91 マジパン細工
仕事終わり。
ステンレス台の横に置いた椅子に座りながら、
マナは大会用のマジパン細工を練習していた。
作るのは四体。
はしごに乗って木から桃を取る父。
下でそれを受け取る母。
かごに桃を並べる男の子。
そして、桃をかじっている女の子。
この四体のマジパン制作に使える時間は、おおよそ四十分。
最初は一時間半。
次は一時間。
少しずつ短縮はできているけれど——
まだ、足りない。
「……」
指先に集中しながら、マナは小さく息を吐いた。
「大丈夫か? マナ」
「松永さん」
ふと後ろを向くと、ホットコーヒーを手にした松永が厨房に入ってくるところだった。
彼はさっと折りたたみ椅子を用意し、マナの隣に腰を下ろす。
マナはため息まじりに言う。
「なかなか……四十五分、切れないんです」
松永は無言でマジパンを確認した。
「……四十五分で、このクオリティの四体は、一般じゃなかなかすごいと思うけどな」
そう言ってから、顎に手を当て、考え込む。
「細工のパーツ作りに合計一時間十分……」 「流し飴は加熱しながら作業して、百四十五度になったら流す。あとは冷めるまで放置……作業時間は十分」
「シュガークラフトは伸ばして葉っぱの型抜き……合計十五分くらいか」
一つひとつ、頭の中で工程を組み立てていく。
「……マジパンのパーツで、一番手を抜けるところは……」
少し間を置いて。
「服、かな」
「服ですか?」
「この四体、デニム生地の作業服着てるだろ」
「まず画用紙で、おとな用の服の型紙を作る」
「それで一気に、同じ形で四体分抜く。子供用は袖の部分を切り落とすだけでいい」
マナの目が、ぱっと開く。
「どうだ? これで五分くらい短縮できる」
「なるほど……!」
「あと、ボタンだな。これはアイシングで描いたほうが早い」
「マジパンで小さい丸を作る時間が、もったいない。これでさらに五分」
「……」
「それから、母親と女の子の髪型を一本にまとめる」
「これで、さらに五分」
松永は淡々と言い切った。
「合計、十五分短縮」
「……すごいです……松永さん……」
マナは、思わず尊敬のまなざしで見つめていた。
「俺は、これくらいしかできないからな……」
「でも、頑張れよ」
そう言って、松永はマナの頭に、ぽん、と手を置く。
一瞬、マナの肩が小さく跳ねた。
「……っ」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「松永さんは……どうして、こんなに私のこと応援してくれるんですか?」
「えっ……?」
少し意外そうに、松永は目を瞬いた。
「……目の前に、頑張ってるやつがいたらさ」
「自然と、応援したくなるだろ」
(……やっぱり)
(松永さんは、私のこと……ただの従業員とか)
(妹みたいな存在として見てるのかな……)
(……十一歳も年下だし)
「マナ? どうかしたか?」
「い、いえ……なんでもないです」
マナは視線をマジパンに戻す。
(今は……大会に集中しないと)
小さく、心の中で言い聞かせた。
続く




