数歩後ずさって魔王と距離を取り、ここへ来る時と同じように、一瞬の加速で戦場への空中に飛び出した。
この骸骨に道なんて必要ない。地を蹴る足場さえあれば瞬く間に地平の彼方まですっ飛んでいく。引きずられるようについていく僕の意識も、気が付けばいつの間にか自陣を飛び越え、敵陣の目前にまで到達していた。アカツキは最後に高く跳躍し、隕石が降ってきたかのような轟音を響かせて、敵陣のただ中に着地した。
何事かと音に驚いた敵兵が野営地の天幕からわらわらと出てくる。こいつら全員顔が猪だ。武闘獣人連合って魔王が言ってたな。獣人ってやつか。怪しいいでたちのガイコツを見るや、みな目を見張り、訝しむように距離を取りつつも、あっという間に取り囲まれてしまった。
「上位戦闘モード起動要請。……受諾を確認、アカツキ意識をサスペンドする」
アカツキは直立した姿勢で止まったまま、両目が赤く光り出した。いよいよ冷酷無比のAI様の登場のようだ。そのとき、不意に足元の床が抜けたかのように、宙に浮いていた僕の意識がガクンと傾いた。そのまま排水口に吸い込まれる木の葉のごとく、成す術なくアカツキのいる方へ引き寄せられていく!
「ええええ! うそぉ、まさかAIって……」蟻地獄に落ちた蟻の断末魔もこんな感じだろうか。「僕のことぉ?」
考える間に僕の意識は骸骨の体に取り込まれ一体となった。さっきまでの零体の様な浮遊感はなくなり、どっしりと地に足がついた感覚がある。重力を感じ、自分に体重があることがわかる。それゆえに体が、実体があることを実感する。恐る恐る首を動かしてみる。動いた。自分の体を見てみる。骸骨の体だ。腕を上げ掌を握ってみる。一歩、二歩と歩いてみる。動く、自由に動く。足を大きく広げて、ヒーローの変身ポーズのように腕を振り回した。シャキーン!と心の中で効果音を唱えたが、思いのほか関節は滑らかで、実際にはこんな機械的な音は鳴らなかった。動く、軽やかに動く。体が動くって素晴らしい。つい、歓喜の声がこぼれた。
「ひゃっほう!」
スピーカーっぽいけど声も出た。アカツキとは違う声、これが僕の声か。アカツキは厚みがあって落ち着いた大人の声だったが、今の僕のはハツラツとした元気あふれる少年のような声だ。嬉しさのあまり、いつの間にやら小躍りしてた。
「何だこいつ」
魔物たちが怪訝な顔で僕を見ている。そりゃまあ、怪しい奴というよりは変な奴だよな、今の僕は。きっと魔王も遠くから同じ顔で僕を見ていることだろう。しかし、目の前の現実は小躍りしている場合じゃなさそうだ。どうやら僕はAIとしてこの骸骨に取り込まれ、体を動かす主導権を握っている。つまり、僕はこいつら百体の魔物と戦わなくてはならない。僕が戦闘AI? 絶対に違う。僕はビルから落っこちて、紆余曲折も経ないまま今に至る、ただの名もなき人格だ。覚えていないけど、ビルから落ちる前は戦闘なんかとは無縁できっと平和に暮らしていたに違いない。
「まあ、何だか知らんが、敵だろ。ぶっ殺すだけだ」
粗末な服を着て二足歩行する猪が物騒なことを言い、手にした斧を振り上げた。猪野郎とは十メートルは離れているから、振り下ろした斧が僕に届くことはないよね。振り上げたというよりは、おおきく振りかぶっている感じだ。まさか。……嫌な予感は当たるものだ。猪は僕に向かって勢いよく斧を投げ撃ってきた。




