俺の家は亭主関白
まただ。
母さんから話を切り出された時、漠然とそう思った。
小学校を卒業と同時に今まで慣れ親しんでいた土地を離れ、親の仕事の都合により、またもや見知らぬ土地へと転校。
俺の家庭では引越しはすでに、日常茶飯事となりつつある。
もちろん理由は父さんの職業のせいだ。
本人も「そうだ、俺のせいだ」と開き直ってはいるが、自覚はあるらしい。
しかし、俺の父さんは職業の事については全くといっていいほど語らない。
理由は知らないが、いつもはぐらかすのだ。
しかも頑固だからなおさら性質が悪い。
頑なに口をわりゃしない。
そんな馬鹿みたいに頑固な親父に俺含む一家はいつも振り回される。
今回も例外なく、そうだった。
コンコン。
不意に、俺から見て左手にある車窓から音が鳴った。
今まで閉じていた目を開けると同時にドアが開かれる。
「寝てたのか、キヨ」
開かれたドアの上に肘をついた体勢のまま、少し屈んで顔を出したのは、俺と同じ顔のそいつ。
ちなみに「キヨ」は俺の愛称であり、本名は野村清介である。
「寝てない。それより着いた?」
体をずらして外に足を出せば、そいつはあっさり引いてくれる。
そして、そいつは俺の問いににっこり微笑んで頷いた。
「今度は一軒家。先に見たがなかなか良い家だった」
「どうせまた引っ越すんだからどの家も一緒だろ」
俺が返した言葉にそいつは「まーな」と肩を竦めてみせた。
そいつ……という言い方はやめよう。
仮にも兄弟であり、しかも俺の双子の兄なんだから。
彼の名前は野村真介。愛称はシン。
名字はもちろん一緒であり、顔も身長も体重も声も一緒である。
ようするに、俺達二人は一卵性双生児。
唯一変えられるヘアスタイルも、俺達は変えない。
理由はなく、ただたんに趣味が一致するのでそうなった。
車を出た瞬間、今までずっと車内に居たせいか自然と伸びをしていた。
そんな俺の肩にぐるりと腕を回して欠伸をするシンを横目に溜め息を吐く。
俺の兄は基本、甘えたのめんどくさがり屋である。
「シン、荷物は?」
「母さんが運んだ」
どうしようもない兄。
母さんはシンを甘やかし過ぎだ。
おかげで知り合う人達には俺が兄のようだ、と言われるようになった。
まぁ、それはどうでもいいのだが。
「ちょっとキヨーー! 家の片付け手伝ってくれなーい!?」
これが一番厄介。
面倒事は全て俺に押し付けられる。
「シン、さっきまで何してたわけ?」
「ちょっと考え事を」
「嘘つけ」
「ばれた?」と屈託無く笑うシンにもう何も言う事はない。
迷わず裏拳を兄の顔に見舞えば、パシィッ!と良い音を出して止められた。
止められた拳を見て、それからシンの顔を覗けば未だ屈託無く笑っていやがる。
「まだまだだな」
「いいから離せ、馬鹿兄」
そう言えばぱっと手を離して、今度は俺の首に両腕を絡めてくる。
もう……色々とめんどくさい。
「ちょっとーー!! キヨーー!!?」
……本当に、めんどくさい。
小さく溜め息を吐いて引っ付く兄を引き剥がす。
俺はそのまま足早に、家を目指した。
『見つけた』
――そんな声を自然と聞き流して。