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おもしれーオンナ  作者: 和達譲
コロちゃんのままでいいよ
9/14

第九話:君で良かった


「───え、ご飯これだけ?」


「これだけだよ。いつもより豪華だよ。」


「豪華……?これで?」


「本当にどうでもいい時は、卵かけご飯だけとか、ロールパンにウインナー挟んだだけとか。」


「ウインナーきだね?」


「楽だからね。」




密着と称した、コロちゃんによるトロちゃんウォッチ生活一日目。

いつもの休日の過ごし方を実践してみせた。




「前お泊りさせてもらった時は、こう……。

いわゆる"カフェごはん"的なの出してくれたじゃない?」


「あれはお客様用。」


「無理してたってこと?」


「無理じゃないけど、こういうのチャチャッと出来ちゃう女アピールしたかった。」


「こんなのぜんぜん大したことないから~、って言ってたのは?」


「ぜんぜん大したことです。

レシピサイト見て一生懸命練習したやつを張り切ってお出ししたんです。」


「そうだったんだ……。」




正午過ぎまで惰眠を貪り、ただの水道水で顔を洗い、パジャマのままで朝飯アサメシ昼飯(ヒルメシ)を食う。


食事の献立は、チンしたパックご飯に目玉焼きとウインナーを添えたもの、安売りしてた胡瓜の浅漬け、インスタントの味噌汁。


食事のお供は、なんとなくチャンネルが回った、バラエティー番組の再放送だ。




「───早くない?」


「え?あ、ごめん。」


「歩くスピードじゃなくて。

というか、私のことは半分いないものとして、気にしなくていいんだけど。」


「うん。」


「買い物のスピードがさ、即断即決って感じ。」


「あー、滞在時間?」


「もはや滞在って感じでもないけどね。」




ウォッチ生活、五日目。

たまのお出かけ日和に付き合ってもらった。




「だって、欲しいもの最初から決まってるし。」


「ふーん。」


「コロちゃんとデートの時は、買い物ってか、お互いにどれが似合うとか可愛いとか、お喋りするのがメインみたいなとこあったからさ。わたし的に。

一人の時は大体、サッと見てパッと買っちゃうよ。」


「あー……。

確かに。そんなこと言ってたね。」


「実はウザかった?」


「そんなことないよ。

私も、あの時間が楽しみの内だったから、むしろ今がちょっと寂しい。」


「エッ!言ってよ!

じゃ次のお店はコールアンドレスポンスしよ!」


「"コールアンドレスポンス"。」




服を見て、靴を見て、鞄を見る。

アパレル系を網羅したら、次はCDとかDVD、本とか雑貨の新作をチェックする。

合間の腹ごしらえはフードコートの軽食で済ませて、最後に食品売り場で夕飯の買い出しをして、帰る。


"間に合えばいい"の精神で生きているわたしには、ショッピングモールは人生のバイキングもといブッフェである。

目当ての品と巡り会うまで何軒も店舗をハシゴする、なんて発想はない。




「───お疲れさま。今日はどうでした?」


「いつもどーり、やりがい搾取のアットホームな職場でぇーす。

そっちは?」


「こっちもまぁ、いつも通り、かな。」


「そだ、着替え。持ってきた?」


「持ってきたよ。」


「よしよし。

んならェるべい。」


「本当に行くんだね。」


「うん?」


「今日。本当に泊まっていいのかなって。」


「そりゃあ、明日休みなら今日がいいっしょ。」


「そういう意味じゃなくて……。そういう意味もあるけど……。」


「わたしは仕事あるって言っても自分んだし。

むしろ、わたしの出勤時間に合わせて早起きしてもらうことになるから、そっちのがゴメンだよ。」


「……トロちゃんがいいなら、いいんだけど。」




ウォッチ生活、七日目。

勤務終わりのルーティーンを一緒に再現してもらった。




「ドライヤーは?」


「しない。短いし。」


「ヘアオイルとかは?」


「しない。ベタベタするし。」


「やっぱ一人だとそうなるのか……。」


「誤解しないでほしいんだけど、わたしは(・・・・)だからね?

わたしが特段ズボラなだけで、世の女性はもっとちゃんとしてるかもだからね?」


「わかってるよ。

今は世の女性より、トロちゃんの普通が知りたいの。」


「……ちなみに、そっちは?」


「私?」


「ドライヤーとかヘアオイル?とか。

ドライヤーは前使ってたけど、女になってから、やること増えた?」


「増えたは増えたかな。」


「例えば?」


「まずシャンプー・コンディショナーは、髪質に合ったもの美容師さんに選んでもらうようになったし。

オイルも、その日の天気だったり、気分によって使い分けて───」


「ウワァーッ!!」


「引かないでよ~。

女の人はみんなそうしてると思ったんだよ~。」




作り置きを活かした夕飯を食べて、うだうだと横になりながらテレビ観て漫画読んで、よきところでシャワーを浴びる。


髪はタオルドライで、ほぼほぼ自然乾燥。

スキンケアは、ドラッグストアで手に入る化粧水と、オールインワンのクリームを全身に塗りたくる。


たまに即席パックしながらストレッチやらマッサージやらすることもあるけど、毎日は面倒くさいから入り用の時しかやらない。


部屋の片付けとかも、もちろん毎日はやらない。

散らかってたら散らかったまま、休日の自分が頑張ってくれるだろうと期待して寝る。




「───落ち着かない?」


「なんか、悪いことしてる気分。」


「大丈夫だって。ちゃんとエスコートしたげるから。」


「変なとこない?目立ってない?」


「ないない。どっからどう見てもキレイなお姉さん。

……あ、そういう意味では結構、目を引くかも?」


「うう……。恥ずかしいよ……。」


「ほらほら、モジモジしないの。

背筋まっすぐ、わたしだけ見てて。」


「あ、今のなんかカッコイイ。」


「昔のコロちゃんの真似ー。」




「───落ち着いた?」


「だいぶ……。

重い時に当たっちゃったね。」


「いつもこんな感じなの?」


「おなか痛いのはね。吐くのは、たまーに。」


「痛いは痛いのか……。」


「まあ、薬飲めば良くなるし、軽いほうだと思うよ。

酷い人は薬飲んでも、最初の三日とか、まともに動けないっていうし。」


「話には聞いてたけど、実際見ると、本当に、大変なんだね。

女の人って、本当に、大変だ。」


「ふふ。

こればっかりは無くて良かった?」


「かも。」




お風呂に入る時は、どの順番で体を洗うとか。

生理が来た時は、どう対策して乗り切るとか。


医療脱毛しないと、なかなかムダ毛消えないとか。

お気に入りのブーツ蒸れるせいで、消臭スプレー欠かせないとか。


女っていうか、最早わたしだけじゃない?

っていう細かい生態まで、ぜんぶ見せた。ぜんぶ教えた。




「───もー、またそのへんに脱ぎ散らして。」


「だってぇ、畳む時間なかったんだもん。」


「今が丁度その時でしょ!

まったく、いつからこんなグータラ娘になったんだか。」


「ウェヘヘ。元からでぇす。」


「カワイコぶっても駄目。

コラ!言ってるそばから靴下バイバイしない!」




女だからって、みんな綺麗なわけじゃないし、汚くなるし臭くなるし。

女であっても、家事が完璧じゃなくてもいいし、結婚して子供産まなくたっていいし。


あなたは、女性として人として、なにも間違っていないよ。

正しくなるための正解なんて、求めなくていいんだよ。

正しいのが正解って、縛らなくていいんだよ。




「トロちゃん。」


「んー?」


「ありがとね。」


「え……。

な、なに急に。怒ってたんじゃないの?」


「こんなことで怒ったりしないよ。」


「じゃあなに、なんでお礼?」


「いつも思ってることだけど、こういう何気ない時に、特に?しみじみ感じるなぁって思って。」


「ありがとうって?」


「そう。」


「なんで?」


「なんでもだよ。」




なりたかった自分になること。

いたい自分でいること。


誰かを傷付ける目的じゃなければ、誰にどう思われたっていい。

たとえ世間で推奨されていなくても、自分が満足ならいい。




「君で良かった。」




五郎くんと、コロちゃんと、葉月さん。

わたしの中で、三者のイメージが、ぴったりひとつに重なった。



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