表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもしれーオンナ  作者: 和達譲
こんにちは葉月さん
6/14

第六話:懐かしい響き


"立ち話もなんだから"。

と、コロちゃんに連れられて入ったカフェ。

時間的に混むのは仕方ないとして、見渡す限り、若い女の子でいっぱいだった。




「───さすがに、この時間は混んでるね。」


「前にも来たことあるの?」


「ううん。一番近かったから入っただけ。

気になるなら、別のお店探そうか?」


「わたしは、どこでも、いいけど……。」


「私もいいよ。」




コロちゃんは全く動じなかった。

元から"カフェにもケーキ屋さんにも堂々入れちゃう男子"だったけど、より(・・)堂々としている。


周り女の子ばっかじゃん、と卑屈にならない。

お金払えば誰来たって一緒でしょ、と横柄になるでもない。


誰もコロちゃんを不審な目で見ない。

わたしの目から見ても、コロちゃんと周りの女の子たちに差異はない。




「みんな写真撮ってるね。」


「そう、だね。

SNSに上げるんじゃない?」


「内装イイ感じだもんね。こっちも一枚撮っとく?」


「いいよ。」


「え、私を撮るの?」


「違うの?」


「私()撮ろうか、ってつもりで言ったんだよ。」


「ええー。いいよ、わたしは。

普通の格好だし、あなたと違って───」


「私と違って?」


「……なんでもない。」




なんなら、生まれついての女性であるわたし達以上に、コロちゃんの方が洗練されたお姉さんだ。




「なに飲む?」


「んと……。」


「私はソイラテにしようかな。」


「あ……。

じゃあ、わたしは、カプチーノにしよう、かな。」




ソイラテ、今でも好きなんだな。

前と今とで変わったところがあれば、変わらないところもあって、いちいち混乱してしまう。

同一人物なんだと、認識をアップデートさせたはずなのに、鼬ごっこみたいにバグの発生が繰り返す。




「わ、見てこれ。こんなっきいのに700円だって。」


「安いね。」


「パンケーキって、少ないなら少ないで文句言うくせに、大きかったり多過ぎたりすると、こんなに要らないって思っちゃうよね。」


「そうだね。」




気まずい。

なんでこんなに気まずいのって、そりゃそうか。

彼女・・になった衝撃で、つい忘れそうになるけど、わたし達にはそもそもの前提がある。


五年・・ブランク(・・・・)がある元恋人・・・再会・・

こんな滅多な状況を楽しめる人は、よほど面の皮が厚い。




「昔はなんだかんだって平らげたものだけど、最近はぜんぜん駄目。特にクリーム系は、すぐもたれちゃって。

寄る年波ってやつ。」




会って話がしたかったんでしょう?

したかった話は、パンケーキがどうだ、寄る年波がなんだの世間話じゃないでしょう?

深刻な内容だからこそ、まずは注文したものが届いてから、仕切り直そうとしているの?




「───お待たせしました。ソイラテのお客様?」


「私です。」


「こちらは、カプチーノになります。

熱いのでお気を付けください。」


「ありがとうございます……。」




ほら、注文したもの届いたよ。もう邪魔は入らないよ。

わざわざ会ってしたかった話、していいよ。




「お砂糖いいの?」


「今日はいい。」




コロちゃんも気まずい、のかな。

わたしほどじゃないにせよ、緊張してるのかな。

だったら、コロちゃんの気持ちが整うまで、待ってあげようか。


大丈夫。まだお昼だし。今日一日フリーだし。

気まずいのはお互い様って分かってれば、沈黙も痛くない。




「そのまんまでも飲めるようになったんだ?

甘くしないと美味しくないって、昔は言ってたのにね。」




受け身でいいんだよ。

自分から行動起こして上手くいった試しないんだから、自分がなんとかしなきゃって焦らなくていいんだよ。

自分で貧乏くじ引きにいくとか、馬鹿のすることなんだよ。






「どうして」




そうだった。

わたし、馬鹿なんだった。




「どうして、今になって急に、連絡したの。

会いたいなんて言ったの。」


「………。」


「もう、必要ないはずでしょ。

ただの友達なら、あなたなら、わたし以外にいくらでも、代わりがいるでしょ。」


「トロちゃん、」




そんな顔しないで。

懐かしい名前で呼ばないでよ。




「前までのわたし達とは、違うでしょ。

あなたも、わたしも、前とは違う。前と違うあなたに、わたしが出来ることなんて、もうないでしょ。

だからわたしは、あなたから───」




どうして、わたしは、いつも、ずっと。

なりたい自分に、自分から遠ざかってしまうんだろう。




「……ごめん。こんなこと言いたいんじゃない。」


「うん。」


「いきなり本題入ったら、わたしがビックリするから、空気()っためようとしてくれたんだもんね。」


「うん。」


「ごめん。」


「ううん。

言いたいこと分かる。謝らないで。」




気持ちが整っていなかったのは、わたしだ。

短く深呼吸して、カプチーノを一口飲む。




「私の話したいことと、君の聞きたいこと、どっち先がいい?」


「わたしはどっちでも。」


「なら先に聞いて。」


「いいの?」


「先に君の疑問とか色々ぶつけてもらって、それに答えながら私も話すよ。」


「わかった。

どこまでなら聞いていい?」


「なんでも聞いていいよ。」


「それだとコッ───。

……あなたの気に障ることにも、踏み込んじゃうかもしれないし。」


「いいよ。なんだって、いい。」




万が一にも聞き耳を立てられるのを防ぐため、あの日は個室のあるカラオケ店を選んだ。


対してここは、仕切りがある程度で、流行りのカフェで、混雑する時間帯だ。




「それより今、"コロちゃん"って言おうとした?」


「ごめん。さっきも反射で───」


「いいってば。

ふ。ほんとに、懐かしい。」




なんでも、聞いていいのか。

答えたくない質問は拒否できるとして、質問・・をしていいのか。

万が一聞き耳を立てられたとして、見ず知らずの他人に、個人情報が漏れて構わないのか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ