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98 電話越しに伝わる震える声

「マナ……よく聞いて……。本当に、ここまでよく頑張ってきたな」

電話の向こうで、松永は静かに言った。

「いよいよ、明日がコンクールだぞ」


「……でも……」

震えた声に、松永は眉をひそめる。

「……なんで泣いてるんだ?」

「だって……」


マナの声が、かすれる。

「松永さん、入院って聞いて……」

「……パティシエ、続けられますね……?」

「あぁ……大丈夫だ」


松永は、できるだけ明るく答えた。

「左手の骨折だからな。ちゃんとくっつけば、すぐ現場に戻れる」

「……よかった……」

電話の向こうで、マナが小さく息を吐く音がした。


「私……すごく怖くて……」

「このまま……松永さんが来なかったらどうしようって……」

「……本当に、すまなかった」

低く、絞り出すような声だった。


「明日はな……近田さんの奥さんが会場に来てくれるらしい」

「家族みたいな人だからさ」

「だから……明日の大会は、俺のことなんか忘れて……」

「思いきり、ぶつかってこい」

「……そんな……」


松永は、電話越しでもわかるほど、マナの声が震えていることに気づいた。


(……こんな時、何て言えばいいんだ……)

視線を落とし、しばらく黙り込む。


そして――

ふっと、小さく息を吐いた。

「……なぁ、マナ」

「はい……?」


「もしさ……マナが優勝したら……」

「フランス、行けるだろ?」

「……はい……」


「その時はな」

「俺が、フランスの三つ星レストランに連れてってやる」

「……えっ……?」

「それまでに、俺もちゃんと身体治す」

「現場にも復帰する」


少しだけ、声に力がこもる。

「だから――」

「優勝、目指せ」

「俺は……マナを信じてる」


「……松永さん……」


マナの声が、今度ははっきりと震えた。

「……私……頑張ります……!」


「松永さん……」

「たくさん応援してくださいね……」

「あぁ……もちろんだ」


「……頑張れよ、マナ」

「松永さんも……」

「ちゃんと休んでください……」

「……あぁ」

受話器越しに、

二人の呼吸だけが、静かに重なった。





続く

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