俺は今日もベランダをパトロールする。
俺は“ねこちゃん”である。
ばあちゃんにそう呼ばれているが、名前ではない。うちのばあちゃんはどの猫に対してもねこちゃんと呼ぶからだ。野良猫でも、俺でも等しくねこちゃん。いや、確かに猫だから間違ってはいないのだが。
まあ、名前なんてどうでもいい。俺には使命があるのだ――この家と、手下であるばあちゃんを守ることだ。
今日も朝からベランダをパトロールしている。
不審者の侵入を防ぐためだ。
最近は特にカメムシが多い。
敵はのろのろしているように見えて、油断すると臭い液を撒き散らす。
ばあちゃんがニオイにやられたら大変だからな。手下想いの優しい俺は即座にカメムシを捕獲し、鉢植えの隅に追いやるんだ。
ふっ、これで安心だな。さすが俺。手下のために頑張るいいボス猫。
自らの偉業に満足しながら振り返ると、ばあちゃんがベランダのガラス戸を開けて俺を呼ぶ。
「ねこちゃん、お散歩かい? 良い天気だものねぇ」
優しい手が俺の頭を撫でる。だが次の瞬間、ばあちゃんは窓を開けて、俺の捕獲したカメムシをスリッパでシバいた。
「んぎゃあああああ! ばっちいわ!」
ばあちゃんは強い。
気を取り直して、次の任務だ。
部屋に戻り、隠し場所にたまったマタタビの枝を確認する。
これはばあちゃんのために集めたものだ。
最近、寝込むことが多いばあちゃんが元気になるようにと、俺がせっせと拾い集めたものだ。
俺達猫には元気のミナモトだが、ばあちゃんにはその価値がわからないらしい。
以前、ばあちゃんの枕元にマタタビを置いた時も、「あら、ねこちゃんったら、またゴミを集めて。困った子だねぇ」と言われてしまった。
それでも俺は諦めない。
ばあちゃんが寝ている間、そっと足元にマタタビを置く。手下にいつも元気でいてほしいという俺の願いだ。
「ねこちゃん、どこ行ったの? 日向ぼっこしましょう」
ばあちゃんの呼び声がする。俺は急いで手すりからばあちゃんの隣に飛び乗り、膝の上に座る。
ばあちゃんはゆっくりと俺の頭を撫でてくれる。
……まあ、俺の努力が通じなくてもいいか。ばあちゃんが笑っている。それだけで十分だ。
俺は今日もベランダをパトロールする。
手下の平和を守るために。