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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

生きる理由は単純

作者: 清水春々

生きる理由は適当でいいのですが、

でも、その適当が難しい。

適当な理由を、探しています。




私は目の前にあるサラリーマンの背中を押した。

すると、彼は千切れた。もっと砕けたりするもんだと思っていた。けれど、千切れるとか裂けるとかに近かった。

彼を千切った電車はブレーキをかけた。静かな夜に、甲高い金属の叫びが響いた。赤い特急列車が、さらに赤く染まった。

私は足元に、肘から指先までの腕が落ちているのに気がついた。親指の位置を見るに、それは右腕らしい。私は拾い上げた。

すると、動かなくなったはずの指が、かたかたと、海老の足のように動き始めた。それが私の手の甲を引っ掻いたために、落としてしまった。すると、腕は指を使って地面を這い回り始めた。

今度は引っ掻かれないために、断面の方を掴んだ。先っぽでかたかたと指が動いている。

ふと足元の血溜まりに、指の方を擦り付けた。そして振り上げた。やっぱり、指は揺れる炎に似ていて、松明のようだった。私は、自分が探検家なのだと錯覚してしまいそうになった。

私は松明を掲げて、そのまま家路を辿った。

私はリビングの椅子に腰掛けた。この腕は千切れてから30分も経ったというのに、未だかたかたと動き続けている。

「何故、腐らないんだ」

私は喋るわけもない腕に聞いた。するとおかしなことが起こった。剥き出しの血管の断面のある一つが膨らんで、その穴が閉じたり開いたりした。それを繰り返した後、突如喋り始めた。

「何故、私を殺した」

どうやら、この腕は、持ち主であるあのサラリーマンの意思を継いでいるらしい。

「助けるためさ、そのおかげで君は今も尚、こうやって生きているじゃないか」

「生きていない、これでは私は生きていない」

「いや、歴とした生だよ、誰かを恨む為に生きることは、ほら、さっき君は自ら電車に飛ぼうとしていただろう」

この腕の持ち主であった彼は、あまりに無力な人生を送っていた。身を委ねる人などいない、だからといって自分を攻撃する人もいない。良いように言えば、風に揺られているだけの雲で、現実では、社会の見えない波に溺れ沈む、ぽつねんとした一人の人間であった。

そうして、彼は今日で人生を終えようとしていた。電車に飛ぼうとしていた。

「そんな君の背中を見たから、私が君の生きる理由をあげたんじゃないか」

「どういうことだ」

「人はどんな理由で生きていても良いんだ、それが単なる恨みでも、これは綺麗事じゃない、素晴らしいことだと思わないか」

私は彼に理由を与えたに過ぎない。彼が自死を選ぼうとしていたから、私が恨まれる役を買って、生きてもらおうと思ったのだ。

是非、感想のほどお願いしますm(_ _)m

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