5 松永の人柄
マナは涙をすぐ拭い
「あっ、す、すみません……。大丈夫です…。」
「大丈夫か?俺でよければ話し聞こうか?」
シェフは隣の席の椅子に座った
マナは
自分が子供の頃パティシエに憧れていた事、
専門学校を出て、ホテルに就職し、
パティシエの世界に失望した事。
学費を出してくれた両親に申し訳ないと思ってる事。
鼻をすすりながら話していた。
シェフは真剣にマナの話しを聞いて何回も頷いていた。
「ケーキがとても美味しくて、ホッとしたら涙が出ちゃいました」
「それは良かった」
シェフも初めて微笑んだ
マナも泣き顔から笑顔になった
「私、ケーキ作るのが凄く好きで、私が作ったケーキを食べたお客さんが笑顔になって欲しくてパティシエ目指したんです……」
「けど、パティシエの世界が厳しくて、どんどん働くのが辛くて、そのままだとケーキ作る事自体が嫌いになっちゃいそうで」
「パティシエの世界から逃げ出したんです…」
男性はあごに手をあて
「君はお客さんに笑顔になってほしいの?」
「はい……」
男性は腕をくみ天井を見上げ
何か考えているようで
「………。じゃあ、ここで働いてみるか?」
「えっ……」
予想外な言葉に驚く
「俺、ここのシェフの松永、君の名前は?」
「せ、瀬川マナです」
松永は優しい目をして話す。
「マナちゃんね」
「もしパティシエの世界に失望しても、ケーキ作りとお客さんの笑顔が好きな気持ちがあって、ここで働きたいって思ったら、また明日ここに来てくれるか?」
松永がゆっくり席を立つ
「えっ…は、っはい」
「笑顔になって良かった」
マナが会計しようとすると受け取ってもらえず。
「気をつけて帰って」と松永が微笑む
帰りの車の運転中
今日の出来事を思い出していた。
恥ずかしさや嬉しさなどいろんな感情が溢れていたが、松永の人柄に惹かれていた。
「明日松永さんのところに顔出してみよ」
次回へ続く