4お義兄さまのために動きます!(義父バイロンの考察)
不慣れなため、間違いも多々あると思いますがご容赦ください。
誤字やおかしな表現があれば、教えていただけるとありがたいです。
あれから3日が経った。
パーティーのあと私は、邸の地下牢へつづく扉を抜けようとして警備兵に捕らえられてしまった。アランお義兄さまに会わせてほしいと懇願したが、警備兵は無情にもコートニーに報告したため、私は騒ぎを起こした罰として自室で謹慎するよう言いつけられてしまったのだった。
私が勝手に外に出ないよう廊下側の扉の前では警備兵が見張りをしているし、食事は1日1回で薄いスープとパンと水だけ。いわゆる軟禁状態だ。
けれど私は自分のことよりもアランお義兄さまが心配だった。
きちんと食事は与えられているのか、ひどい折檻は受けていないか……牢がどんな場所なのか見たことはないが、居心地の良い場所でないことは間違いない。
現在邸の中の状況を教えてくれる人はだれもいないので、アランお義兄さまの無事を祈ることしかできない自分が歯がゆくてたまらかった。
(なんとかしてアランお義兄さまを助けなくては……。でも部屋を出ることもできない私になにができるのだろう……。)
気持ちばかりが焦るが、なんの打開策も見つけられないまま時が過ぎ、3日目の今日。
メイドが持ってきた1日1回の食事を取ろうとパンを割った。するとパンの中から小さく折りたたんだ紙が出てきた。
驚いた私は、思わずきょろきょろあたりを見回した。
室内には私しかいないのだから、盗み見される心配はないが念のためだ。
紙には、『今晩12時』とだけ書かれていた。
差出人の名前も場所も書かれていない。筆跡に見覚えもない。もしかすると、なにかの罠かもしれない……。
それでも、ひとりではなにもできない私は、このメモに賭けることにした。
部屋の置時計を見ると午後を少し過ぎたところだ。
時間はたっぷりあるから、まずはいつもの薄いスープとパンをしっかりと食べる。
食事が終わると文机から、今回の一連の出来事を綴ったノートを取り出した。
これは定例会のパーティーで起きたアランお義兄さまにかけられた嫌疑と、これまで邸で見聞きしたこと(噂を含む)を基にまとめたものだ。
あくまでも私が知ることだけなので限定的だし、憶測や邪推しすぎる部分もあるかもしれないが、アランお義兄さまの役に立ちたい一心で書き上げたものだ。それをあらためて吟味してみる。
まず、アランお義兄さまを陥れたのは、デニス、コートニー、ブレナン子爵の3人だろう。これについてはほぼ間違いない。
ただし、彼らの後ろにさらなる黒幕がいるかどうかは、ほかの判断材料がない現時点ではわからない。
バーバラに関しては、事情を知ったうえで協力しているのか、単に父であるブレン子爵の言うなりに動いているだけなのかはっきりしない。
そして彼らの目的はおそらく、”辺境伯家の乗っ取り” だと思う。
しかしそこで疑問になるのが、お義父様であるバイロン・カルトリード、現辺境伯の存在である。
私は紙をめくって、お義父様の略歴のページを開く。
【バイロン・カルトリード】
現カルトリード辺境伯。39歳。
15歳:貴族学院入学、パメラ・ホルター(伯爵令嬢)と婚約を結ぶ
20歳:貴族学院卒業(優秀学生として表彰)
22歳:パメラと結婚、1年後に第一子アラン誕生。
31歳:パメラ死去(事故死)
32歳:アガサ・シムス(子爵未亡人)と再婚。アガサの娘メリッサと養子縁組
33歳:父・カルトリード辺境伯ウォルター死去(病死)にともない辺境伯を継ぐ
33歳:コートニー・レイン(男爵令嬢)とデニスを邸に客分として迎える
35歳:アガサ死亡(病死)
36歳:コートニーと結婚、コートニーの息子デニスと養子縁組
38歳:次期辺境伯に第一子のアランを指名
39歳:約1か月前に寝室で倒れているのを侍従が発見、現在も意識は戻っていない
お義父様に関して特筆すべき点は、コートニーとの関係だろう。
もうひとつ、とても気になる点もあるが、そちらはとりあえず後回しだ。
以下は、前辺境伯ウォルター様 → パメラ様 → アランお義兄さま → 私の順に聞いた話と、邸内の噂話をまとめたものだ。
【バイロンの特筆事項】
バイロンとコートニーとは貴族学院の同級生として出会い、すぐに恋人関係に発展。美男美女で有名だったとのこと。
卒業後、バイロンはコートニーとの結婚を希望するが、当時の辺境伯であった父ウォルターに大反対される。勘当寸前までいった挙句、コートニーを諦め、婚約者のパメラと婚姻を結ぶ。
約1年後に第一子アランが誕生。それを機に完全な仮面夫婦となる。
その後心労のため、パメラの社交界への露出が減少した。
なお、後に発覚するが、この時点でバイロンはコートニーと別れておらず、定期的に近隣に用意した邸に通っていた。
アランが誕生した4カ月後にコートニーはデニスを出産している。
その後、パメラが馬車の事故で亡くなる。
喪が明けた1年後、バイロンに再婚話が持ち上がるが、このときバイロンは、再びコートニーとの結婚を希望する。しかし再度ウォルターによって阻まれる。
この時点でコートニーとの関係とデニスの存在が発覚する。
しかしウォルターはこれを認めず、子連れの未亡人だったアガサをバイロンと強引に再婚させた。
この一件で父子関係は悪化。辺境伯夫人となったアガサとその娘メリッサもほぼ放置された。
ウォルターの死去後、バイロンが爵位を継承。喪が明ける前にコートニーとデニスを客分として邸に迎えた。
アガサが病気で死去したのち、喪が明けると同時にコートニーと入籍、デニスを養子に迎えた。
バイロンとアラン、デニスの仲は、その関係性を考えれば決して悪くない。
特にアランは次期辺境額としてバイロンに期待されていた。
コートニー譲りの容姿を持つデニスに対しては、金銭などを惜しみなく与える様子が確認されてされている。
義娘のメリッサに関しては、ほとんど交流がない。
いまから半年前の定例会でアランを次期辺境伯として指名。
1か月前に、寝室で倒れているバイロンを侍従が発見した。
脳になんらかのダメージを受けたため、昏睡状態がつづいているとのことで、快復には時間がかかると診断された。
3日前の定例会で、バイロンが次期辺境伯をアランからデニスへ変更しようとしていたと、ブレナン子爵が証言した。信ぴょう性については要調査。
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ここまでが、私が見聞きした内容をまとめたものだ。
もちろん伝聞だからすべてが正しいとはかぎらないし、当事者がどう考えていたか、どんな気持ちだったかを知ることはできない。
それでも私は、『お義父様はずるい』、と思った。
義父が本当にコートニーと結婚したかったなら辺境伯をあきらめることだってできたはずだ。現に勘当の話も出ていたという。コートニーと辺境伯の座を天秤にかけて、義父は辺境伯を取ったのだ。
それなのに義父はコートニーを切らなかった。そればかりかデニスまで生まれている。
割を食ったのは、アランお義兄さまの母君のパメラ様と私の母アガサだ。
パメラ様についてはアランお義兄さまから聞いたことがあるが、本当に気の毒だと思った。
私の母アガサは、夫だった子爵(私の実の父)を落馬事故で亡くした。母の生家はすでに代替わりしていたため行先に困っていたところ、ウォルターの伝手で義父の倍婚相手として白羽の矢が立ったのだ。
義父はお母様と私をほぼ無視していたけれど、無体な真似はしなかったし、潤沢な予算が充てられたため裕福に暮らすことができた。
それについては私も感謝しているが、だからといって尊敬はできない。
義父はカルトリード辺境伯という座はしっかりと確保したが、バイロン・カルトリード個人としての義務は放棄したのだ。
(ようは、いいとこ取りよね。本当にずるい)
だからこそ今回の件は腑に落ちない点がいくつかある。
だれと手を組んでいようが、コートニーがカルトリードを乗っ取るつもりなら義父を裏切っていることになる。
10年以上も愛人でいたコートニーが、今になって義父を裏切ろうと考えたのはなぜだろう。
そういえば、半年前のアランお義兄さまを後継者に指名したあと、義父とコートニーが言い争いをしたという噂がチラリと聞こえてきた。
夫婦になにかしら問題が起これば、メイドたちが黙っていない。あっという間に噂は広まるのだ。
そのときも義父とコートニーの不仲説が流れたが、その後いつも通り仲睦まじく過ごすふたりの様子から、いつしか噂は立ち消えとなった。
よって夫婦仲はいまも良好のはずだ。
そもそも、義父とコートニーの言い争った内容は不明だ。後継者にはまったく関係なく、ただの痴話喧嘩だったとも考えられる。
しかし、義父が寝付いたこのタイミングでコートニーたちが、義父の毒殺未遂と後継者のすげ替えを表ざたにしたのは事実だ。
(お義父様は、本当に毒を盛られたのかしら? それともタイミングよく倒れたところを、コートニー達にうまく利用されただけなのかしら? 毒を盛られているとすれば、一番身近にいるコートニーがあやしいけれど……。)
個人的にコートニーについては思うところは多々ある。
それでも、コートニーが義父に毒を盛ったとはあまり考えたくない。
(コートニーはなにをかんがえているのかしら……。)
私は紙をめくり、コートニーの略歴ページを探した。
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