狐の嫁入り
お楽しみいただけたら幸いです。
第4話 猫のお宿
ハリーと俺は目を見張る。不思議な光景だった。雨が壁のように、嫁入り行列を隠して、時々ぶつかるように人や建物が通り過ぎる。
これだけ歩くと疲労を感じるはずだが、少し疲れたと思うと誰かが金平糖を持ってくる。それを舐めるとあっという間に疲れが消える。
「24時間働けそうだな。」
「日本人って本当にワーカーホリックってやつ?」
ハリーが呆れたように俺にいった。
後ろを歩いていた女が笑っている。
「妾達にしてみれば人間というのは誰もかれもせわしなく思われますなぁ~。」
「あ!すみません。え~と…。」
切れ長の瞳に、俺はドキドキした。ハリーも顔を真っ赤にしている。
「葛の葉と申します。新婦の妹に当たります。」
そういうと、淑やかに頭を下げた。ハリーの目は葛の葉に釘付けになっている。
『そういえば、大和撫子が好みって言ってたっけ?』
妖とはいえ、葛の葉は彼の理想の大和撫子だ。興味を持っても仕方がない。
「本日の宿に着きましたよ。」
先頭の男がそういうと、続々と宿に入っていく。
「さあ、あなたたちもこちらへ。」
葛の葉はそういうと、我々の先に立ち、案内した。
目の前には立派な平屋建ての建物が立っている。
「こんな山奥に?」
「ここは猫のお宿です。今日はこちらに止まることになります。」
周りを見ると、ほとんど人間と見た目が変わらない猫と、完全な人間の見た目だが、おそらく猫であろう人と、二本足歩行の猫がいた。うち、一匹の二本足歩行の猫が、俺を見て驚愕の声をあげた。
『ご主人様?』
「…お前、まさか、こたつか?」
1年前、病気で亡くなった猫の名前を言うと、彼女は嬉しそうに何度もうなずいた。
『そうです!こたつです!まさかこんなところで会えるなんて…。」
猫の目に涙が浮かぶ。俺も、まさか自分の元飼い猫と会話ができるとは、思ってもみなかった。
『あ!すいません。まだ仕事中なので、後でお部屋に伺います。』
そういうと、仲居姿の猫は、他の猫を追いかけては知っていった。
俺はその後姿を、じっと見つめていた。