表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/82

31 番外編 男だけのパリの夏休み①

松永がワーキングホリデービザでフランスに渡り、修業を始めて4ヶ月目

ようやく厨房の流れにも慣れ始めた頃、同級生のかつらがパリへ遊びに来る。


「男だけのパリの夏休み」の始まりである



───




シャルル・ド・ゴール空港

フランスの広い空の下、桂が手を振る。


「まっちゃん、会えたー! やっと着いたわ!」

(かつら)、久しぶり」

「ほんとに遊びに来たんだな」


かつらとは、松永と同じ専門学校の同じクラス、同じ班だった。


専門学校を卒業した夏、連絡を取り合い、桂はパリに遊びに来たのだった。


「ホテル、どこ取った?荷物置くか」

桂は鞄の中をゴソゴソして紙を取り出す

「えーと……パリ9区の……なんて読むんだ、この駅」


のぞき込む

「オーベル駅だなオペラ座の近くだ」

「おぉ……さすが」


地下鉄へ移動しながら、松永がふと思い出したように言う。

「そういえば、よく1週間も休めたな」


桂は頭をかきながら

「あはは、大塚ホテル辞めちゃった」

「えっ… あそこ倍率すごかっただろ?」


桂は少し笑いながら、肩をすくめる。


「なんか、もー……上下関係? 先輩よりできたら呼び出されて、生意気だとか、先輩を立てろとか、めんどくさいし…… それに特別指導とかで……個室に呼び出されて……」


急に視線を落とし、黙る。


桂は、じっと松永の顔を見つめる。

その瞳は、死にそうな目だった。


「……襲われそうになった」  


松永は眉をひそめた

「……え?…女の先輩とかか?」


「いや……スーシェフ、男の」


松永は絶句する

「うっ……」


しばらく、沈黙が続く。


「た……大変だったな……辞めるのも、仕方ない……」


桂は小さく笑う

「トラウマになったわ」


髪はくせ毛で長め、中性的な顔立ちの桂。

学生時代は、男女ともに人気者だった。

でも、そのことで余計な苦労もしていたのかもしれない——松永は初めてそう思った。


桂は顔を何度か叩き、口角を上げた。


「せっかくパリ来たんだから楽しもう。切り替え、切り替え!」

(そういえば、自分は修業ばかりで観光してなかった…シェフも3日間休みをくれたから、俺も楽しむか)



───



駅に着き、ホテルへ向かう。

松永は桂の代わりにチェックインの手続きを済ませ、部屋まで一緒に向かった。


桂が鍵を差し、ふと真剣な顔になる。


「まっちゃんってさ……そっちの気、ないよな?」

「はぁ? ねぇーよ 俺は女の人が好きだよ!」

「よかった……トラウマだな、こりゃ」


ドアを開けると、

中央に置かれたベッドは、シンプルながらもふっくらとした質感で、 奥には、落ち着いた色合いの机とイス 大きな窓の向こうには、パリのアパートがみえる。


「きれいな部屋だな」

「旅行サイトで紹介されてた。良かった」


二人は部屋に入り、桂はスーツケースを開いて荷物を整理し始めた。


松永は椅子に腰掛ける。

「そういえば、パリに来て何がしたいんだ?」


桂は手を止める

「俺? 食べ歩きかな。日本ではなかなか食べられないものとか」

「そっか」


「……俺さ、実は料理人になりたいんだよね」

「そうなのか?」


「実家がケーキ屋で、男は俺一人だから店を継げって言われて、大阪の専門学校に行ったけど……実は料理のほうが好きなんだよね」


松永は、少し驚きながら桂の話を聞いた。


「俺って……自分で言うのもあれだけど、器用なほうじゃん。そこそこ人よりできるし、

でも、夢中になれるものが見つからなくて、結局続かない。でも料理は、素材や調理方法で無限に挑戦できて……楽しい」


「だから、この旅は、新しく料理人を目指すための一歩」

「そっか」


桂は立ち上がり、軽く伸びをする。

「ちょっとシャワー浴びてくる。飛行機の中思ったより暑かったわ」


松永は、学生時代、器用になんでもこなしていた桂のことを羨ましく思っていた。

でも、器用な人間にも、悩みや苦労があるのだと、初めて知った——



───



しばらくすると、シャワー室から声が聞こえた

「うわぁー! 冷てーな! お湯出ないぞ、まっちゃん!」


シャワー室の前に移動し

「フランスのホテルはけっこうお湯出ないことが多いからな。頑張れ」


「マジかよ……水、冷たっ!」

松永は、ははと笑う



学生時代、桂はどこか別世界の人間だと思っていた…けれど、こうして話してみると、思ったよりずっと“普通の人間”だった。


仲の良い友達になれそうだ——そう思えた瞬間だった。


近くのスーパーで桂の夕飯を買い出しし

その日は、そのまま解散した




次回へ続く

本編にフランスあるあるの話が書きたかったのですが真面目な松永だと、ひたすら耐える感じになってしまうので

リアクションが大きめのかつらを登場させて書きました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ