臨戦態勢(2)
「承知しました」
言うより早くアカツキはさらに加速し、魔王の少し前を走る。主の斥候として先を行くつもりなんだろう。待っていると魔王はいったが、アカツキには主を待たせるつもりは全くなさそうだ。なんという忠誠心。
「はっ、いい心がけだ」
魔王もその意図が分かったのか、満足そうに笑みを浮かべ、アカツキに先導を任せることにしたようだ。
待っているといわれてもアカツキは待たせない行動をとった。これは機械的でなく人間的な判断による行動だ。単なる服従でなく敬意や礼節を感じさせる。やはり元は人間だったのだと感じさせる。それにしてもこの性格、人間だった頃はよっぽどの堅物だったんだろうなあ。
平原を駆け抜け、麓の森も通り抜けて、山の荒れた岩肌にあってもアカツキの勢いは衰えない。岩から岩へ次々に飛び移り、最後にそびえる断崖を一飛びで大きく跳躍して、狂いなくその頂に降り立った。まるで最初からそこにいたかのように、静かに片膝をついて魔王を待っている。ほどなく飛来した魔王がアカツキの前に背を向けて降り立った。
「見よ、アカツキ」
魔王は大きく腕を振ってマントをひるがえし、掌で眼下の平野を示した。アカツキは立ち上がり、少し控えて魔王の横に立つ。眼前には平原が広がっていて、平原の手前と遥か向こう側にそれぞれ天幕を張った大規模な野営地が設けられている。
「この平原を挟んでわが軍と武闘獣人連合がにらみ合っている。長く膠着状態が続いているが、たまに辛抱の無いやつらが進軍して小規模の戦闘がおこる。野営地には双方百騎程の兵士が控えているが、背後にはおそらくその数十倍の伏兵が潜んでいると見ている。伏兵の数がお互いに読めないから迂闊に手が出せない状態だ。アカツキ、あの野営地のやつらだけを倒して戻ってこい。お前の実力を見てみたい」
「伏兵には手を出すなということでしょうか」
「そうだ。野営地を攻め落としてさらに進軍しない限り伏兵は出てこないだろう。ただし、伏兵が出てくるほど戦闘が広がると、こっちも相応の兵員を出さねばならず、互いに引くに引けなくなって全面戦争に突入する可能性がある。俺は別に構わないんだが、アルテアが烈火のごとく怒るからやめておく」
アルテアの怒りを避けようとするときの魔王は割と大真面目だ。城でのやり取りを見る限り、主従で言うと魔王が主でアルテアが従者で間違いないだろう。でも魔王の言葉の端々にアルテアには頭が上がらないニュアンスもうかがえる。同盟を組んだともいっていたし、それなら二人は対等なはず。いったい二人はどんな関係なんだろう。夫婦なのか? そして、かかあ天下なのか?
「承知しました。先ほど魔王様は実力を見たいとおっしゃいました。私の戦闘性能の確認をお望みでしょうか」
「ま、そういうことだ」
「であれば上位戦闘モードを起動いたしますがよろしいでしょうか」
「上位戦闘モード?なんだそれ。てか、そういうことは覚えてるんだな」
知らないことに出くわすと魔王はちょっとアホの顔になる。
「戦闘に特化したAIを起動し、それに身体制御を委ねます」
「エーアイって?」
「人口知能です。私とはまた別の人格のようなものとお考え下さい」
「強いのか」
「現状の私をはるかに凌駕します。とりわけ反応速度が群を抜いております。恐らく魔王様と戦ったのも上位戦闘モードの私と思われます。ただし、AIは判断に躊躇がなく、非常に冷酷です。愛想も悪く、魔王様に失礼を働くやもしれません。その際はご容赦ください」
「お前以上の無愛想ってどんなだよ。逆に見たいわ」どの口が言うのかと呆れ顔の魔王がツッこむ。僕も同じ気持ちだ。「でも分かった、そのAIとやらで戦ってみろ」
「承知しました。敵陣に到着後起動します」




