21 コンクール試作②
「松永さん、これがフードロスから考えたアントルメです」
マナは皿にのせた桃のムースをそっと松永の前に置く
「あと、簡単に上にのせるデザインです」
ノートを広げると、アントルメの右側には薔薇が五輪
左側には、男の子と女の子が並んで座り、桃を食べている——
松永はキリッとした真剣な表情で、ムースの側面を確認する
ノートのデザインにも視線を落とし、しばらく黙って見つめていた
「アントルメ、カットしていい?」
「はい」
「桃のムースとアールグレイの生地……スポンジベースだな?」
「そうです」
松永はナイフを入れ、八分の一にカットする
小皿にのせ、一口食べる
少し考え、またもう一口
無言のまま、最後まで食べ終えた
マナは、胸の奥が高鳴るのを感じながら、松永の言葉を待った——
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「美味しいよ……」
その言葉に、マナは安堵しそうになる
しかし、続く言葉は慎重だった
「美味しいけど、物足りないかな……」
松永は静かに分析する
「生の桃か、シロップ煮の桃を別の層に入れると、白鳳の桃の良さがもっと引き立つ」
「生地も美味しいが、少し薄い 上にマジパンや飴細工をのせるなら、重さで沈む可能性があるから、もう少し厚めの方がいい」
「デザインは高さを出した方がバランスが良い 飴細工で上に動きをつけて、下にマジパンで【フードロス】のテーマをしっかり表現するといいかもしれない」
マナは頷きながら、メモ帳に走り書きをする
「……一方的に話してしまった、大丈夫?」
「いえいえ、すごく参考になります!」
松永は軽く息を吐き、カップに手を伸ばす
「フードロスは、ケーキ業界の長年の課題だからな…… 洋菓子技術協会も、大会を通して若いパティシエたちに意識してほしいんだろう」
松永はコーヒーを口に運びながら続ける
「うちの店は廃棄率が低い方だけど、百貨店は違う 夜遅くまでケーキを並べないといけないから、廃棄率が高い ブランドイメージを守るため、値下げせずに営業終了後はすべて廃棄……」
その言葉に、マナは小林ファームの鶏のことを思い出した
「材料は大切にしないと、って俺は思うよ」
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「デザインでフードロスを表現……
うーん……」
マナはノートの端を指でなぞりながら、考え込む
「詰め込みすぎなくていい」
松永は腕を組み、ふっと笑う
「応募締め切りまで、まだ一ヶ月近くある それに、マナちゃん家の白鳳の収穫時期はあと二週間くらい後だろ?次回の試作は、桃を収穫してからにしよう」
「……分かりました」
「お疲れ様 今日は早く帰って休みなさい」
「ありがとうございます」
マナは厨房を片付け、着替えを終えて店を出ようとする
そのとき——
「松永さん」
マナは立ち止まり、深々と頭を下げた
「今日はたくさんアドバイスをいただいて、とても参考になりました ありがとうございました」
松永はふっと微笑み、手を軽く振った
車へ向かいながら、小さく呟く
「……ほんとに、素直な子だな……」
エンジンをかける
続く