海りんごの悲しみ
それらは、海底にあり
それらは、魚の食事ではない
それらは、獣の食事でもなく
それらは、人の食事でもない
なんのために生まれて
なにを求めて生きるのか
そんなことばかり、考えている
考えている、考えている
考えても、考えても
そういう問いに答えはないというのに
運がよかったら、なにかの僥倖があれば
もしかすれば、みつかるかもしれない
まるで龍王に出会える確率みたいな
稀代の聖者と語れる確率みたいな
それらは
朝も昼も夜もなく
考えつづけているという
それらの名もなきいきものの名を
海りんごと云う
お世辞にも
役に立つとは云えず
やっぱり美しいとは云えず
それら海りんごたちは
同種というだけで
仲良くなどできるわけもなく
ただ生きることを
まるで仕事のように
こなす
燃えるような希望もなく
癒すほどの優しさもなく
ただただ永くは生きつづけるがゆえに
なにもかもをみて来た
なにもかもを識った
ただ生きることを
まるで臆病もののように
生き、生き、生き、つづける
それらの身が
かたくなにおのが死をのぞまないかぎり
生き、生き、生き、生き、つづける
まるで悪夢に怯える臆病な怠惰のように
なんども、なんども、なんども、
繰り返し、つづける
逃げることだけに、肯じえず
悲しみの涙を流したとしても
それを
神さえも
知らずひそりと浮き沈む
さだめの外の海りんごたち