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おもしれーオンナ  作者: 和達譲
こんにちは葉月さん
5/14

第五話:綺麗になったね


コロちゃんとお別れして、はや五年。

このかんにわたしは、三人の男性と交際一歩手前までいって、三人とも駄目になった。


一人目は、雰囲気がちょっとコロちゃんに似た、おっとりタイプの人。

でもコロちゃんと違って、おっとりの仕方が自分勝手というか、単に協調性がない人だった。


二人目は、コロちゃんとはあんまり似てないけど、真面目そうな人。

コロちゃんと違うのはいいとして、自分が真面目にやっているんだから君も貞淑でいてくれと、価値観を押し付けてくる人だった。


三人目は、コロちゃんとは似ても似つかない、半分ケモノみたいなオラオラ系の人。

いっそコロちゃんとは真逆の人のほうが、新しい恋に踏み出せるかと期待したけど、普通にわたしの嫌いな要素をマシマシに盛ったウンコマンだった。


三人が三人とも、別に悪人ではなかった。

最後のウンコマンだって、わたしにとってはウンコマンでも、そういう男性が好みって人には絵に描いた王子様かもしれない。



コロちゃんに似た男性が相手だと、コロちゃんを忘れられなくて駄目だと言い。

コロちゃんに似てない男性が相手だと、コロちゃんを思い出して駄目だと言い。


何人もの男性を値踏みするような、何人もの男性とコロちゃんとを比べてしまう自分を、一番最低だと嫌悪する。




『お久しぶりです。』




そうして気付けば、五年もの歳月が流れていた、今日この頃。

わたしの使い古したスマホ宛てに、当のコロちゃんからメッセージが送られてきた。




『急に連絡してごめん。山口五郎だった者です。

無事に送信できてるってことは、そっちのIDも変わってないんだね。

ブロックもされてないみたいで良かった。』




"お友達に戻りましょう"の体で別れたから、連絡先は残してあった。

ただ、残してあっただけで、実際に連絡し合うことはなかった。


大学卒業のすぐ後から、わたしは電話もメッセージも送らなくなった。

返信が必要な場合にも、最低限の受け答えで済ませていた。


それで多分、察したんだろう。

コロちゃんからも段々と連絡してこなくなり、やがて音信不通となった。




「(なんで、今になって。)」




てっきりコロちゃんは、わたしのことなんか忘れてしまったと思っていたのに。

まさかコロちゃんも、わたしの連絡先を残していて、自分の連絡先も変えずにいたなんて。


知らず知らずと同じ行動を取っていたことに一瞬嬉しくなり、いけないいけないと我に返る。




『本当に久しぶり。元気にしてた?』


『うん。そっちは?』


『なんとかやってるよ。

でも改まってどうしたの?なにか大事な用?』


『実は、会って話せないかなって。』


『それって直接会わないと出来ない話?』


『勝手は重々承知だけど、できれば。

もちろん、気が乗らないなら無理にとは言わない。

時間が必要ってことなら、何日かかっても君のタイミングを待つよ。』




"山口五郎だった者"。

口ぶりからして、少なくとも"五郎"ではなくなったらしいことが窺える。

その上でとなると、五郎でなくなった彼と、彼から彼女になったコロちゃんと、初対面するということになる。


耐えられるだろうか、わたしに。

彼への未練を抱えたままのわたしに、彼女の今を受け止めきれるだろうか。

晴れて女性になったコロちゃんを、心の底から祝福できるだろうか。




『分かった。会おう。』




恐怖があって不安があって、迷いも躊躇いもするけれど。

あの日のカミングアウトと同じで、きっと精一杯の勇気を振り絞って、わたしに会いたいと言ってくれている。


ならば、応えよう。

恋人だった者として、他人になった者として。

最後で最初で最後のお願いに、こちらも精一杯報いよう。


そして、不完全燃焼に終わってしまった"山口五郎との関係"を、今度こそ清算しよう。

これきり、互いを苛む悔悟の念から、解き放たれますように。






「───久しぶり。」




後日。

彼との待ち合わせ場所によく使っていた駅前へ向かうと、一人の女性が話し掛けてきた。




「あの日以来、だね。」




いつも、約束の15分前には先回りしていた彼。

今日も今日とて、まだ10分も余裕があるにも拘わらず、先回りをして待ってくれていた。




「コロちゃん……?」


「うん。」




ライトベージュのセットアップに、

モスグリーンのハンドバッグに、

チャコールグレーのアンクルブーツ。

取り決めていた目印と一致する。


でも、俄に信じられなかった。

照らし合わせてなお、目の前の女性がコロちゃんだとは、信じ難かった。




「ほんとに、コロちゃん?」


「うん。

ふふ、懐かしい響き。」




女性だ。女性なんだ。

完璧な女装を披露してくれたあの日以上に、完璧に普通に綺麗な女性。


慎ましい胸の膨らみと、笛のを思わせる高い声は借り物として、多くは努力の賜物だろう。


モデルさん。または女優さん。

美しく、カッコよく、ある意味で強さをも内包する。

往来の人々が、つい羨望の眼差しを向けてしまうようなんて、まさしく。




「ごめん、さすがに、ちょっと引くよね。」




ああ、もう、わたしの愛した山口五郎は、どこにもいないのか。

分かっていたけど、やっぱり悲しいけど、辛いけど。


ふとした瞬間に出る、かつての面影が、山口五郎は死んだわけではないと教えてくれる。

目の前の彼女と、思い出の中の彼が同一人物であることが、悲しくて辛くて、たまらなく嬉しい。




「綺麗になったね、コロちゃん。」




綺麗になった(・・・)、と。

皮肉にも取られ兼ねない台詞が、とっさに口を衝いた。

とっさの判断もできないほど、心の底から漏れた本音だった。




「ありがとう。」




コロちゃんは、わかってるよって、笑った。



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