↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の味、心のレシピ 〜不器用なバツイチシェフは恋心に気づかないフリをする〜  作者: タルトタタン
東京本大会パティシエコンクール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/115

96 あなたがいない朝

 大会2日前。

 朝、厨房に松永が着き、身支度を済ませると、ふと自分のパレットに目を向けた。


柄の部分に、細い亀裂が走っている。

「……割れてる」

「12年近く、毎日使ってるからな……」

松永はパレットを持ち上げ、静かに見つめた。


「修理は無理か……あと、数か月くらいは使えるか……」

棚の奥に置いてある、マナのパレットにも目をやる。

「……マナの方は、大丈夫そうだな」

(買い替えるか……)

そう心の中でつぶやいたころ、店のドアが開く音がした。


 マナが出勤してくる。

 朝の仕上げを終え、小休憩のコーヒーを飲みながら、 松永は静かに口を開いた。

「マナ。今日は店の仕込みと接客は俺がやる。明後日の大会の準備に集中しろ」

「ありがとうございます」


 マナは書類を広げ、 会場、受付時間、持ち物を何度も指差ししながら確認していた。


その後も、道具の手入れを丁寧に続ける。

「あれ? 松永さんのパレット、ヒビ入ってますね」

「昨日、割れたらしい……十年以上使ってたからな」

「そっか……新しいの、買うしかないですね」

「……だな」

松永は、少しだけ笑った。


 店を閉めるころ。

松永は時計をちらりと見て言った。

「今日は早く帰って、家でゆっくり休め。明後日の朝、車で出発するからな。俺は仕入れ行ってから帰る」

「はい。気をつけてくださいね」


 マナは軽く頭を下げ、店を後にした。


──


 翌朝。

いつもの時間に、マナは厨房へのドアノブに手をかける

「おはようございま――」

 言いかけて、止まる。


「えっ……開いてない」


 厨房の鍵を開け、中に入ると店内はまだ静かだった。 オーブンもついていない。


いつもするコーヒーの香りもしない。

(……あれ?)

 時計を見る。


 もう、松永が来ていてもおかしくない時間だ。

「……松永さん?」

 返事はない。


 作業台は昨日の状態のままだった。


 胸の奥が、ざわりと揺れる。

(遅刻……? そんなこと、今まで一度も……)


 マナはスマホを取り出し、 何度か画面を見つめたまま、動けずにいた。


電話を松永にかけると

「おかけになった電話は電波の届かない場所……」



「……え……?」

 小さく、声がこぼれる。

(松永さん……)



 理由のわからない不安だけが、 じわじわと胸に広がっていった。





続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。